薫風宙空、高く泳ぐは鯉幟 | 練習帳

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ちあらです。どうぞよろしく。^

なまじGWなぞがあるものだから、

4月の終わりはいつもなしくずしに砕かれてって

気がつけば5月になっている。毎年のことだ。

5月の季節を嫌うひとは とても少ないことだろう。

凍えた季節を越えて、狂乱の花宴を終えて

じとじとと沈みやがて灼熱に焦がされる季節まで

あとまだちょっとある、休息地点。

ちょうど踊り場のようなこの地点、

空はたいてい青く澄み、風が健やかに渡る。

辞書の中だけのコトバに成り果ててて

橘の香りなんぞ 嗅いだことすらないのだけど

この風をひとは薫風と呼ぶのだろう。


このごろめったにおみかけしない

空を泳ぐ鯉幟、

ちいさいときは あれがとても欲しかった。

私と姉にはなんでも買ってくれた父親だったけど

さすがにそれだけは買ってくれなかった。


「・・・あれはね、ちがうのよ。」と


金平糖の入った透明な筒につけられた

ちいさな紙の鯉が 私には 渡されてた。


竜になろうとした鯉を象ったとされる鯉幟

竜になろうとした鯉は 本当にいたのだろうか。


滝を昇ろうとしてる鯉はいたかもしれないと思う。


竜になりたいと願ったのかもしれないし、

流れのまま うっかりきてしまったのかもしれないし、

なにかに追われて そこをいくしかなかったのかもしれないし

それぞれ事由は違うけど 滝を昇ろうとした鯉は

きっといたんじゃないかなと思う。それも一匹ではなく何匹か。


鯉は滝を昇りきれたのだろうか。

事由はどうあれ 昇り始めたら最後

生き残るためには、もう昇りきるしかなかったろう。


死にもの狂いというコトバは とてもカンタンに

吐かれるけれど、

実際体感したものは どれだけいることか。


昇りきったそのときに

ソコから先は水がないことを

初めて知った鯉たちは

何を思ったことだろう。


青く青くどこまでも広く高く広がる空には

水はなく、あるのはただただ風ばかり。


ならば 風を泳いでやろうと思ったのだろうか。


それはどうだかわからない。


わかることは ただひとつ

彼らの選択肢は もはやそれしかないということだけ。


鯉は風を泳ぎ空を渡れたのだろうか。



目を戻せば

代わりにあてがってやった中古のゲームに 

(うえのこはマザーに、

したのこはグレゴリーホラーショーに)興じてて、

昼からアリスをみにいって

私たちのGWはそれで終わる。


また目を上げて 鯉の姿を探してみよう。


誇らしげな竜であるかもしれないし、

鱗全て乾ききり剥げ落ちた無残な姿かもしれないけど、


いずれの姿をとってても

声をかければ振り向いて

静かに笑って告げるのだろう。



「やるだけやれた、オレはしあわせモノだったよ」と。



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