━━━━━━━━━━━━━━ vol.29 2015.4.30 ━━
☆ジャスミンライス流星群☆ 【ヒカルチチのメルマガ】
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こんにちは。
ライオンズジムマネージャーで、篠原光のトレーナー兼父親の、シノハラです。
4月26日と29日でアンダージュニア王座決定戦の東京選考会がありました。
ライオンズジムからは中学生の部に四名、小学生の部に一名エントリーしました。
女子の部は対戦相手がおらず、ヒカル(中学40kg級)とナミ(小学45kg級)が不戦勝で関東大会に進みます。
男子の方は全員、中学の新一年生。
結果だけ言うと、一勝もできず予選敗退でした。
小学生の部では全国優勝したことのあるカイとヒロムも、ほとんど何もしないまま2分間3ラウンドが過ぎ、試合終了のゴングを聞きました。
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■中学生の試合
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対戦相手の技術レベルが特別高いわけではなかった。
ただし、中学生の試合は、リング上に明らかに厳しい雰囲気が漂っていた。
それを感じたとき、おれはついこないだのできごとを思い出させた。
ヒカルの小学校の卒業式に出た二週間後くらいに、中学校の入学式に出席したときのことだ。
同じ町内にある小学校と中学校。
それなのに、まるで異国に来たかのような空気の違いに驚いたのだ。
小学校と中学校だもの。違うというのはもちろんわかる。だが、校舎の構造やそこにいる生徒や教師、希望や欲望や悪意などが複雑な色かたちをなして、小学校よりもずっと広い空間に漂う空気を重く感じさせたのだった。
場の空気を作るのは、そこにいる人間である。
ここは中学生の世界なのだ。
別の環境から来た人間は、ここにふさわしい人間に変わらなければならない。
ヒカルが中学生らしくならなければならないのと同じように、おれも中学生の親らしくならなければならないんだろうなあと緊張が走った。
中学生のリングは小学生のそれとは別の世界だ。
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■別の世界
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昔、タイに行って遊んだ。
ヒカルがかみさんのお腹の中にいるくらいの頃だ。
遊んだと言っても、一泊500円くらいの安宿街に泊まって、屋台のうまそうな食べ物を片っ端から食べて、よく理解できない地図を片手に道路を歩き回った。自動車が都心の五倍くらい走っているように感じた。排気ガスがひどくて、煙草を吸っていた方がましだった。煙草は一箱75円だった。
おれは安っぽいTシャツとサンダル姿だったが、日本人の観光客だというのはひと目でばれるらしく、セコい詐欺師に騙されてはいちいち面倒くさい時間を過ごした。
激怒して戦ったこともあったけど、自分に非がなくても謝ったり逃げたりしたこともあった。
気力が充実していないと他人とは向き合えない。
どうでもいいぜとかうつむいて呟いたと思ったら、その直後にコノヤロウバカヤロウとか叫んだりした。
おかしな毎日だった。
そんなふうにして一週間くらい、バンコクでうろうろしてた。
ちなみに、本来の目的はうろうろすることじゃなくて、個人輸入をやってみたかったのだ。
現金を二十万円くらい持っていて、一個百円くらいのものを数千個買って、日本に船便で輸送した。
日本に帰って、それを一個3000円くらいで売った。
違法のものではない。
それはそれで楽しかった。
ともかく、バンコクですべき用事が終わると暇になった。
二週間いる予定だったので、あと一週間どうしようかなあと思った。
使えるお金はそんなに残ってなかった。数万円くらい。
バスと船に乗って、南の島へ行くことにした。
コテージでぼけっとしてれば一週間くらいすぐに過ぎるだろうと思った。
無人島を開発途中の緑溢れる自然豊かなパラダイスだという話だった。
安宿の掲示板に貼ってあったタイ全土の地図を眺めていたときに、なんとなくここへ行こうと思いついたのだった。フロントの小太りの中年女はインド人のような顔の作りで、「ナイスビーチ。パラダイス。」とすごい早口で言った。
「ユーゴートゥーバスターミナル。パラダイス、ベリーイージー」と言っておれの目を見つめた。
その島へ行くために、ターミナルからバスに乗って、カンボジアとの国境近くにある港町まで行った。
運賃はなんと600円だった。
バスは冷房が効き過ぎていた。途中でパンケーキとジュースのおやつが出た。
一時間ごとに休憩所のガソリンスタンドのような場所にとまった。
四時間くらいして聞いたこともない遠くの町のバス停で降ろされ、ここからそれほど遠くない場所に船着き場があると言われた。
バスを降りるとバイクタクシーの男達が群がってきて、100円とか120円とか数字を言い、船着き場まで乗せてやるからと迫ってきた。
ずっとバスに乗っていたので、疲れて交渉する気力もなかったので、まとわりついてくる男達におまえらうるさい全員死ねと怒鳴って歩き出した。
背後で笑い声とか聞こえたが、一人の若いバイクタクシーがいつまでもついてきて、「ヘイ、ジャパン。ここから歩いて港までは行けないよ」と言った。「おれを信用して乗って行けよ。カモンカモン」と言い、おれはそいつのバイクの後ろに乗った。
港に着くと、そいつは「150円だ」と言った。
おれは高いなあと思ったけど払った。
もう夕方遅くなっていて、あと一時間もすれば真っ暗になりそうだった。
海は穏やかで、手漕ぎの船の上で、老人の漁師が網で魚を捕っていた。
ちょうど太陽が沈むところで、水も空もオレンジ色で、おれは船の待合所でビールを飲んだ。
まるで巨大な影絵を見ているようだった。鳥が鳴く声や船やバイクのエンジン音や砂を弾く音や、理解できない言葉で話す人々のざわめきがまるでとがった粒のように皮膚をちくちく刺した。
デッキの上に白黒のネコがいて、店員の女がイスに座って鳴き声を真似していた。
