軽く握手をして緑子様と同じソファに座った雲様は、出された紅茶を飲んで言った。
『菫、お前はこれから紅子と結びの儀をして、それから即位式にも出る。式はほとんどすべての天界人が見ることになるだろう。あたしはお前の師範として、華瑶苑以外のすべての場所でのお前たちを守ることにする。お前が一人前の守護になるまで、あたしは保護者だ』
言い終わるやいなや、ビシッと衝撃を伴って、紅と私の頭のまわりに壁ができる感じが響いた。
『・・・なに・・・?』
『これはガードだ。心を読ませないようにした。式には他の守護もやってくるだろう。主の頭の中を覗かせてはならない。お前が覚えるまで、これは外さない』
守護って、こういう風に主を守るんだ・・・
『守護がどんなものかはおいおい教えていくとして、とりあえずお前は今、主のことだけを考えるように。何が主にとって最善か、それだけが守護の考えるべきことだ』
雲様はまっすぐに私の瞳を見る。その孔雀石に圧されるような気がして、隣で紅茶を飲む緑子様に目をそらした。
緑子様は涼しい顔で香りを楽しんでいる・・・
と、紅が私の腕をつかんで、自分の方に向かせて言った。
トパーズが優しく金色にゆらめいてる。
『菫、いいんだよ。俺はお前がそばにいるだけでいいんだ』
そして笑った――笑ってくれた。
こんな凄い場所で、凄い人たちに囲まれてどうしていいかわからない私を気遣って、笑ってくれた・・・
私が少し笑い返すと、紅は雲様にきびしい調子で言った。
『菫は守護だけど、そんなこと俺望んでない。俺を守ることを押し付けないでくれよ。無理させないでくれ。菫はそばで笑ってくれてるだけで、いいんだから』
雲様はそう言ってにらむように見た紅をじっと見つめ返す。
何も言わず眺めるようにしばらく見て、いちど緑子様を振り返った。
師範となった以上、紅の言うようにする訳には行かない・・・でもそれが主となる者の意思ならばそれは尊重されねばならない。
守護が己の定めた主を守りたいと思ってしまうのは性質上の必然だから、強いる必要などもとよりない。
ただ指導しないということには、従えない――それは師範としての義務だからだ。
主を振り返ったのは確認のため・・・表向き技術を強制しないでおくことに対する許可を得るためだ。
緑子様は微笑んだ。
『いいだろう。だが守護としての基本は身に着けなくてはならないよ。早いうちに覚えなくては心が壊れてしまうから』
『・・・それは、わかったよ』
紅がくちびるを尖らせてうなずいたのを見て、大人はみんな微笑んだ。
お父様とお母様はなんだかほっとしたような笑顔で、なにか言葉を交わしてる。
うん、そうだよ。紅は優しい人だよ。
だから心配はいらないの。だいじょうぶだよ。