駅が改装されるとどこもだいたい同じ雰囲気になる。
何もかもが新しいしきれい。
広告掲示板も読みやすいし空気まで澄んでいるように感じる。
歩いているひとたちも素敵に見えるし心まで美しく思えるんだ。
今はもう煙草なんか吸う人間はいない。
今はどうだか知らないが、昔アメリカに行ったときに一箱700円くらいした。東南アジアのある町では70円くらいだった。
くすんだ色のコンクリートでできた建物ばかりが並ぶ暑い町に数日間いた。
何でも屋の子供が苔みたいな色の葉っぱをどでかいプラスチックバッグいっぱいに詰めたのをおれに差し出した。
煙草よりずっと安いぜ。買えよ。ジャパン。おれたちは煙草のかわりにこれを吸って良くなるんだぜ。
でたらめな英語をすごく早口でしゃべる子供だった。
薄茶色の前腕に赤と青の花の刺青が鮮やかだった。
こうやってやるんだと言って子供は薄い紙に葉っぱを乗せて器用に巻いた。
火をつけると紙が焦げたにおいのあとで甘く濃い煙が視界を揺らした。
紫の蜘蛛の糸にからまってもがく虫の気持ちが。
捕えられているうちに蜘蛛の糸は一気に容量を増してぼくはもうこれ以上動けない。
おまえにはきっと悪い種類の人間の血が流れているんだ。
おれがそう言って睨むと少年はにやりと笑った。
おれも笑わないわけにはいかなかった。
そうしないと負けるような気がした。
じゃあこっちに来てトカゲの干物を買えよ。煮て飲むとどんな病気でもすぐなおるぜ。
おれのおじいさんがやってる店はすごいんだぜ。
カブトムシもいるぜ。この県の森にしか住んでいない特別なカブトなんだ。ジャパンがよく買っていくぜ。地球で一番でかいカブトだぜ。飛行機にどうやって持ち込むか教えてやるよ。おまえだけに特別だぜ。せっかくおれたち出会えたんだからな。
10センチくらいのミニカンガルーも売ってるぜ。政府が中国と共同で開発したんだ。知能がすごく高いんだぜ。訓練すれば五メートルくらいの高さまで飛ぶらしいけどな。やってみなよ。
そうそう。おれのいとこの友達の女はジャパンがすごく好きなんだ。もしよかったら会ってやってくれよ。何してもいいぜ。あいつはぜったい怒らないんだ。どんな方法でやってもいいぜ。
その気になったら電話くれよ。
いつでもいいぜ。おれは寝ないんだ。インソムニアだからさ。いつでも電話してくれよ。マイフレンド。
飛んでいくよ。
おまえのためなら当たり前だろ。ジャパン。
いつかニッポンに行ったらおまえの家に泊めてくれよ。
いいだろ。おれたちは友達だもんな。
何か他に欲しいものないのか。何でも言ってみな。何でも持ってくるぜ。
何の話だっけな。
そうだ。
おれは古い駅が好きだよ。
すごくたくさんの人間がいてみんな遠くの町まで行きたがってるんだ。
できるだけ安い値段で。
構内には古い神社があってそこには白い小さな花が供えてある。
コンクリートの床や階段の薄い壁ははひび割れている。
何十年も前からの煙草のにおいがしみ込んでる。
別れたひとたちの幾千の思いが煙や埃の粒に混じってふわふわ浮いてる。
そういうのを感じるのがすごく好きなんだ。
新しいからって全部が全部良いわけじゃない。
あんまりいばるなよ。
