そのムラには伝説の漁師がいた。
漁師の頭には
磯場のカタチは全て入っていた。
男が動き出すと
静かな海がざわついた。
この語りはプロジェクトXだー。
どこの沿岸もそうであろう
村々には
川や岩
瀬の境目で漁業権を
設定してある。
それがいつ決まったのか
そして海図があるのか全く不明
知る由もないが
大人たちは知っている。
地元の漁師は舟の上から箱眼鏡で漁をする。
浅瀬や舟が乗り入れない
素潜り隊の悪ガキ兄弟の格好の穴場
父の血筋を受け継ぐ素潜り隊は
それはそれは腕がいい。
すべて父仕込み
私は小さいころから耳貫が下手で
いつも中耳炎
深いところは怖くて泳げなかった。
ある時素潜り隊はとんでもない話を決めた。
あの伝説の怖い漁師の縄張りに
戦いを挑む
そこはたぶん沢山いるであろうという
子供漁師の感である。
計画はこうだ。
自分の村の水域に舟を止て
そこから素潜りをして
縄張り水域に潜入する。
見張りは潜れない私
怖い伝説の漁師の舟が
みえたら兄たちに知らせる。
その舟は見分けがすぐつく
その舟しかその村は
いないからである。
きたきたー!
遅い船外機の舟が向かってくる。
採ったサザエやアワビは網に入れて
自分たちの縄張りの海に沈める。
釣り竿を垂らし魚を釣っているように
見せかける
(だめだろー!とったら捕まえる!)
真っ黒な顔の漁師はそれだけ
伝え立ち去る。
この伝説の漁師は
母方の親戚である。
いつも祖母の家で飲んだくれている
悪ガキの顔は知っている。
まんまとしてやったり
でかいアワビを20枚
サザエは200個。
とんでもない収穫。
舟を一路自宅下の浜に向ける。
父が待っていた。
目をまん丸にして
(巧者だな~!)
もちろん作戦は伝えてある。
父はアワビを相川の寿司屋に持って
行き売ってきてくれた。
もちろん帰りは寿司折付き。
そんな神経戦を数多くこなした。
昭和40年の頃はそれでも
子供がやることと
寛容な昭和の時代でもあった。