日本国内でも、7月の終わりに一度だけ、数ヵ所の映画館で同時上映された、ブルース・スプリングスティーンの音楽映画である。
その日は、前売り券を購入していたにも関わらず、仕事が忙しくて観に行けず、悔しい思いをしていたのだが、こんなに早くにDVD化され、店頭に並ぶとは思わなかった。
ロックミュージシャンや、ロックバンドを題材にした映画というのは、過去にもいろいろとあったが、このスプリングスティーンの映画には、過去のロック映画と大きく異なっている点がある。
それは、この作品が、これまでのロック映画のように、ミュージシャンの歌や演奏シーンを主体にしたものではなく、ファンが投稿した自分達(ファン自身)の動画を中心に、映画が構成されているところだ。
世界中のスプリングスティーンのファンから寄せられた多数の映像の中で、彼ら(彼女ら)は、ブルース・スプリングスティーンの音楽が、いかに自身の人生に影響を与えたかについて語っている。
つまり、この"SPRINGSTEEN & I"という映画のタイトルには、そういったファンの気持ちが込められており、多くのファンにとって、スプリングスティーンの曲というものが、単なる音楽以上の何か…人生のサウンドトラックになっているのだということを、この映画は示しているのだと思う。
かくいう自分も、これまでの半生において、少なからず彼の音楽には、影響を受けてきたと思うし、考えてみると、ゆうに人生の三分の二以上はスプリングスティーンの音楽を聴いて、生きてきたわけで、今後の自分の人生においても、こんなミュージシャンに、めぐり会うことはきっとないだろうと思う。
そして、【自分】と同じようなファンの存在を、この映画を観て知り、その事実に安堵するファンは、きっと世界中に大勢いるに違いない。
この映画の中で、とくに面白かったのが、一緒に行く予定だった、ブルースのライブの前日に彼女にフラれ、ひとりでコンサートを観にきた【彼】の映像だ。
「やあ、ブルース。彼女に棄てられたよ。I'M GOING DOWN」というメッセージボードを持って、ライブを見ていた【彼】を、ブルースはステージ上に上げて、ハグをする。ちなみにブルース・スプリングスティーンのライブでは、アリーナ席前方の観客が、歌って欲しい曲をボードに書いて、そのリクエストにブルース本人が答えるということが、ここ近年、慣例化しており、それは時として予想外のドラマを生む。
「大丈夫だ。オレだって、昔はさんざんフラれてきたんだ」と、アメリカを代表するロック歌手が、失恋して半ベソをかいているファンをステージ上で、ハグして慰めているというのも、すごい光景だが、こうしたファンとの特殊な関係が成り立ってしまうところが、ブルースが、他のロックスターと大きく異なる点だと思う。
そして、そのあと演奏された曲は、もちろん【彼】のリクエストによる「I'M GOING DOWN」だ。(意表をついたレア曲だが、ブルースとバンドのメンバーは、こういった難易度の高いムチャな曲のリクエストにも、結構、果敢に挑んでいる)
ファンが投稿した動画の合間合間には、最新ツアーの映像を含む、ブルースのライブシーンが織り込まれているのだが、これが予想以上にスゴくて、瞬きをすのも忘れてしまいそうな場面が多々ある。
映画の冒頭シーン。最新ツアーの、おそらくヨーロッパの野外会場でのライブだと思われるが、ここでのMC…
「E・ストリート・バンドは、何千マイルも旅してここまできた!ここにきた理由はひとつ、君たちがいるからだ!」
「これからの道のりは、俺達だけでは到達出来ない。みんなの力が必要だ!」
「みんなに、ひとつ答えて欲しい!」
「スピリットを感じるか?」
「CAN YOU FEEL THE SPIRIT?」
といういかにも、スプリングスティーン的な煽りを、見ているだけで、いきなり全身の毛穴が広がっていくような興奮を覚えてしまう。
ちなみに彼の最新ツアーは、今年、米ROLLING STONE誌で特集された「THE BEST LIVE ACTS NOW(いま現在、最高のライブアクト)」という企画において、堂々の1位を獲得している。(ちなみに2位がプリンスで、3位がストーンズだった)
