エジプトのマハラガンについて 長文です!
■ 理解できなかったマハラガンとの出会い
マハラガンというジャンルが誕生してから、10年あまりが経とうとしています。
この音楽がエジプトに生まれ、若者たちが熱狂し始めた頃、当時の私は正直なところ、まったく理解できませんでした。「なぜこんなに騒がしい音楽に、ベリーダンスを合わせなければならないの?私は絶対にマハラガンなんて好きになれない」と強く感じていたのです。エジプト滞在2年目の頃でした。
2013年、私が住んでいたシャルム・エル・シェイクでも、マハラガンの楽曲──たとえば「カブリヤ」や、「ムシュアルーフ・ムシュハティギー」(エジプト初のマハラガン歌手・フィフティの代表曲)──が大ヒットしていました。しかし当時はまだ、シャービーが主流。マハラガンで踊るベリーダンサーは、ほぼ皆無でした。
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■ マハラガンが結婚式の主流に変わった理由
時が経ち、2016年、2017年とシャービーは徐々に押され、2018年には若者の結婚式でマハラガンが主流へと変わっていきました。「なぜこんなにも急激に?」と疑問を抱きつつも、当時と今の私には決定的な違いがあります。
それは、エジプトでの滞在年数です。
長く暮らしているうちに、エジプト社会の内側、つまり人々が日々抱えている不安や不満、光の裏にある影が少しずつ見えるようになりました。そして気づいたのです。マハラガンとは、歌い手自身や聴き手が抱える“リアルな葛藤”や“生き抜くためのエネルギー”を放出するためのツールなのだと。
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■ 「音楽」と「歌」の境界線を巡る論争
マハラガンと伝統的な歌の違いを象徴する出来事がありました。
大作曲家ヘルミー・バカル氏──私もかつてご自宅に招かれてお茶会をご一緒したことがあります──が司会を務める番組で、大ヒット中のマハラガン歌手がゲストとして呼ばれました。ヘルミー氏は彼に、ウンム・クルスームの曲を歌ってみろと詰め寄ります。そして、「マハラガンは“歌”ではない。こいつらは“歌手”じゃない」と一刀両断。
私も当初は、まさにその立場でした。しかし、そのマハラガン歌手は一歩も引きません。「これほど多くの人に支持され、今の社会で必要とされている。自分は誇りを持って歌っている」と堂々と語っていました。
このやりとりに象徴されるのは、「エジプトの歌」の定義を巡る世代間・価値観の衝突です。黄金期の歌にはそれにふさわしい上品さや品格がありますが、現代のエジプトには現代なりの表現が必要なのです。
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■ マハラガンは「技術」ではなく「エネルギー」
マハラガンは、タラブのように歌唱技術をしみじみ味わうジャンルではありません。「歌い手のパワー」を体感するジャンルです。ときに馬鹿らしい歌詞さえも、マハラガンという形式で届けられると、なぜかカッコよく聞こえる。口ずさむうちにクスッと笑えて、ストレスも吹き飛ぶ。娯楽の少ないエジプトのローカル社会において、歌と踊りは人々の生活に深く根付いています。
マハラガン歌手の多くはローカル出身で、彼らの生々しい声や生きざまから発せられる「声のトーン」が、人々を惹きつけてやみません。
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■ マハラガンの現場と創作のリアリティ
私自身、マハラガンの第一人者であるコンポーザー、アムル・ハハ氏のスタジオを訪れました(フィフティとの曲制作のため)。そこはまさに“ド”ローカル。観光客が足を踏み入れることもないような場所です。
そんな場所で、マハラガン歌手たちは夜な夜な次の曲づくりに没頭しています。マネージャーとともに、彼らの会話に耳を傾け、プロの目線で曲の構造や反応を観察する貴重な時間を過ごしました。
ちなみにこのマネージャー、見た目は丸々と太って汗だく、でも中身はとても頭がキレる元俳優志望。エンタメ業界のコネも豊富で、護身術や謎の「虎の拳法」まで嗜むユニークな人物です。
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■ ベリーダンスとマハラガンの融合の必然性
今の時代、ベリーダンスとマハラガンの融合は、自然な流れとなりました。シャービー風の曲でさえ、いまやマハラガンとして発表される時代です。「マハラガンでは踊りません!」なんて、もう言っていられません。
気に入った曲を毎日聴き込み、動きを研究し、自分の個性を潰さず、かつエジプトの背景を取り込む──。このプロセスを経て私は、マハラガンを踊るには“衣装演出から”見直さねばならないという結論に至りました。
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■ 未来のフォークロアとしての可能性
ベリーダンサーにとって、マハラガンはエンターテインメントを昇華させる必須の素材となりつつあります。従来のクラシカルな衣装では、楽曲に合わず、没入感が得られない曲も多いです。とはいえ、SNSでバズることを狙った過剰な露出のスタイルを採用すべきではありません。実際、あのような衣装で逮捕されているケースもあります。
マハラガンが将来、エジプトの「フォークロア」に位置づけられる日が来るとすれば、
今の私たちベリーダンサーがすべきことは、若者たちの想いやエネルギーを、マハラガンで主張していく事を意識して、大胆に・リアルに・強く表現することが求められます。
“かっこよくて、ちょっと笑えて、何より観てて元気になる”踊り方
ベリーダンスの新たな可能性が広がるジャンルとなりました。
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ビギナーさんでも大丈夫!とっても面白くて、コミカルなマハラガンの超初心者向け振り付け!
身体に負担をかけず、楽しく踊っていきましょう🥰