━━━━━━━━━━━━━━ vol.81 2016.05.16 ━━
☆ジャスミンライス流星群☆ 【ヒカルチチのメルマガ】
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こんにちは。
ライオンズジムマネージャーで、篠原光のトレーナー兼父親の、シノハラです。
お久しぶりの感じがしますがお元気でしたか。
わが家はまあまあです。
完璧ではありませんが少しずつ進もうと何とかやっています。
お互いがんばっていきましょう。
こないだは13日の金曜日でした。
13日の金曜日といえば、ヒカルが生まれた日も13日の金曜日でした。
だからと言ってなにというわけではないけど、13日の金曜日はなにかいいことがありそうな気がして好きです。
でもこないだは特に得したことはなかった。
いつものように朝と夕方に娘と運動をして、夕方には目が疲れてきて、夜は泥のように力尽きて眠りに落ちた。
まあそれはそれで幸せなことだと思うんですよ。
あ。そうだ。
左下の奥歯が強く噛む時だけ痛くてずっと気になっていたんだけど、歯医者に行ったらあっという間に治してくれた。虫歯ではなかったようで簡単だった。
もっと早く行けばよかった。
虫歯だと何ヶ月も通って面倒くさいと思っていたから。
よし。と動き出したら、悩みが五分で解決した。
13日の金曜日のおかげか。
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■市内中学陸上大会（1500メートル走）
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水曜日予定されていた陸上大会は、雨のために翌日の木曜日に延期された。
水曜日は曇りで、小雨が降ったりちょっと日射しが出たり、安定しなかった。
でも、気温は少し肌寒いくらいで、ランナーにはちょうどいいくらいだった。
木曜日は朝から快晴で、ゴールデンウィーク明けの初夏ということで、高い青空から強烈に照りつける太陽があった。
おれは朝から昼まで車であちこち移動していて、窓を全開にしてもなお暑いくらいであった。
ヒカルが出る1500M走は午後二時からなので、一時間くらい前にかみさんの会社に寄って、一緒に試合会場へ行った。
会場の所沢市の某中学校のグラウンドへ行くと、市内中学陸上部の全選手が集まっていた。
ピストルや熱い応援の声があちこちで聞こえたので、そんな若者の純粋な心に触れられて今日はなんて運がいい日だろうかと感じた。
ヒカルはどこだろうとグラウンド全体を目で探しながらうろうろ歩いていると、「ヒカルのパピイ」と三人組の女子に声をかけられた。ヒカルの学校の友達である。
全員体育着なのですぐわかる。
ヒカルの学校は陸上部が正式に活動していないので、ユニフォームがない。
「おう。ヒカルは？」と聞くと「あそこらへんでアップしてたよ」とグラウンドの向こうを指差した。
遠くを見ると、直線トラックをヒカルが一人で走っていた。
すぐわかった。色とりどりの他校のユニフォームの中で、白と紺の体操着は目立つ。
しかも、ヒカルは蛍光オレンジのシューズなので足元だけは激しく自己主張している。
「おまえら午前に競技終わったんだろ。何位だった」と友達に聞くと、全員びりかびりから二位だった。
びりから二位の子は「びりじゃなかった」と言って喜び、びりの子は「自己タイムが伸びた」とほっとしていた。
でも、本心で喜んだり安堵しているわけではなく、せっかく来たんだからほんの少しでも納得する材料があったので大会に出てよかった。という感じだった。
今年は、ヒカルの学校からは女子が五人出場した。
去年は三人だった。
男子選手も大幅に増えたようだ。
少しずつでも盛り上がるのはいいことだと思う。
陸上部について指導してくれているのは、女子バレー部顧問の学年主任で元レスリング選手の五十代くらいの男性教諭だ。
長期休暇や連休などに時間を作ってくれて、いちから陸上を教えてくれてありがたいです。
ヒカルの友達と喋ってたらもうすぐに1500M走のスタート時刻になった。
アップしていたヒカルがグラウンドをゆっくり横切りおれに近づいてきて、「おう」と言って手をあげた。いかり肩で、眩しそうに顔をかしげ、顎をひょこひょこさせて「どうも」みたいなしぐさをした。
この子は男子ですと言われても誰も疑わないだろうなという雰囲気だった。
おれの真似をしているのはすぐにわかった。
おれは普段こうやって、人に挨拶しているんだろうなと思った。
ふざけているわけじゃなくて、子供の思考やしぐさや喋り方はどうしても親に似てくるので、ふだん自分自身のふるまいには注意しなければならない。
ふと見るとヒカルの左足にテーピングが巻かれていた。
「アップしてたらちょっと痛くなったから自分で巻いた。でも走れるよ」とまた顎をひょこひょこさせながら言った。
先月から痛めているジャンパー膝がまた出たようだ。