60過ぎのロックミュージシャンのライブが、世界最高という評価を、眉唾物に思う人もいるかもしれないが、きっと、ここに収められたライブ映像を観れば、異論を唱えることはないと思う。
そして、同時に、こんなライブが日本で行われるわけはないだろうな、と達観した気分になってくる。
何の根拠もないのだが、もしスプリングスティーンが来日をして、日本のコンサート会場で日本人を相手にライブを行っても、アメリカやヨーロッパで行われているような規格外のロックコンサートには、ならないような気がする。
映画の本編とは別に、昨年の夏に、ロンドンのハイドパークで行われたコンサートの模様が、このDVDには含まれているのだが、最大の見せ場は、コンサートのアンコールで登場した特別ゲスト、ポール・マッカートニーとスプリングスティーンとの夢の共演シーンだ。
「このときを、半世紀、待ち望んでいた」というのは、ブルースの弁だが、自分の憧れていたミュージシャンと共演するときの彼は、ロイ・オービソンしかり、ジェリー・リー・ルイスしかり、ボブ・ディランしかり、そして今回のポール・マッカートニーしかり、本当にいつも嬉しそうである。
ブルース・スプリングスティーンとポール・マッカートニーという組み合わせは、自分の記憶が正しければ、そこにビリー・ジョエルを交えた三人で、以前に、ロックンロール・オブ・フェイムの式典で「ホワッド・アイ・セイ」を歌ったことがあったように思う。
ただし、コンサートに、飛び入り参加という形での共演は、間違いなくこのときが初めてである。
曲は「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」と「ツイスト・アンド・シャウト」の二曲。
ちなみにポールが「ツイスト・アンド・シャウト」を歌うのは、ビートルズのライブ以来(!!)ということらしいので、それこそ半世紀近くぶりになる。
ということは、この曲で、一本のマイクに、互いに顔を近づけて、「Well shake it baby now」とハモったパートナーは、ポールにとって、スプリングスティーンはジョン・レノン以来ということになるのだろうか。その事実に、ちょっとした感動すら覚える。
ついでに言うと、ジョンが亡くなった翌日のライブで、スプリングスティーンは、コンサートのラストを、ジョンへのトリビュートという意味合いを込めて、「ツイスト・アンド・シャウト」で締め括っている。
そして、この日のコンサートは、あまりにも長時間に及んだため、主催者側が町の条令だか、法律だかで、勝手に音響のスイッチを落としてライブを無理矢理、終了させたということが、当時のニュースになったのだが、そのときの様子も、ここでは克明に記録されていた。
ポールが舞台袖に消えたあと、しばらくすると関係者らしき人間が、険しい表情で、ステージ上のスプリングスティーンとリトル・スティーヴンに何やら耳打ちをしている。
スプリングスティーンが観客に「みんな気をつけろ。電源が落とされるみたいだ。」と告げ、場内から一斉にブーイングが起きる。
明らかにバンド側は、まだ演奏を続ける雰囲気だったのに、主催者側に水を差される格好で、あっけなくライブは終了した。
当時、海外のネットニュースのライブレポの見出しに「Hyde Park Freeze-Out」と書いてあって、思わず笑ってしまったが、(もちろん、ボスの代表曲である「Tenth Avenue Freeze-Out(凍てついた十番街)をネタにしたタイトル)良くも悪くも、この日のライブは伝説として、今後も語り継がれていくだろう。
そういえば、ブルース・スプリングスティーンのニューアルバムが、早くも来年の1月にリリースされることが決定したらしい。
現時点で内容はよくわからないが、いずれにしても、この衰えを知らぬ、彼の制作意欲には、本当に脱帽するしかない。
まだまだ、「SPRINGSTEEN & I(スプリングスティーンと私)」の旅は続くことになりそうだ。
その日は、前売り券を購入していたにも関わらず、仕事が忙しくて観に行けず、悔しい思いをしていたのだが、こんなに早くにDVD化され、店頭に並ぶとは思わなかった。
ロックミュージシャンや、ロックバンドを題材にした映画というのは、過去にもいろいろとあったが、このスプリングスティーンの映画には、過去のロック映画と大きく異なっている点がある。
