竜宮にて
乙姫はある人間の到着を心躍らせながら待っていた


もうすぐだ

もうすぐ彼がやってくる

地上に戻った彼はとてもびっくりしただろう

だってこっちでたった1週間過ごしただけなのに
向こうではすでに何百年も経ってしまったのだから

彼は景色の違いに驚いてやがて時の流れに気付くだろう

そして嘆くのよ
彼を知る者はもはや誰もいないことを


あたしは彼の性格を知っている

人間の子どもたちにいじめられてたあたしの部下を助けてくれるほど
彼はとってもピュアな心の持ち主なの

困り果てた彼はいったいどうするかしら

頼るものは1つしかないわ

そう あの玉手箱

あたしは「開けないで下さい」と言ったけど
混乱状態の彼が覚えているはずないわ

彼の心は素直なのよ

どうすることもできなければ
腕に抱えるあの箱を開けるしかないわ

するとこっちで過ごしていた分の年月が一気に押し寄せる

まったく竜宮の科学力はあきれるほど素晴らしいわね

あれはお土産として渡すものなんかじゃない

だけど あたしはあえて彼に渡した

だって彼があれを開けば
こっちに戻って来てくれると確信してるから

一気に何百歳も歳をとったらもはや地上で生きることは無理よね

ほんと 人間って短命なのね

自然の流れか彼の意思かは知らないけど
どっちみち彼は海に帰るわ

そしてここに戻って来る
そしたら
永遠にあたしは彼と一緒にいることができる…


乙姫は浦島太郎を一目見たときから
彼に猛烈な恋愛感情を抱いてしまったのである