ネコは女を無視して、おれは女を見た。
女は、「島に行って、コテージは決まっているの?」と聞いた。
おれは「向こうで決める」と言うと、「無理よ」と言った。
船に乗った時間はもう真っ暗だった。
工業地帯にあるような油っぽい船体にほこりが貼りついたような鉄製の汚くて大きい恐竜のような船だった。
全体が錆びついていて、その錆もめくれあがっているところがまるでうろこのようだった。
船首で、薄暗い港の光にタイ国旗が揺れていた。布の端の部分が破れていたし、船の排気ガスですすけていた。
パラダイスに向かう者のうち、観光客らしいのは欧米白人グループとこぎれいな服を来たアジアの若者カップルとおれ。
褐色の肌で段ボールを抱えた現地人らしき痩せた数人の男がいた。
この巨大な船の中に、運賃を支払って乗っている人間がそれだけだと考えるとすごくこわい気持ちがした。二十分くらい乗って、運賃は200円だった。
時計を見ると、午後七時を回ったばかりだったが、あまりにも暗過ぎた。
船が大きく揺れて、港を出たのがわかった。
エンジンのがっがっがっという大きな震動があった。それからまるでアスファルトを破壊する工事が真横で始まったかのような轟音が始まり、耳に触れた髪の毛が小刻みに肌をくすぐり続けた。
船は暗闇の海を切り開くようにずんずん進んだ。
海の表面も船の震動で細かくしびれているんじゃないかと思うほどの騒音だった。
乗客はそれぞれのグループで、それぞれの国の言葉で話していて、こぎれいなアジア人カップルは韓国人のようだった。
おれは甲板でひとり黒い水の上をじっと見ていたがすぐにあきた。
空がむき出しのだだっ広い空間に並ぶパイプイスに座った。
考えなければならないことは何もなかった。おそらく今はそこも真っ暗であろう見知らぬ島へ運ばれる途中であった。天国であろうが地獄であろうがどっちでも同じように思えた。
わずかに設置された蛍光灯では辺りがぼんやりとしか見えず、もしかしたらおれはいつのまにかどこかで死んでいて、死者を処理する施設に送られている最中ではないのかなどと、時のつながりを疑ってみたりした。
すごく不安だった。
歩いていないと何をしていいのかわからなかった。
パラダイスなんか別に行きたくないと思った。
もう家に帰りたいと思った。
家に帰ると妊娠六ヶ月になる妻が待っているはずだったが、それも現実かどうか疑わしくなってきた。
汽笛が鳴った。
島が見えた。
港はなく、砂浜が見えた。
砂浜に木の柱がいくつか立っており、ロープが渡され、白熱灯がぶら下がっていた。周囲を明るく照らす目的というより、だいたいそこらへんを船をとめてくださいという目印程度の光量だった。
まさに無人島の入口だった。
欧米人の女が「島が見える。あそこが島だ」と言った。彼女の仲間が数人、暗い雰囲気を打ち消すようにわざとらしく拍手して奇声をあげた。
おれは何となく誰にも気づかれないように息を止めて、ゆっくりため息をついた。
自分が生きているのを確かめようとしたのかもしれない。
島には暗がりの中に森があり、見渡す限り深く葉が覆い茂り、不気味に揺れているのがわかった。
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■違和感
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島には三日ほどいた。
確かにそこは天国だった。
おなかが空くと、捕れたての魚をその場で焼いてくれる屋台に行った。
カヤックで沖を渡り、コテージの従業員とバレーボールをしたり、青空に突き刺さったような鋭い崖から落ちてくる滝を見に行ったりした。
ハンモックで本を読んだり、疲れれば部屋に戻り太い竹で作られたベッドで全裸で寝るのもよかった。
少し離れたビーチで毎晩パーティをやってたし、少し歩いて夜空を見上げれば、宇宙を散歩しているかのようなきらめきの絨毯が敷きつめられていた。
三日が過ぎて、おれはもう帰ろうと思った。
よく一緒に遊んだやつらは、「まだいろよ」と言った。
おれはもう帰らなきゃと言ったけど、別に用事があるわけじゃなかった。
でも日本に帰るまであと四日残っていたから、別の場所に行くチャンスがあると思った。
ここに来る船内で感じたような、居心地のよくない、薄気味悪いような、違和感。
おれはそれがすごく好きだと思った。
違和感が解消したとき。
人間が成長したということになるかどうか、おれにはわからない。
ただ、すっきりする感じが好きだから。
とめていた息をゆっくりと吐き出し、また吸った酸素が赤血球に乗り、血液を軽快にかけ巡る姿を想像して、ぼくは快感を覚える。
新しくてきれいなものが血液を流れながら、体じゅうで分け合っているのを脳みそが感じることで、もっともっとやりたいことができて、挑戦する気持ちになるのはきっといいことだと思うんだ。
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【編集後記】
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六年間、女子小学生の親として生きてきた。
子供が中学生になったその日からおれは、女子中学生の親ということになった。
さっさと変わらなければならない。
昔を引きずってはいけない。
文明社会、時の流れとともに景色はすごいスピードで後ろへ後ろへと通り過ぎていく。
文句なんか言うな。
それはぼくら人間が作り出したものだ。
五年前の街の風景はもうない。
感傷なんかいらない。
なんかの拍子にあの思い出の場所で会えたら、また砂浜に並んで座って、缶ビールでも飲みながら、ちょっと話せればいいよね。
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今日はちょっと長かったですね。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
感想や質問など、どしどしお待ちしてます。
今回は音声はなしです。
楽しみにされていた方には申し訳ない。
それではまた。
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