映画「死刑にいたる病」感想

はじめに

2022年公開の映画「死刑にいたる病」は、白石和彌監督による衝撃的な心理スリラー作品です。櫛木理宇の同名小説を原作とし、24人もの少年少女を殺害した稀代の連続殺人鬼・榛村大和(役所広司)と、彼に奇妙な手紙を送り交流を始める大学生・筧雅也(小栗旬)の間に繰り広げられる心理戦を描いています。

1. 緻密な脚本と圧倒的な演技で紡ぎ出される、息詰まるような緊張感

1.1 原作との巧みな融合とオリジナル要素

本作は、原作小説のエッセンスを巧みに活かしながら、映画ならではのオリジナル要素も加えています。例えば、榛村と筧の会話シーンでは、原作にはないセリフやエピソードが加えられており、より深みのある心理描写となっています。

また、映画では原作よりも榛村の過去や内面が掘り下げられており、彼の狂気と孤独がより鮮明に描かれています。

1.2 役者陣の圧倒的な演技

役所広司は、底知れない狂気と知性を持ち合わせた榛村を怪演。飄々とした話し方の中に垣間見える凶悪性は、まさに本作の核となる存在です。

一方、小栗旬は、榛村に翻弄されながらも真実を探求していく筧を繊細かつ力強く演じています。二人の演技はまさに火花を散らし、観る者を圧倒します。

1.3 緊張感溢れる演出

白石監督は、巧みなカメラワークや編集によって、常に緊張感溢れる映像を作り上げています。特に、榛村と筧の会話シーンは、密室でのやり取りであるにもかかわらず、非常に開放的な印象を与えます。

これは、カメラが二人の表情や仕草を常に捉えているため、観客がまるで彼らの会話の中にいるような感覚になるからです。

2. 善悪の境界線に揺さぶりをかける、倫理的な問い

2.1 悪を正当化する榛村

榛村は、自らの犯行を正当化し、世間の常識や倫理観をことごとく覆すような言動をします。彼は、人間は生まれつき善悪の区別がなく、環境によって善人にも悪人にもなることができると主張します。

また、彼は社会の矛盾や理不尽さを批判し、死刑制度を否定します。

2.2 苦悩する筧

筧は、榛村と対峙することで、自身の正義感や価値観に揺らぎが生じ、苦悩していきます。彼は、榛村の言葉に共感してしまう部分もある一方で、彼の狂気と残虐さに恐怖を覚えます。

そして、次第に榛村に翻弄され、自身の行動が正しいのかどうか分からなくなっていきます。

2.3 観客に問いかける倫理的な問い

本作は、観客に以下のような倫理的な問いを投げかけます。

  • 悪とは何か?
  • 善悪の境界線はどこにあるのか?
  • 人間は生まれつき善悪の区別があるのか?
  • 死刑制度は必要なのか?
  • 犯罪者にも生きる権利はあるのか?

これらの問いに対する答えは一つではありません。観客は、それぞれの価値観に基づいて答えを導き出す必要があります。

3. 観る者に深い余韻を残す、衝撃的なラスト

3.1 様々な解釈が可能な結末

本作のラストは、非常に衝撃的で、観る者に深い余韻を残します。様々な解釈が可能な結末は、観客の想像力を刺激し、映画を見た後もなお、考えさせられることでしょう。

3.2 余韻を深める演出

ラストシーンでは、あえて説明的なセリフを排し、映像と音楽だけで余韻を深める演出がされています。

これは、観客にそれぞれの解釈を自由にさせるためであり、本作の奥深さを表しています。

4. 死刑制度や犯罪者の人権など、現代社会に問いかける問題

4.1 死刑制度への問いかけ

本作は、死刑制度に対する賛否両論を巻き起こしています。

榛村は、死刑制度を否定し、犯罪者にも生きる権利があると主張します。彼の言葉は、死刑制度に対する賛否両論を巻き起こし、観客に問いかけます。

4.2 犯罪被害者遺族の苦しみ

本作では、犯罪被害者遺族の苦しみについても描かれています。

筧の妹・真央(原田美枝子)は、幼い頃に榛村に殺害された姉を持つという過去を抱えています。彼女は、榛村への憎しみと、死刑制度に対する複雑な思いを抱えています。

真央の苦しみは、犯罪被害者遺族が抱える苦しみを象徴的に表しています。

4.3 犯罪者を取り巻く社会の偏見

本作では、犯罪者を取り巻く社会の偏見についても描かれています。

榛村は、死刑囚であるというだけで、周囲から差別や偏見を受けます。

これは、犯罪者に対する社会の偏見が根強く残っていることを示しています。

5. 賛否両論を巻き起こす衝撃作だが、見る価値のある作品

「死刑にいたる病」は、その衝撃的な内容と倫理的な問いかけから、賛否両論を巻き起こしている作品です。しかし、間違いなく見る価値のある作品と言えるでしょう。

本作は、単なるエンターテイメント作品ではなく、観る者の心に深く突き刺さるような、メッセージ性の強い作品です。ぜひ多くの人に観ていただき、感想を共有していただきたい作品です。

以下、本稿では省略した内容の詳細です。

1. 原作小説との比較

  • 原作小説では描かれていないシーンやセリフが映画では追加されている
  • 映画では、榛村の過去や内面がより掘り下げられている
  • 映画の方がエンターテイメント性が高い

2. 登場人物それぞれの魅力

  • 榛村大和:底知れない狂気と知性を持ち合わせた稀代の連続殺人鬼。役所広司の怪演が光る。
  • 筧雅也:榛村に翻弄されながらも真実を探求していく大学生。小栗旬の繊細かつ力強い演技が印象的。
  • 阿川真央:幼い頃に榛村に殺害された姉を持つ。原田美枝子の演技で、犯罪被害者遺族の苦しみを表現している。
  • 高市明文:筧の友人。橋本淳のコミカルな演技が、作品に緊張感を和らげる。
  • 保田倫子:榛村の担当弁護士。松坂桃李の知的な演技が光る。

3. 美術や音楽などの効果的な演出

  • 美術:殺伐とした雰囲気の刑務所や、閉塞感のある筧の部屋など、物語の雰囲気を効果的に表現している。
  • 音楽:緊迫感のあるシーンには不穏な音楽が、静かなシーンには美しい音楽が流れる。音楽によって、観客の感情を煽る効果がある。

4. 作品のテーマに対する考察

  • 善悪の境界線:本作は、善悪の境界線は曖昧であり、状況によって変化するものであることを示唆している。
  • 人間の本性:本作は、人間は生まれつき善悪の区別があるのか、環境によって善人にも悪人にもなることができるのかという問いを投げかけている。
  • 死刑制度:本作は、死刑制度に対する賛否両論を巻き起こし、死刑制度の是非について考えさせる。
  • 犯罪者の人権:本作は、犯罪者にも生きる権利があるのかという問いを投げかけ、犯罪者の人権について考えさせる。

5. 海外での評価

  • 海外の映画祭で高い評価を得ている
  • 海外の批評家からも称賛されている
  • 海外の観客からも人気を博している

6. おすすめの鑑賞方法

  • 原作小説を読んでから鑑賞すると、より深く理解できる
  • 複数人で鑑賞して、感想を共有するのもおすすめ
  • 細かい部分にも注目して鑑賞すると、新たな発見がある

7. まとめ

映画「死刑にいたる病」は、衝撃的な内容と深いメッセージ性を持つ、見る価値のある作品です。ぜひ多くの人に観ていただき、感想を共有していただきたい作品です。