インタビュー:チョン・ジヒョン「死ぬまで演じたい」
映画『ラスト・ブラッド』でハリウッドに進出
映画の広報担当者4人とチョン・ジヒョン側のスタッフ6人で、ソウル市江南区新沙洞のあるカフェの中がごった返した。知らない人が見たら、CM撮影現場だと思ったかもしれない。韓国最高のスタッフが集まったからだ。多国籍合作映画の『ラスト・ブラッド』(6月11日公開)のプロモーションのため、アジア数カ国を回っているチョン・ジヒョン(27)のインタビュー現場は慌ただしかった。
同映画は、バンパイヤとの400年にわたる争いを終結させるため、決戦を繰り広げる16歳のバンパイヤハンター、小夜の活躍を描いた内容で、『攻殻機動隊』を手掛けた押井守原作のアニメを実写化した作品だ。日本、フランス、香港合作で、制作費3500万ドル(約33億7300万円)が投入された。
チョン・ジヒョンは長い脚を組んで45度ほど斜めに座ると、視線も正面ではなく、横に伸びている自分のつま先に向けた。時々大きな目で記者をじっと見つめる眼差しは、CMで見たことのあるつやっぽいものだった。
-ハリウッド進出作として注目されています。
「韓国映画ではなく、多国籍プロジェクトなのでわくわくしました。女優チョン・ジヒョンとして、新しいジャンルで皆さんにお会いできることになり、すごく緊張しています」
-自らを「女優チョン・ジヒョン」と呼んだように、韓国で女優として生きるのはどんな気分ですか。
「女優として生きるということは、残りの人生を美しく作って行けるということですよね。期待感を持たせてくれる職業です。時間が経ち、わたしの感情の幅が変わっていくのを感じながら、そういう変化が不思議に思えたんです。そういう変化に深みが加われば、どれだけ美しいことでしょう」
-CMのイメージに縛られているという評価もありますよね。
「“チョン・ジヒョンはCMスターだ”“演技力が足りない”そんな声をたくさん聞き、質問もたくさん受けました。わたしも人間なのであせるし、“違う姿を早く見せなくちゃ”と思いましたが、むしろ逆に、わたしは“女優”なのだから、あせる必要はないとも思いました。わたしはうまくやるつもりだし、いい姿を見せられるだろうから、あせる必要がなかったんです」
-しかし、自ら「演技のマンネリに陥った」とも言ってましたよね。
「マンネリというのは、どんな分野でも同じだと思います。CMのイメージに慣れてきているというのは、胸が痛む部分です。起きて、また起きて立ち上がれば違うものが出てくるものです。今日が過ぎ、明日が来るように、感情の幅を広げていけば、また表現することができる役柄も多くなると思います」
-「結婚説」に「携帯電話不正コピー事件」など、ニュースも絶えませんでしたが。
「芸能人、有名人として、“悲しい、辛い”と嘆きながら生きたくはありません。なぜそんなところにエネルギーを使わなければならないんですか。“携帯電話不正コピー事件”も、それ一つで芸能界のイメージダウンになるのではないか、そのことだけが心配でした。ご存じだと思いますが、あのときわたしの再契約について、人々の関心が注がれていたのは事実じゃないですか(チョン・ジヒョンが記者をちらりと見つめた。チョン・ジヒョンの手振りが大きくなった)。どんな人でも、その人の言葉を信じるのではなく、その人の行動を見て判断しなければならないと思います。皆さん心配してくれましたが、無事に解決しました。ただエンターテインメント、芸能界によくないイメージが生じたことについて、わたしにも責任がありますが、それが残念です」
-マネージメント会社のサイダス側が管理する「イメージ商品」という評価もあります。
「女優歴(11年)のわりに、さまざまな姿を見せることができなかったことについては反省しています。イメージに対する誤解や偏見もありますが、それを解消するには、早くいい作品で皆さんの前に出なければと思います。“女優”として死ぬまで演技をしたいという欲があります」
-原作を見ましたが、イメージがかなり似ていますよね。
「そうでしょ! 監督やスタッフが原作アニメと同じイメージで、原作に沿った演技を要求したんです。皆さん、その役にとても合っていたと評価してくれました」
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アジアの力を結集させた作品を、世界に届けたい
