自分でもそれは酷く単純で滑稽なものに見えた。 
丸々四年間冬眠し続けていた感情がこんなところでようやく目を覚ますなんてなかなか驚きだった。
それは純粋に久々に惜しげもない優しさに触れたせいで勘違いしたかのようにも思えたし、下心のない潔癖さに単純に意外性を抱いたようにも思えた。
どちらにしてもそれはある感情に一直線に線を結ぶには遠すぎて、何かその線をはっきりと明確にしてくれる定規みたいなものが私には必要だった。
なにせ久々の感情の高ぶりだった。自分も戸惑うほどそれは突然だった。
でも、自分がまだ幼い少女だった時代とはまた少し違う。
甘い砂糖菓子のような優しいものではなくて、その感情の現実は砂糖もミルクもない珈琲みたいに口の中に苦味を広げた。
どうせなら、これは勘違いであってほしいと、優しさにたまたまくらっと目眩を起こしただけだと、そう思いたかった。現実はどう見たって私を不幸にするだけ。
私は自分で自分をもう少し利口な女だと思っていたし、他の女の子みたいに恋に溺れてゴーグルもなしにその水中のぼやけた世界をぼやけたまま見つめるような、そんな女ではないと自負していて、現実的に品定めが出来る人間だと、そう思っていたのだ。

「もし運命が変わってたら、きっと君を好きになっていたよ。」

そんな何の慰めにもならない台詞なら聞かせないで欲しかった。
貴方は誰にでもそうだから、期待なんてしないけど、一瞬でもそれを胸にぎゅっと宝物みたいに抱きしめてしまう私の愚かさに苦虫を潰したみたいにじわじわと嫌な感情が溢れる。

「ありがとう。」

私はそう言って余裕そうな笑みを浮かべて貴方に言葉を返し、心の中でさっきの言葉を何度も何度も並べてはドミノみたいに崩す。
期待なんてしてない。
私はいつもそう。
我が儘も言わないし、強要もしない。
ある一種の感情を抱いてしまった人に対して、困らせたくないという情がいつだって裏目に出ることを知っていた。
我が儘を言われる方が好きだってことも、良い子すぎることで相手が私から離れてしまうであろうことも。
私はちゃんと分かっていた。
つくづく自分は不器用で恋の駆け引きには不向きだ。

「運命が変わってしまえば良かったね。」

そう、口に出したらどうなっただろうと、心の中で思って行動には移さず、いや結局移せない私は自分を密かに嘲笑う。
彼は困ったかもしれない。でも、その反面私を少しは意識したかもしれない。
そのわずかな可能性すら、私は投げ打って保険に走る。
絶対に間違えない無難な言葉で私は自分を隠す。
本心を隠すのは得意だった。
むしろ本心を曝け出すのが苦手だった。



「運命なんて変わってしまえば良いのに。」


心の中の核が叫ぶ。
私はその叫びを聞きながら、耳を塞ぎ、目を閉じ、貴方の口から出た私を切り裂くナイフでズタボロにされる。


「私には無理よ。運命なんて、変えられっこないの。」

ナイフが刺さるたびに、自分では無理だとそう言われているような気がした。
私じゃ叶わない。
貴方が幸せにしたいと思うのは私じゃないから。
もっと刺してほしい。
もう立ち上がる気力すら無くなるほど。
いっそこの感情ごと殺して欲しい。
貴方のナイフで、私のこの愚かな想いを殺して欲しい。


「いつか、きっと幸せにしてくれる人が現れる。」

なんて、それなら早く私の目の前に連れて来て。
そうしたら、もう願わないわ。

私は貴方と幸せになりたい。なんて、
もう、願わないから。



fin.




ちょっと前にTwitterで書いていたtwnovel。
最近ブログの更新度がめちゃくちゃ低いのでまとめてみました。





シュガーソングとビターステップにハマってる紅都 蓮