ヒカルの学校から大会役員で参加している若い先生がおれに近づいてきて、「ヒカルさん、膝大丈夫ですかね」と言った。
おれは、「大丈夫ですよ。走り出したら忘れちゃいますよ」とは言ってみたもののやはりちょっと心配ではあった。
ピストルが鳴ってスタートした。
走り出したヒカルを目で追った。
スタート位置は大外だった。
ぐうっとスピードを上げてコース内側まで回り込んだ。
最初の一周目でスピードは落ち着き、先頭集団についた。
膝関節に自己流で巻いたテーピングなので、ちょっとぎこちない走りに見えたけどもうしょうがない。
先頭集団は、よく見る顔だった。
トップは去年一位だった選手で、フォームがやはり安定している。
そのまま、ラスト一周でラストスパートをかけて、二位以下に十秒くらい差をつけてゴールした。
余裕だった。
ヒカルは二位でずっと走っていたが、ラスト一周で追い上げてきた選手に抜かれた。
最後の直線で、そいつをもう一度抜き返そうとしたがだめだった。
けっきょく三位だった。
左膝は大丈夫そうだった。
タイムは去年の九月に同じグラウンドで走った時より、二秒速かった。
ジャンパー膝が発覚して、一ヶ月以上完璧な練習ができなかった中で、よく成長していると思った。
上位選手のほとんどが三年生で、この春の大会で陸上部を引退するので、中学の陸上生活の成果をぜんぶ出そうとすごい執念だろう。
しかも、二位までに入ると県大会に出る権利が与えられるのだから必死だ。
ヒカルはボクサーだけど、そういう変わり種が陸上大会で入賞に紛れ込むのがおもしろいと思う。
キッズボクシングの試合でも、空手やバスケなどの出身者が参加してくるのをたまに見るようになった。
なかなか動きがいいやつもいる。
そういう選手が活躍するのがおもしろいと思う。
元弁護士の人気ラーメン屋とか。元教師の大工とか。
適性を探す旅っていうのは人生そのものだし、正しい道と出会えればそいつは幸せだし、それを見る周りの人間もなんとなく幸せな気持ちになる。
ゴール地点にヒカルを見に行った。
おれは「よくやったな」と声をかけたが、ヒカルは体育座りで下を向いていた。
同じ学校の友達も来て、「ヒカル、お疲れ」などと声をかけたが、ああとかううとか下を向いたままであった。
着順を確認する係員の教師が、「篠原光さん、三位」と声をかけ、「はい」と座ったまま言った。
一位と二位の選手は、立ったまま、「お疲れ様。ありがとうございました」とお互いに挨拶していた。
この二人はライバル同士で友達で、ともに県大会出場できることがうれしくてしかたないという感じであった。
しばらくして、ヒカルが顔を上げて立った。
おれが、「がんばったな。よくやった」ともう一度声をかけると、「はい」と言った。
そしてみんなの労いの声にもへこへこ頭を下げて、一息つくと、「ちくしょう」と言った。
顔を見るとやはり男子にしか見えなかった。
今のところそんなふうに育っているけど、これが彼女にとって楽ならそれでも別にいいかなと思う。
おれは、「じゃあ帰るけどな。おれは先にジム行くから、後でマミイと来い」と校門へ向かった。
ヒカルはわかったと言ったあとで、おれを小走りに追ってきた。
「帰る前に、みんなで記念写真撮って」と小声で言った。
「みんなでさっき話してて、写真楽しみにしてたからさ」と言った。
走って負けたばかりでくやしいだろうに、いつ話してたのか知らないけど、みんなのことも覚えていてすごいと思った。
おれは、そういうことすぐ忘れてしまう。
おれはそうか。いいよと言って、また戻ってスマホで写真を撮った。
二年生の女子五人組だった。
みんなうれしそうだった。
ヒカルももう笑顔だった。
砂が汗でへばりついて全身真っ黒だった。
日焼けなのかもしれない。
そろそろ夕方で日射しも弱くなるだろう。
一日の終わりは寂しくなる。おれも中学生だった頃の夕方を思い出した。
太陽と砂と汗がどろどろと力を失って、地球が暗くなり、あの頃のおれはだんだん悪いことをしたくなって、学校帰りに寄り道をした。夕方はおれの友達も少し人が変わってしまったように覚えている。
おれたちの頃は今よりも人がたくさんいた気がする。
夕方にはみんな悪いことを想像するおばけになった。
街の光がそれをごまかした。おれたちは夕方の繁華街をよく走り回った。
あの日々はもう戻らない。
ぼくの遠い時間が戻らないように、君たちの今日一日も戻らない。
君たちは大人になったら、今をどんなふうに思い出すのだろうか。
そんなふうに女の子が五人並んだのを見ていた。
中学生は体育着が似合うなあと思う。
おれがもう一度帰ろうとすると、「ヒカルのパピイ」とまた呼ばれた。
おれが、あ。と振り返ると、「バイバイ」と五人が手を振った。
おれは、なんだそんなことかと思って「バカヤロ」と言って笑った。
夜になってヒカルがジムに来た。
一時間くらい集中して練習させて、今日はいいからもう帰れとおれは言った。
