映画「A」感想

はじめに

森達也監督による1998年公開のドキュメンタリー映画「A」は、オウム真理教事件後の荒木浩を中心に、教団の残党たちの姿を追った衝撃的な作品です。150時間にも及ぶ膨大な映像素材から構成されており、オウム真理教の真実と、彼らを取り巻く社会との複雑な関係を深く抉り出しています。

圧倒的な映像とリアルな音響

本作最大の特徴は、家庭用デジタルカメラで撮影された臨場感溢れる映像と、編集によって克明に再現された当時の音響です。荒木浩の日常や教団の内部活動、信者たちのインタビューなどが、ありのままに記録されています。特に、地下鉄サリン事件後の荒木浩の心境変化や、教団に残留した信者たちの葛藤は、観る者に強いインパクトを与えます。

多様な視点と倫理的葛藤

「A」は、単なるオウム真理教の記録映画ではありません。荒木浩や信者たちへの深いインタビューを通して、彼らの人間性や思想を多角的に描き出しています。また、当時のマスコミや社会のオウム真理教に対する偏見や差別も露呈させ、観る者に倫理的な葛藤を投げかけます。

観る者に問いかけるメッセージ

森達也監督は、オウム真理教事件を断罪するのではなく、なぜこのような悲劇が起こってしまったのか、その原因を探求しようとします。そして、私たち自身が持っている偏見や差別意識、社会の構造的な問題に警鐘を鳴らしているのです。

映画「A」の意義

公開から20年以上経った今でも、「A」は色褪せることのない重要な作品です。オウム真理教事件の真相を知るための貴重な資料であると同時に、現代社会における人間の狂気と救済について深く考えさせられる作品と言えるでしょう。

以下、映画「A」の感想をより詳細に述べていきます。

1. 荒木浩という人物

本作の主人公である荒木浩は、元オウム真理教広報部副部長であり、事件後も教団に残留した人物です。彼は、麻原彰晃を深く信仰し、教団の活動に積極的に参加していました。しかし、地下鉄サリン事件後は徐々に信仰に疑問を抱き始め、教団との距離を置き始めます。

荒木浩は、非常に知性的な人物であり、論理的に話すことができます。しかし、その一方で、強いカリスマ性を持つ麻原彰晃に心酔し、彼の指示に従うことに何の抵抗もありませんでした。彼は、オウム真理教の教えを真摯に信じ、理想社会の実現のために尽くそうとしていました。

しかし、地下鉄サリン事件という悲惨な事件を経験したことで、荒木浩は次第に信仰に疑問を抱き始めます。彼は、教団の犯罪行為を目の当たりにし、自分が信じていたものが何だったのか、深く悩むようになります。

荒木浩の姿を通して、私たちは人間の信仰の強さと脆さを同時に見ることができます。彼は、真摯に理想を追い求めた結果、とんでもない罪を犯してしまうことになりました。しかし、その一方で、彼は自分の罪を深く反省し、償いようのない罪悪感に苦しんでいます。

2. オウム真理教の残党たち

本作には、荒木浩以外にも、地下鉄サリン事件後に教団に残留した信者たちが登場します。彼らは、それぞれ様々な理由で教団に残留しており、事件に対する罪悪感や葛藤を抱えながら生活しています。

中には、事件を正当化し、麻原彰晃を崇拝し続ける信者もいます。しかし、多くの信者たちは、自分が犯した罪を深く反省し、社会に復帰しようと努力しています。

彼らの中には、家族や友人との関係が断絶され、社会から孤立している人もいます。また、就職や住居探しなど、様々な困難に直面しています。

しかし、彼らはそれでも希望を捨てずに、新しい人生を歩んでいこうとしています。彼らの姿は、私たちに勇気と希望を与えてくれます。

3. マスコミと社会の偏見

彼らは、差別や偏見によって、職を失ったり、住居を失ったり、様々な苦難を強いられました。中には、家族や友人からも裏切られたり、暴力を振るわれたりした人もいます。

このような状況の中で、オウム真理教の元信者たちは、社会に復帰することが非常に困難でした。彼らは、周囲から常に監視され、疑いの目で見られ続けました。

本作は、このような社会の偏見や差別が、オウム真理教の元信者たちの更生を妨げているという問題を提起しています。

4. オウム真理教事件の教訓

映画「A」を通して、私たちはオウム真理教事件から多くの教訓を学ぶことができます。

まず、私たちは、どのような思想であれ、盲目的に信じることの危険性を認識する必要があります。オウム真理教の信者たちは、麻原彰晃の言葉を鵜呑みにし、彼の指示に従うことに何の抵抗もありませんでした。その結果、彼らはとんでもない罪を犯してしまうことになりました。

私たちは、常に批判的に考え、自分の頭で判断することが重要です。誰かの言葉を鵜呑みにするのではなく、自分で調べ、情報を確認する必要があります。

また、私たちは、偏見や差別をなくすために努力する必要があります。オウム真理教事件後、多くの元信者たちが偏見や差別によって苦しみました。これは、決して許されることではありません。

私たちは、すべての人々が平等に尊重され、差別を受けずに生きていける社会を作っていく必要があります。

5. 映画「A」の功績

映画「A」は、オウム真理教事件の真相を明らかにし、その背後に潜む人間心理や社会構造を深く抉り出した重要な作品です。また、オウム真理教の元信者たちの苦悩や葛藤を描き出すことで、私たちに深い感動と共感をを与えてくれます。

本作は、公開から20年以上経った今でも、色褪せることのない重要な作品であり、今後も多くの人々に観られ続けることでしょう。

おわりに

映画「A」は、単なるドキュメンタリー映画ではありません。オウム真理教事件という悲劇を通して、私たちに人間の狂気と救済、そして希望について深く考えさせてくれる作品です。

この映画をを観ることで、私たちはオウム真理教事件の真実を知り、そこから多くの教訓を学ぶことができます。また、偏見や差別のない社会を作っていくために、私たち自身が何をするべきなのかを考えるきっかけとなるでしょう。