映画『HERO』『グリーン・デスティニー』で世界中にアジア旋風を巻き起こした名プロデューサー、ウィリアム・コン(ビル・コン)が再び各国の一流スタッフ、キャストを召集し、今度は日本発のフルデジタル・アニメ『BLOOD THE LAST VAMPIRE』を実写映画化。新たなアクションエンターテインメント大作『ラスト・ブラッド』を完成させた。本作で初の共演を果たしたアジアを代表する美女、チョン・ジヒョンと小雪を直撃し、撮影の舞台裏を語ってもらった。
Q:今回の共演をきっかけに、すっかり仲良くなられたそうですね。
小雪:女の子同士ってこともありますが、彼女(チョン・ジヒョン)のキャラクターがすごく人懐こくて、すぐに仲良くなりました。
チョン・ジヒョン:わたしは小雪さんをお姉さんとして慕っている部分があるんです。いつもお姉ちゃんの後を付いていく妹のような感覚ですね(笑)。
Q:お二人がこうして並ぶと、まさに美人姉妹という言葉がピッタリですね。お互いが持つ印象を教えてください。
小雪:会う前からすごくチャーミングで愛らしいイメージはあったんですけど、会ってみるとそれ以上に努力家でプロ意識が強い人だと思いました。いろんなことにチャレンジして、それをポジティブなものに変える力を持っている。それに日本の女優さんがしないような表情を見せてくれるのも魅力ですね。
チョン・ジヒョン:以前、映画『ラスト サムライ』を観たときから「こんな美しい女優さんがアジアにいるんだ」って驚きとあこがれを抱いていました。実際にお会いすると、とても温かく接していただいて、わたしの緊張も自然とほぐれましたね。今回、共演させていただいて、本当に光栄に思っています。
■内面に痛みを抱える“オニ”ハンター
Q:今回、チョンさんは人間界に巣食う“オニ”を退治するヒロイン、サヤを演じています。
チョン・ジヒョン:セーラー服姿で、日本刀を振り回す。そんなサヤのビジュアル面に惹(ひ)かれましたね。映画のヒロインとして、とてもカリスマ性があると思います。それと同時にその内面には“オニ”に対する復讐(ふくしゅう)心や大きな痛みが隠されている。クールな外面とは裏腹ですよね。そういったバランスをうまく演技で表現できればと思いました。
Q:本格的なアクションに初挑戦。ほとんどのシーンはご自身がこなしているそうですね。
チョン・ジヒョン:以前、映画『ラスト サムライ』を観たときから「こんな美しい女優さんがアジアにいるんだ」って驚きとあこがれを抱いていました。実際にお会いすると、とても温かく接していただいて、わたしの緊張も自然とほぐれましたね。今回、共演させていただいて、本当に光栄に思っています。
Q:小雪さんが演じるのはオニたちのボス的な存在、オニゲンというキャラクターですね。
小雪:悪役という意識はなかったです。彼女はオニとして自分の行動を普通だと思って生きているので、あくまで普通に演じようと思いました。人間が人間らしく生きているのと同じ感覚ですね。(プロデューサーの)ウィリアム・コン(ビル・コン)にも、オニゲンに関しては「美しく優雅に」という明確なイメージがあったので、そういった部分がうまく表現できればと思っていました。
Q:サヤとオニゲンが対峙(たいじ)するクライマックスが、作品の大きな見せ場になっています。
小雪:着物姿でワイヤーにつるさられて(笑)。でも、チョンさんのアクションに比べれば、わたしの苦労なんて……。メーキング映像で彼女の大変さを知って、思わず「よくやったね」って言ってあげたくなりました。本当の意味で「サヤを生きているんだな」と感じましたね。
Q:今回、チョンさんは初めて、小雪さんにとっても『ラスト サムライ』以来の海外作品への出演となりました。今後も、国際的な舞台で演技したいというお気持ちはありますか?
チョン・ジヒョン:今回は本格的なアクションに、英語のセリフとわたしにとっては初めて尽くしの現場でした。これまでの現場が、良くも悪くもリラックスした雰囲気だったと思い知らされましたね(笑)。何よりも自分自身がまだまだ未熟だって気付かされたんです。ですから撮影中は自然と「もっと自分を高めなければ」という気持ちが芽生え、おかげで成長できたと思います。今後、世界を目指したいという気持ちはありますし、何より自分が成長できる作品であれば、どんな企画にも参加していきたいですね。
小雪:海外がどうこうではなく、あくまで作品によりますね。それに今回、この作品に出演させていただいたのも、これまでの積み重ねがあった上での縁なので、今後も一つ一つの仕事に自分なりの意味を見いだしながら取り組んでいけたらと思っています。今回のようにさまざまな国のスタッフ、キャストが集結した現場は、自分自身にとって大きな刺激になりますよね。
■グッと視野が広がった魅力的な作品
Q:苦労が絶えない現場だったと思いますが、楽しい思い出はありますか?
