前回の続きです。
出鼻はくじかれたが、大丈夫、これから挽回だ。
通された校長室には既に校長、副校長、担任の3人の先生方が待っていて下さった。
これまでのキティの生育歴や現在の学校のことなど全て私がペラペラ、ペラペラ話した。何しろ挽回しなくちゃならないのでつい饒舌になってしまったが、先生方は時折優しく相槌を打ちながら私の話を聞いて下さった。
一通りの私の話が終わると、いかにも温厚そうな、日本教育の良心を現したかのような校長先生がキティに優しく問いかけた。
「のし(我々の苗字)さん、今までとても頑張って来たんですね。今の学校で好きな科目は何ですか?」
ああ、ついに直接会話になってしまった、ヤバいぞ、今しがた「我が子は日常会話程度なら日本語も理解出来ます。」と先生方に報告したばかりではないか。私は内心焦った。
まず、キティはこれまでの人生で一度たりとも苗字で呼ばれたことなどない。アメリカ現地校でも今のインターでも先生からも友達同士もファーストネーム呼びしかあり得ない。生徒のみならず先生や保護者間ですらファーストネーム呼びの世界。その世界しかこの子は知らないのだ。
次に、科目、と言う日本語の意味をキティは知らない。
私はとっさにヒジでキティをつつき、無言で「校長先生、あなたに話しかけてるんだよ」と理解させ、笑顔をキープしつつ口をほぼ閉じたまま、先生方から分からないように、小さな声で
“Your favorite subject?”
と最小限の言葉をキティに投げた。のし子かいっこく堂かってくらいの見事な腹話術っぷりだったと思う。
キティは、「ああ!💡」と状況を会得したようで元気な声で、
「リセスとピーイー!!」
と、言い放った。日本語で聞かれて日本語で返せたわよ、と言わんばかりのドヤりが確実に入っていた。
てか、
日本語、「と」だけやないかい!
心の中で私は盛大に突っ込んだ。
でも次の瞬間、とっさに私は
「あの、休み時間と体育••••と言う意味です。はい•••」と訳してしまった。嘘はつけない。
カツオか。(磯野さんちの。)
と先生方の顔に書いてあったように見えた。
校長先生はそれでも優しく、
「そうなんですね、のしさん学校楽しそうですね。」とおっしゃって下さった。
キティは優しいお言葉に気を良くしたのか、
「うん!」(※注11歳です。)
と元気よく答えた。
私はしどろもどろになり、
「キティ、うん、じゃなくて、はい、とお返事しなきゃ。校長先生、すみません、敬語まで手が回っていなくて(敬語以前も全く手が回ってないけどな)。」
とまたしてもフォローになっていない言い訳をしてしまった。
のし子、討たれたり。
なつくさや つはものどもが ゆめのあと
くだらないのに、まだ続きます。次で終わりです。