次の朝、道場へ行く道に紅はいなかった。
泣きそうになったけど、稽古をしないわけにはいかない。私は早く終ることだけを考えた。
道場には3歳から16歳になる前までの子どもが通っている。たまに体を動かしに来る大人もいたりする。
私は守護なので、師範とほぼつきっきりで稽古する。この道場には私の他に守護はいない。
その日は珍しく師範が柔道の時間に、『他の子供ともやってみるか』と言って、茶々のお兄ちゃんを呼んだ。
私の気持ちが沈んでいるのを気遣ってくれたのかもしれない。
『透はこの道場でもわりと強い方だから、手加減なしでいいと思うぞ。透は受身にだけ注意してするように』
これは彼の方が投げられる可能性が高いということだ。
『ハイ!』
でも彼は表情も変えずに大きな声で返事して、『お願いします』と言った。私も『お願いします』と返した。
師範には一度も勝てたことがなく、ひとの稽古を見る余裕もない私が、この大きな人に勝てるのかな・・・?
力は考えるまでもなく私が弱い。どこを摑まれても投げられるだろう。組み手を嫌って一瞬で仕掛けなくてはならない。
茶々のお兄ちゃん――透は型どおり襟を掴みに来る。侮っているわけではなくて様子を見ようとしてるのがわかる。這ってかわし、後ろに回り巴を仕掛ける――袖を振り切られてかわされる。大技はやっぱり無理かな。寝技に入られたら勝ち目はないので素早く抜け出し、立ち上がりの足を払う。崩れたけど次の足は払えなかった。投げ技はたぶんできない。ジャンプで回り込んで足を刈るのがベスト・・・でも読まれていて逆に襟を取られそうになる。襟を取ろうとすると私が小さすぎてかがむような姿勢にならざるを得ないのに気がついて、誘って腕を取り一本背負いで決めた!
ド~ン!!
『一本!それまで!』
師範の声がして、透は呆然としながらも立ち上がり、頭を振った――にこぉっと笑った!
『ありがとうございました!』
礼をして、歩み寄り透は言った。
『菫、すげえな!俺ちょっと感動♪』
そんな風に笑ってもらえたことがなくて、私も感動した。
『勉強になったか?二人とも』
師範も笑顔でそう言った。『ハイ!』二人で返事した。
『透は強いせいか技を組み立てるのが時々おろそかになる。どうやったら投げられるのかいつも考えることだ』
『ハイ!』
『菫は体が小さいからといって投げ技をためらうきらいがある。投げられる時は体格が違っても投げろ』
『ハイ!』