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■七輪
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ヒカルの膝の痛みがまた出た。一度収まってから数日後にぶり返した。
いつもはどんな痛みもだいたい二週間で収まっていたけど、今回ちょっと長引いていて厄介だ。
まだ完治していなかったのかもしれない。
整形外科ではジャンパー膝との診断で、オスグッドではないと言われた。
でも痛みの部位は明らかにオスグッドのところで、もしそうならきつい練習はさせられない。
繰り返し重みがかかるランニングや縄跳びなどは中断しなければならない。
それで、朝練はストレッチとシャドー、又はストレッチと森を散歩することにした。
ずっと続けていたことをいきなりやめて、これから治るまで一切何もしませんというわけにもいかない。
ボクシングはボクシングでどうにかしなければならないが、ヒカルは中二になったので勉強が本格的に難しくなってきた。
勉強をしている机の上をおれが横から眺めても、ほとんどわからない。というか、読む気にならないくらいに細かい字がたくさん書いてある。
ヒカルもうんうん言いながらよくやっている。
怪我や勉強など、おれがどうしようもできないことで娘が戦っており、おれはおれで仕方なく遊びに行く計画を立てたりカレーを作ったりしていた。
それはそれで楽しいもので、夜など本を読んだりパソコンをいじったり台所に立ったりしているうちに、さっきまで居間におれとかみさんとヒカルがいたのに、ふと気づくとおれだけが残っていて、二人とも寝てしまっているなどということもあった。
ヒカルの体調が悪いと家族が別々になってしまうな。
もっと家族は仲よくしなければいけないな。と反省した。
そんなある日のことだった。
夜ジム練習からおれとヒカルが帰ってきた。
おれの家は二階に居間も台所も風呂もあるんだけど、そこが全部電気が消えていて、ベランダにかみさんが一人でうずくまっていた。
おれは、こいつはやばいと思った。
かみさんが寂しくなって精神が壊れてしまったに違いないと思った。
「あれ、マミイ泣いてるのかな。ちょっと見てこい」とおれが言うと、ヒカルがベランダに行き、窓を開けてただいまと言った。
少し太った女の黒い影ががさがさと動いた。
ベランダに出て行ったヒカルの顔がぱっとうれしそうに変わった。そして、おれに言った。
「パピイ。マミイがずるい。肉を食べてる。ひとりで」と笑った。
ベランダに、新しい七輪があった。
かみさんが牛肉を焼いていた。
「まだ食べてないよ」と言った。
それでその日はみんなでベランダで、肉を焼いて食べた。
かみさんとヒカルが焼き具合や並べ方についてあれこれ言い合いながらやってた。
おれはビールを飲みながら、まだ夜は寒いなと思った。
昼間は直射日光が鋭くてあんなに暑いのに。
「こういうのを放射冷却現象と言うんだぞ」とおれはふと思い出して言った。
誰もが返事をしないので、「おいヒカル。昼間暑かったのに夜寒いのは、放射冷却現象と言うんだぞ。わかったな」と名指しで言った。
ヒカルは「わかったわかった」と言って、はいこれと少し焦げた肉を皿に乗せて持って来た。
おれは、「コノヤロ」と言って、一応それを食って「うまい」と言った。「インド人もびっくりだな」と言ってわははははと笑った。
もちろん二人は無視をした。
その夜から七輪は活躍していて、なにかうまくいかないなと家族の誰かが思うときに、ベランダに出て肉を焼くというのはいい考えだと思います。
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【編集後記】
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
U-15とUJ、小中学生ボクサーにとって二大トーナメント戦が夏の終わりまで続きます。
U-15は東日本でヒカルの階級に対戦相手がなく、認定で後楽園ホールでの決勝戦になります。
試合は9月11日（日）です。
UJは、関東大会が7月2と3日（土日）に駒沢大学で、東日本大会が7月16から18日まで（土から月）大宮公園体育館であります。
これに勝つと8月の終わりに、全国王座決定戦があります。これはまだ日時など未定です。
でも今年は、いずれも対戦相手がいそうです。
詳細が決まりましたらまたこのメルマガやブログでお知らせします。
応援よろしくお願いします。
できる練習をしっかりやって準備します。
あと二ヶ月くらいあるので、膝も治るんじゃないかと思っています。
みなさんも祈ってくださればありがたいです。
よろしくお願いします。
メルマガの感想や質問などどしどしお待ちしてます。
それではまた。
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