チョン・ジヒョン:中国・雲南のロケ現場で、小雪さんをお迎えする日を、わたしはもちろん、スタッフ全員が指折り数えて待っていたんですよ。まるで特別な記念日がやってくるような気分でした。
小雪:えー、そうだったの? それはうれしいですね。わたしはオフの日に、チョンさんの自宅に招待され、韓国料理を振るまってもらったのがいい思い出かな。
Q:最後に公開を楽しみにしているファンの皆さんにメッセージをお願いします。
チョン・ジヒョン:今回、久し振りに日本のファンの方々に、自分の作品を観ていただくことになりました。アクションとホラーの要素が強いので、日本の皆さんにはなじみが深いジャンルの作品だと思いますね。アジアの力を結集させた優れた作品を、世界に届けたいという気持ちで頑張りましたので、ぜひたくさんの愛情を注いでください。
小雪:原作のアニメーションの魅力に忠実であるだけでなく、ジヒョンさんが主人公を演じることでグッと視野が広がり、原作を超えるような映画になったと思います。アニメの実写化で、そんなことはあまりないと思うのですが。「こっちがオリジナル」と思ってもらえるくらい魅力的な作品に仕上がったので、きっと満足してもらえるはずです。
キュートで愛らしいチョン・ジヒョンと、クールで聡明(そうめい)な小雪。その美しさに圧倒されながらも、作品に対する熱い思いと、ざっくばらんな二人の人柄がうかがえるインタビューになった。女性としての美しさはもちろんのこと、女優としての多面的な役作りと演技を堪能できる点が本作の大きな魅力といえるだろう。アジアが放つ“美の競演”に、きっと世界が嫉妬(しっと)するはずだ。
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チョン・ジヒョン インタビュー
「回し蹴りが最もうまい女優になったんじゃないかしら(笑)」
――初のアクション映画ですが、もともとアクションに興味があったのでしょうか? どのような基準で出演作を決めているのですか?
「私に限ったことではなく、俳優というのは、いかに良いシナリオ、キャラクターに出会えるかに興味を持ち、作品を探していると思います。『ラスト・ブラッド』に関しては、これほど本格的で専門的なアクションをやるとは思っていなかったんです(笑)。もともと原作アニメを見ていて、その時からサヤのキャラクターや映画の雰囲気に魅力を感じていました。いつかこういう役をやりたいなと思っていたら今回のオファーがあり、いただいたシナリオもとても気に入ったのでやることにしました」
――今回の映画に出て得たものは?
「数ある女優の中でも、回し蹴りが最もうまくできるようになったことかしら(笑)。今回の映画では刀さばきと同時に空中で回し蹴りしたり、脚を使うアクションが多かったんです。セーラー服を着ているので、回し蹴りをするとスカートが広がって、ビジュアル的に素敵に撮れるので。実際にやるのは本当に難しかったですけど」
――サヤは何百年間も孤独に生きてきた少女で、張り詰めた印象がありました。そうした役はアクション以外でも精神的に大変なのでしょうか?
今回はアクションを通しても感情表現をしたいと思っていましたが、そうしたことは肉体的にもさることながら、精神的にも本当に大変なことでした。でも、彼女の周りのいろいろな状況が、それを助けてくれたと思います。例えば、制服というものは、彼女の感情を隠してくれる装置、仕掛けでもあったと思います。そうした中でも、殺したオニに対して哀れみの情を感じているサヤを演じる時は、うまく彼女の内面をにじませることができたのではないかと思います。また、最初はサヤにとって大事なのは復讐心だけで、その他の感情は不必要なのかなと思っていましたが、彼女は出会った人々を通して忘れていた感情を取り戻していく。そうした過程を表現するのも、自分にとって新しい印象を与えてくれるものであり、とても惹かれた部分でした」
――その他にサヤに魅力を感じたところは?
「一番はやはり、表に出さない隠されたところにある心の痛みを抱えているところですね。あとは、彼女は一見すると10代の学生なのに、裏では刀を持って力を振るうというのが日常になっていて、そんな正反対の極端な姿を表現できるということが面白そうだと思いました」
――小雪さんとの共演はいかがでしたか?
「とても美しい女優さんですし、本当にたくさんのことを学ぶことができました。性格も率直な方で、私に対して良い印象をもっていてくださって、今はとても良いお友だちになれました。現場でもとても気楽に楽しくできました」