父からの電話。
当時の電話はプッシュではない
ダイヤルを回す真っ黒なタイプ。
何やら持ってくるらしい。
2月の極寒の頃であった。
夕食も済ませてコタツの四隅に
悪ガキ三人と母は脚を入れて
あったまっていた。
玄関の引き戸が開き
父が箱を抱えて入ってきた。
(こりゃーな、カニらが!みてみー)
おがくずの中にうごめく得体のしれない生き物
全身毛むくじゃらのカニ
毛ガニを初めて見た。
何でおがくずの中に入っているのか
全く分からない
それも4匹いた。
2月の日本海は荒れる
本当は新潟に舟で運ぶ予定が
佐渡汽船が欠航になり行き場を失ったカニがあり
父に引き取って欲しい旨の連絡があったらしい。
水道水でおがくずをあらい熱湯の中に
沈められた毛むくじゃらのカニ
大きいので一度に二匹が鍋に入れられた
カニのいいかざ(匂い)がしてきた。
ゆであがったカニが皿に盛られた
アツアツ
どうやって食べるかもわからないが
一本もらった
とりあえずかぶりつく。
いい塩味
とまー
そこまでは良かった。
切り裂かれた口が血だらけ
食い気が後も先もない。
見かねた父がハサミで切り身を出してくれた
最初からしてくれればいいのに
毛ガニ憎し!
ハサミで切って出してくれたカニは
それはそれは旨い甘い!絶品!
甲羅を割ってくれた
気色悪い色の味噌みたいなのが
べっとり。それがカニのミソなんていうのは
それから何年もしてわかった。
その気色悪いのをスプーンでとって
食べた。うーーん
何ともいえない濃厚な食い物。
要領がわわかった
毛ガニはかぶりついては
いけない食い物
丁寧にはさみか包丁で割ってから
その中のにくを食う。
血だらけの口はいつの間にか塩が
ふさいだのか
食い気で我を忘れたのか
ただただ旨い!
毛むくじゃらのカニとの
初対面と格闘の夜であった。