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今日は会社の先輩の結婚式二次会。
きっと五嶋さんが来る。
だから
新しい服も買ったし
髪も綺麗にして
エステにも行った。
私のこの行動力の源は全て五嶋さんからだ。
悲しいくらいあの人のためには頑張れる。
何の意味もないってわかってるのに
やらずにはいられない。
二次会の会場に行くと、
五嶋さんがいた。
いつものスタイルで、姿を見たら懐かしくて。
抱きつきたい衝動に駆られた。
どうしても
何があっても
私はこの人のことが好きだ。
でも
好きすぎてどうにかなってしまいそうなのも事実だ。
全てを壊してもいいと思える。
だけど
壊さない、壊せない。
それが 私。
会場では
一言も口を利かなかった。
目も合わさない。
心が今以上にぐちゃぐちゃに乱れそうで。
二次会は三次会へと続き、
五嶋さんもいた。
終電が近づき、
パラパラと解散になった。
間違いなく。確信とともに
着信は来た。
『何、お前
帰ろうとしてんの?』
すごく久しぶりなのに
いつも通りの彼に困惑するような
安心するような。
『お疲れ様です。
・・・帰っちゃいけないですか?』
電車に乗り込んでいたけど
咄嗟に降りてしまった。
『いいけど
今どこだよ』
『うん、ホームにいる』
『わかった』
数分後、別の駅で合流する。
五嶋さんの顔がまともに見れない。
『お前、俺のこと避けてんの?
最近電話にもでねぇし』
『うん』
『何で?』
『もう、やめてよ』
『何で?』
『もう、会えないよ
忘れたいのに、五嶋さんが忘れさせてくれない』
『俺のこと、忘れたいの?』
小さくうなずく。
『好きだから、忘れられない。
もう、五嶋さんのこと嫌いにさせてよ』
『なりたいの?
後悔しないんだな?』
声には、出せない。
ただ、うなずいた。
『わかった』
言ってしまったという気持ちと
これで終るんだ、という気持ちが交錯して
ぐるぐると頭の中を巡っていた。
駅について
ゆっくりと歩いて私の家に向かう。
暗闇の中を五嶋さんの影を見ながら。
『なぁ、お前俺のこと忘れられんの?
嫌いになれんの?』
そう言われて
言葉に詰まった。
忘れられる 気はしなかった。
むしろどんどん想いが募っていくだけだった。
会わないと、余計に。
『遥。
忘れられないんだろ?
お前には無理だよ
出来ないことはするな』
そう言って
抱き寄せられた。
『髪の毛も切ってないし。
俺が切るなって言ってから
ずっとそうだろ。
忘れてない、証拠だよ』
泣きそうになった。
なんとか堪えて、
五嶋さんの手を振りほどいた。
『お前泣いてるだろ』
『泣いてない』
『見せてみろよ
こっち向けよ』
『何よ、泣いてないって』
『暗くて見えない。
目見せろよ』
『ほら、泣いてな
そう 言い切る前に、
口を塞がれた。
やっぱり私は五嶋さんの女でしかないんだ。
どうやって、生きていけばいいんだろう。
愛したことと
愛されたこと
どちらを思い出すかな。
私はずっと好きな小説
サヨナライツカ
あぁ、
終わりの時が近づいてきた。
どこかに行きたいなと思ったけど
五嶋さんは私の手料理を要求してきた。
確かに
五嶋さんが異動してから一度も作ってない。
それは早く帰ってこれなくなったから。
仕方なかった。
わかってた。
足早に退社して
急いで材料を買い込み
五嶋さんが帰ってくるときにちょうど温かい物がすぐ食べられるように。
全ての準備が整った後で
五嶋さんはやってきた。
最後のインターホン越しの彼。
好きだよ。
好き。
でも
今日が本当にサヨナラ。
五嶋さんが部屋に入ると、他愛ない話をしながら、
長年連れ添ってきた空気を感じる。
心地よくて穏やかな。
ふと、
「今回はいつもと違うな。
本当に今日が最後か。」
五嶋さんが言う。
「…そうだね」
「良かったな。
俺、本当にお前には幸せになって欲しいから。」
「…うん
なるよ。」
ご飯の準備ができて
会話をしながら
食事をして
時間は進んでいく。
久しぶりに会って
久しぶりの幸せな時間。
目が眩みそうだ。
食事も終わり、
台所で洗い物をしていると
涙が零れた。
隠すように
電気を消して、
ベッドへと身を投げる。
五嶋さんが包んでくれる。
「…お前には」
「俺は…
俺なりに頑張ってきた。
会えるように努力もしてきた。
でも
お前からしたら少なかったよな。
結局いつだって寂しい思いをさせたし、
どこにも連れていってやれなかった。
…ごめんな。」
「いいの。
仕方ないことだし
わかって一緒にいた。」
「何度かお前が俺以外のヤツにいったのだって
寂しかったからだもんな。
俺の甲斐性がなかったんだよな。」
いいの、
もう、いいの。
わかっていたことだし
それでも少しでもあなたといたかった。
大好きだよ。
言えないけど
誰よりも愛してます。
「お前はいつか忘れちゃうんだろうな。
女は薄情だからな。」
悪戯っぽく笑って
あなたはそう言った。
「幸せになれよ」
あなたの最後の言葉。
ドアを閉めたら
涙は止まらなくて
気が済むまで大声を出して泣いた。
あなたは
最後の時に
愛したことと
愛されたこと
どっちを思い出す?
私は
愛したことを思い出す。
五嶋さん。