初めて会うのにそんな気がしなかった。
おれは待ち合わせの場所を場外馬券売り場の入口にしようと書いた。
彼女はいいよと返事をくれた。
おれたちは文通相手みたいなものだった。
平日の夕方だった。
場外馬券売り場は週末のレースに勝った人間が換金に来るだけのためのものだ。
まばらに出入りする男たちを見るでもなく彼女は汚れたアスファルトにしゃがみこんでいた。
彼女はイヤホンで音楽を聴いていた。
初めて彼女を見たとき汚れた野良猫を想像した。
おれは路地をはさんでしゃがんでいた彼女を眺めた。
おれは突っ立ってた。
彼女はおれだとすぐわかった。
しばらくそうやって見つめ合った。
長い時間、女を見下ろすなんて初めての経験だった。
彼女は本当に野良猫みたくおれを上目遣いに見ていた。
警戒心。
あたし本当は十九歳なんだと言った。
彼女はおれのことは好きにならないだろうと思った。
だから、映画が好きかと聞いた。
彼女はうなずいたからそのまま映画館へ行った。
船が沈んで大変なことになってしまう内容の映画を見た。
長い映画だったからおれは彼女の指を触った。
指と指の間に指を入れた。
ゆっくりと動かしたら彼女はちょっとためらうみたいに動いて肩を固くした。
スクリーンの光が動いていたけど彼女の横顔は動かなかった。
目はまっすぐ前を見ていた。
おれは彼女の横顔を見つめていた。
だってこの映画は何度も見たやつだから知ってるんだよ。
映画が終わって高層ビルにのぼった。
おれが大好きなビルに誘ってのぼった。
ビルの中空に渡り廊下があってそこを歩くのが好きなんだ。
展望台で肩を抱いた。
おれは今日でさようならだと思ってたからすごく適当に扱ってしまった。
適当にいろんな話をした。
夜の公園に連れていった。
ずっと自分の話をしたかと思うとふと気がついて彼女にしゃべらせたりした。
彼女の終わってしまった恋の話を聞きながら頷いたりしながら胸の大きさを見たりしてみた。
気まぐれにあちこちに連れ回して、終電ぎりぎりになったころに手をつないで走って、ようやく駅に間に合った。
彼女は茨城県からわざわざおれに会いに来てくれた。
ごめんね。たいしたことできなかったけど。
決してお金が惜しかったわけじゃないけど、彼女と別れた後にぜんぜんお金を使ってなかったことに気がついた。
なんかつまんないおもいをさせてしまったかもしれないのが悔しかった。
そうしたら一週間後に彼女から連絡が来た。
会いたいって言われた。
へんな気分だった。
あの夜で終わりでいいと思ってたけど。
それでまた会うことになった。
今度はこないだの街とは違うところを選んだ。
おれたちは会えなかった。
おれは夕方の光に誘われてすっぽかしてしまった。
おれは本当は彼女を抱かなければいけなかったのだけど。
面倒はいやだった。
おれはいやな大人になったのかなあと思った。
抱いてやればいいのに。
彼女は野良猫で、今おれに抱かれたがってるなら。
ぼくは猫についてはこれっぽっちも知らないふりができる薄汚れた大人だ。
本当は知ってる。
君がどうなりたかったかを。
でもそんなことはできない。
