と、いうわけで、解答編である。出題編はこちら



この問題の場合、対象が「ランドタートルの前」と限定していることに注目してもらいたい。

もし、「FF3でも、ボス戦の前にセーブポイントを入れるべきだろうか?」

という問題であれば、解答はまったくちがったものになる。


つまり、この問題では「ランドタートルの前」とあえて断る理由が、あるのだ。

では、「ランドタートル戦」を見てみよう。


FF3の最初のボス戦である「ランドタートル」は、非常に特徴的なボスだ。

以下に、その特徴をあげる。


・ 初期のまま、レベルをあげずにいっても、

  道中拾えるアイテム「南極の風」を使えば、楽に勝ててしまう

・ 逆に、使わずに倒そうとすると、それなりの慣れやレベルが必要となる

・ 「南極の風」は、使うとなくなってしまうアイテムである


はじめの2つは、FF3のゲームデザインの根本、といってもいいだろう。

FF3のバランスは、たいていの場所において、

「レベルあげをするよりも、ジョブやアイテムを駆使したほうが、カンタンに突破できる」

というゲームバランスになっている。


それを、最初のボス戦から教えようというのが、

このボスの配置意図であることがうかがえる。

製作者としては、「南極の風」を使うと強いことを知ってもらいたいのだ。

ボス相手に、「弱点をつく」ことがどれだけ有効かを、教えたいのだ。



さて、ここで、こういう状態を想定してもらいたい。



「南極の風をとって、ザコに使ったあと、セーブしてしまった」


……このプレイヤーに対しては、救済する方法がない。


彼には、回復の泉を利用して、レベルあげをしてもらうしかないのだ。

これでは、上の意図とまったく違い、

「困ったらレベルあげをすればいいのだ」という印象を与えてしまいかねない。


セーブポイントがなければ、だれもが、いずれは、

アイテムの効果に気づき、この構造も理解できるだろう。

つまり、ここにセーブポイントを置くことは、

「本来、ボスを配置した意図を壊してしまう」行為なのである。



余談だが、この、「アイテムを駆使すると強いボスもあっさり倒せる」という戦闘システムは、

FF3以前にもいくらかみうけられた。

だが、FF3が特徴的とされるのは、このシステムを、「ほとんどのボス敵に対して」用意したことだ。

これは、以降のFFにも引き継がれ、

以来、FFの戦闘システムを代表する設計思想になっている(*1)。



……議題がわきにそれた。


つまり、「このままのバランスでセーブポイントを置くのは望ましくない」

これが、解答である。


ただし、再挑戦の面倒くささや、「たかが5分でもやりなおしは厳しい」と考えるなら、

以下のような方法を用いれば、セーブポイントをおいても問題はないだろう。

・ 「南極の風」が宝箱から何度でもとれるようにしておく

・ ザコ敵の一部が、似たようなアイテムを落とす

・ セーブポイントのあと、ボス戦の前に手にはいるようにしておく


ここまで解答できれば、結論がいずれでも、問題はない。

あとは全体設計の話なので、カンタンに結論がだせるものでもないから、ここでは割愛する。



……少々ヒントが恣意的だっただろうか。



この問題の、本来の出題意図は、

ゲームデザインにおいて、「こう変えたほうがいいのでは?」ということを

実現に移すには、本当に細かく、いままでのデザインを見直す必要がある、という点である。


「セーブポイントを置いたほうがいいのでは?」と考えるところまでは、いいのだ。

だが、

「おいたら、どういう問題が生じるか?」

「もともとの意図が破壊されることにはならないか?」

そういうことに気を配らなければならない。


たかが「セーブポイントを置く」というだけの行為にしても、

原作には、それだけ細かい意図がなされていることを考えねばならない。

つまり、この問題は、

「FFのゲームデザイン上、ボスの前にセーブポイントがあるべきか?」という問題ではなく、

「セーブポイントをここにおいても大丈夫か?」という問題だったのだ。


魔道士ハインのいるダンジョンに、なぜミニマムをくれるNPCがいるのか。

なぜMPを回復できるツボがそばにあるのか。

「そこにセーブポイントがないのはなぜなのか」。

セーブポイントを置くとしたら、どういう配慮がいるのか。



「ゲームをデザインする」というと、一見、派手な、思想的な部分が目に浮かぶ。

だが、実際には、こういう「細かい配慮」ができるかどうかが、

ゲームのよしあしをわけることも、決して少なくはないと思うのだ。


ミニマムを捨ててしまっているかもしれない。

南極の風をザコにつかってしまっているかもしれない。

ゲームに慣れたプレイヤーであればあるほど、このポイントは見逃しやすい。



……「FF3のボス戦の前にセーブポイントをおくべきか」という問題については、

需要があれば、またいずれ。



(*1)逆にいうと、いまさらあえて教える必要はない、という見方もできるけど……。

(*2)また、全滅した場合、名前とEXPを引き継いで最初からやりなおすようにする、

というスタイルも次善の策として挙げられるだろう。