「What is this shit?(このクソは何だ?)」

グリール・マーカスという音楽評論家が、40年以上前にボブ・ディランの新作(「セルフ・ポートレイト」)を、酷評した際の一文を思わず引用してしまったが、いくら相手がベイビーレイズといえども、今回ばかりは罵声のひとつでも浴びせたくなる。

新曲「虎虎タイガー!!」を聴いて、自分と同じ気持ちを抱いた虎ガー(ベビレヲタ)は、決して少なくないはずだ。

阪神タイガースの応援歌のようなタイトル、意味不明な歌詞の内容、でんぱ組.incをまるっきり模倣したような曲のノリ。ついでにいうなら衣装もダサい…。そして何よりもこの曲の致命的な敗因は、ベイビーレイズの最大の長所である歌唱力が楽曲にまったく生かされていないところだ。

ふつう、どんな駄曲であっても、リリースイベントが始まって一ヶ月も経過すれば、多少は慣れ親しみ、それなりに愛着がわいてくるものだが、この曲に関しては、まったくといっていいくらいそういう感情がわかない。つまり、それだけスケールの大きな駄曲ということなのだろうか。

長くアイドルを見続けていると、演者にとっては万事オーライでも、観客にとっては不幸を感じてしまうことが多々ある。今回のリリースイベントで、この曲を歌うベイビーレイズのメンバーと、観客との関係がまさしくそれだった。

「虎虎タイガー!!」のような焦点の定まらない楽曲を歌われると、観る側としては前述した理由により、どうしても首を傾けざるをえない。しかし、そんなこちらの気持ちはどこ吹く風とばかりにメンバーは楽しげに歌っている。その無防備さというか鈍感さには、ある種の感動を覚えるが、武道館公演を前にして、勝負に出た楽曲が、こういう駄曲であるところにベイビーレイズが宿命的に「持っていない」ことを痛感してしまう。


さて、今回のリリースイベント、10月の終わりから毎週のように都内の現場に顔を出したが、そんな中、改めて強く思ったのは、やはりベイビーレイズのメンバーというのは、とてつもなくカワイイなということだった。

今さら何を言ってるんだという気もするが、とくにそれをストレートに感じたのは、11月24日に渋谷のタワーレコードで行われた6ショットチェキ会である。

その日、自分は日比谷公園の「ガールズ音楽祭」で、午前中からゲップが出るくらい多数の地下アイドルのステージを観ていた。(ついでにいうと前日も一日中ここにいた) それを途中で中抜けして、渋谷までベビレとのチェキを撮りにいったのだが、ベビレメンと至近距離で接近すると、さっきまで日比谷で見ていたアイドル達は何だったのだろうという疑問が当然のごとく浮上してくる。

身体の各パーツが細胞レベルで違っているのは勿論のこと、アイドルとしての佇まい、オーラ、輝き、凄みがベビレと日比谷公園のアイドルとでは、まったく違っていた。

それを「格」の違いという言葉に置き換えてもいいのかもしれないが、簡単にいえば、これがメジャーなアイドルと地下アイドルとの差なのだろう。

イベントそのものの内容に関しては、最終週にサンシャイン噴水広場で観た二回のライブが、個人的にはいちばん楽しめた。基本的には接触よりも、ライブの内容を重視しているヲタクなので。

サンシャインの一回目のステージのオープニングに歌われたのは「暦の上ではディセンバー」である。当然、二回目のステージでもこの曲は歌われたのだが、ここで注目したいのが、メンバー最年少の、りおトンこと渡邊璃生である。

彼女のダンスの未熟さ…というか、省エネダンスは、もはや伝説の領域に到達しているが、それにも増して、この日の「暦」での彼女のダンスは凄かった。

感覚的にいえば、隣で踊っている高見の半分以外の運動量とスピードで、見るも無残のヘロヘロでユルユルといったところ。

この曲がリリースされてから、すでに1年以上が経ち、これまでに幾度となく人前で披露され、彼女達にとっては唯一のヒット曲である以上、今回のようなオープンスペースでは歌わざるをえない大人の事情もある。

案外、りおトンの真意はこうだったのではないだろうか。

私はもういつもいつも「暦の上ではディセンバー」ばかり歌うつもりはない。しかし、それをアナタ達に言ってもどうせわからないだろう。それなら私がどれだけこの曲に飽き飽きしているか態度で示してやろうじゃんか。

こうして歌われたのが、この日の「暦の上ではディセンバー」であり、いつにも増してヘロヘロだったりおトンのダンスである。

なるほど、こうして考えると、りおトンのショッぱいパフォーマンスにも合点がいく。やはり人間、態度で示されるとわかるものだ。それどころか共感さえ抱く。ここまで飽きていたのか、りおトン、わかったよ。もう歌わなくてもいいよとマジで思ってしまう。

この日のパフォーマンスに限らず、ヘロヘロでヨレヨレの、りおトンのダンスというのは、それはそれで愛しくもあり、他の4人との対比の中で、実に不思議な存在感を示す。ベイビーレイズのファンだったら、きっとこの感覚わかってくれるだろう。

さあ、運命の武道館まであと一週間。