忘れないうちに書いとくよ。後でやろうとすると、結局やらないからね。前編ってタイトル付けたんだから、ちゃんと後編も書かないとね。
はい、復習。むかーしむかし、ではなく、つい先日のことじゃった。おじいさんは、小学校の同窓会の飲み会に行ったそうな。酒を飲まない作戦が成功したおかげで、一次会は楽しかったとさ。二次会では、一次会で話さなかった女子Aとも話したそうな。その後くらいから、野郎の何匹かが暴走し始めましたとさ。おじいさんはたいそう不快な気持ちになったそうな。そして、さっきまでのテンションは消え去り、急に黙り込んでしまったとさ。
ここからが本題です。俺の隣の隣に座っていた女子Aは、いつのまにか俺の正面に座っていました。そして、すでに野郎の獲物にされていた2人の女子に続いて、3人目の獲物にされかけていた。当然、僕の心は静かにはなりません。あぁ、君もそういう対象にされちゃうのねって。相変わらず、俺は真顔で黙り込んでいた。
そんなとき、俺にチャンスが訪れた。一時解放された彼女が俺を見て、俺のジョッキをちょいと押したのである。
あ、ちなみにジョッキと言ってもビールは飲んどらんよ。居酒屋ってカクテルやソフトドリンクもジョッキで出てくんじゃん。あれだよ、あれ。ま、僕のはノンアルコールカクテルですがね。アルコールフリーの目印に、僕の飲み物だけ赤いストローつきでしたよ。あ、また脱線しましたね。ごめん、ごめん。
で、なんのつもりかなぁと思ってたら、彼女は自分のジョッキを持ち上げたわけよ。あーなるほど、と思って、僕も自分のジョッキを持ち上げ、カチンと乾杯したのだよ。この雰囲気、いいですね。大勢いる中で、二人だけの乾杯。居酒屋だけど、俺はお洒落な大人のバーにいる感覚を味わったよ、一瞬だけ。
それですぐにドリンクを飲まない彼女は心理学を心得ているようだ。俺の様子を見て、同じタイミングでジョッキを口に運んだのだよ。同調、いわゆるボディシンクロニーとか言うのかな。同じしぐさをすると仲良くなるっていう。ま、相手が自分と同じことをしたら、意識はするよね。あ、俺に好意を示してくれてるのかなって。自分に好意を示してくれる人を嫌いにはならないでしょ。誰かから好かれるのは嬉しいものです。ましてや、それが異性ならね。
そんなわけで、俺はちょっぴり嬉しかったのです。でもバカだから、かっこつけて黙ってたわけだよ。アホだね。例の下品な男女関係で心が混乱してたから、ちょっと余裕がなかったんだ。あのとき、俺がもう少し賢ければ、二次会も十分に楽しめただろうに。もちろん、彼女のおかげでね。
で、乾杯した後、俺が黙ってたら、彼女は言った。「怒ってるの?」と。この質問はちょっと惜しかった。拍子抜けしました。だって別に怒ってるわけではなかったから。真顔だと怒ってるみたく見えるのかね。あんまり得な顔じゃないね。印象悪いじゃない。
黙り込んでた俺に対してアクションを起こしてくれた時点で、彼女は十分にオトナです。ジョッキを押しやって二人だけで乾杯なんて、かなりのテクニックです。度胸もすごい。そんな彼女に、僕が「惜しい」なんて評価するのは傲慢です。でも、不快に囚われていた僕に光を与えてくれた彼女だからこそ、より気の利いた言葉を発してもらいたかったのです。そんなわけで、偉そうにアドバイスします。この場合は、僕の感情には触れない方がいい。不機嫌そうな男に、その内容を聞いても、無愛想な返事をされるだけです。だから、全く別の話題を持ちかけて、相手の気を紛らわすといいでしょう。それが糸口となって、会話が盛り上がると思います。
でも、女性に頼ってばかりいる男はあまりにも情けない。ここまでの彼女の健闘を称え、後は僕が主導権を握ればよかったのだ。
僕だって、もっと彼女と話したかった。だって、不快になってた原因の一つが、女子と平気でいちゃいちゃできる野郎への妬みですからね。女子と関われたら、それだけで僕は幸せな気分になれるのです。でも、下手にかっこつけて、自分から会話を盛り上げようとはしなかった。彼女の問いに対しても、「別に、怒ってないよ」と言っただけだった。拍子抜けする質問だったため、表情は少し崩して言ったが、そんなことはどうでもいい。彼女の温かい働きかけに対して、俺はあまりにも不誠実だった。これが、二次会における最大の反省点です。
彼女の声も俺の声もあまり大きくないので、会話のためには、前のめりになる必要がある。俺は素っ気ない回答をしてすぐに、背もたれに寄っかかっってしまった。これで、もう終了。さすがの彼女も、そんな俺には愛想を尽かした。そして彼女は、再び3人目の獲物となった。彼女を狙う獣に対して、彼女は理由を付けて拒否していた。堅実な人が好き、と。
あぁ、俺はなんて愚かな男なんだろう。なにが紳士だ。なにが騎士だ。なにが武士だ。ただの、はな垂れ小僧じゃないか。
最後に、もしもの話。
彼女に「怒ってるの?」と聞かれた直後、俺は表情を崩して言う。「ふふ、気に入った!」と。で、「こっちへおいでなさい」と言って、テーブルの下を通して俺の隣の席に座らせる。そしたら、もう二人の世界よ。彼女が3人目の獲物になることは、もうない。少し前に彼女が持ちかけた相談にも、親身になって応じられる。その結果、二次会を存分に楽しむことになるのである。