それは、この作品が、これまでのロック映画のように、ミュージシャンの歌や演奏シーンを主体にしたものではなく、ファンが投稿した自分達(ファン自身)の動画を中心に、映画が構成されているところだ。
世界中のスプリングスティーンのファンから寄せられた多数の映像の中で、彼ら(彼女ら)は、ブルース・スプリングスティーンの音楽が、いかに自身の人生に影響を与えたかについて語っている。
つまり、この"SPRINGSTEEN & I"という映画のタイトルには、そういったファンの気持ちが込められており、多くのファンにとって、スプリングスティーンの曲というものが、単なる音楽以上の何か…人生のサウンドトラックになっているのだということを、この映画は示しているのだと思う。
かくいう自分も、これまでの半生において、少なからず彼の音楽には、影響を受けてきたと思うし、考えてみると、ゆうに人生の三分の二以上はスプリングスティーンの音楽を聴いて、生きてきたわけで、今後の自分の人生においても、こんなミュージシャンに、めぐり会うことはきっとないだろうと思う。
そして、【自分】と同じようなファンの存在を、この映画を観て知り、その事実に安堵するファンは、きっと世界中に大勢いるに違いない。
この映画の中で、とくに面白かったのが、一緒に行く予定だった、ブルースのライブの前日に彼女にフラれ、ひとりでコンサートを観にきた【彼】の映像だ。
「やあ、ブルース。彼女に棄てられたよ。I'M GOING DOWN」というメッセージボードを持って、ライブを見ていた【彼】を、ブルースはステージ上に上げて、ハグをする。ちなみにブルース・スプリングスティーンのライブでは、アリーナ席前方の観客が、歌って欲しい曲をボードに書いて、そのリクエストにブルース本人が答えるということが、ここ近年、慣例化しており、それは時として予想外のドラマを生む。
「大丈夫だ。オレだって、昔はさんざんフラれてきたんだ」と、アメリカを代表するロック歌手が、失恋して半ベソをかいているファンをステージ上で、ハグして慰めているというのも、すごい光景だが、こうしたファンとの特殊な関係が成り立ってしまうところが、ブルースが、他のロックスターと大きく異なる点だと思う。
そして、そのあと演奏された曲は、もちろん【彼】のリクエストによる「I'M GOING DOWN」だ。(意表をついたレア曲だが、ブルースとバンドのメンバーは、こういった難易度の高いムチャな曲のリクエストにも、結構、果敢に挑んでいる)
ファンが投稿した動画の合間合間には、最新ツアーの映像を含む、ブルースのライブシーンが織り込まれているのだが、これが予想以上にスゴくて、瞬きをすのも忘れてしまいそうな場面が多々ある。
映画の冒頭シーン。最新ツアーの、おそらくヨーロッパの野外会場でのライブだと思われるが、ここでのMC…
「E・ストリート・バンドは、何千マイルも旅してここまできた!ここにきた理由はひとつ、君たちがいるからだ!」
「これからの道のりは、俺達だけでは到達出来ない。みんなの力が必要だ!」
「みんなに、ひとつ答えて欲しい!」
「スピリットを感じるか?」
「CAN YOU FEEL THE SPIRIT?」
といういかにも、スプリングスティーン的な煽りを、見ているだけで、いきなり全身の毛穴が広がっていくような興奮を覚えてしまう。
ちなみに彼の最新ツアーは、今年、米ROLLING STONE誌で特集された「THE BEST LIVE ACTS NOW(いま現在、最高のライブアクト)」という企画において、堂々の1位を獲得している。(ちなみに2位がプリンスで、3位がストーンズだった)
60過ぎのロックミュージシャンのライブが、世界最高という評価を、眉唾物に思う人もいるかもしれないが、きっと、ここに収められたライブ映像を観れば、異論を唱えることはないと思う。
そして、同時に、こんなライブが日本で行われるわけはないだろうな、と達観した気分になってくる。
何の根拠もないのだが、もしスプリングスティーンが来日をして、日本のコンサート会場で日本人を相手にライブを行っても、アメリカやヨーロッパで行われているような規格外のロックコンサートには、ならないような気がする。
映画の本編とは別に、昨年の夏に、ロンドンのハイドパークで行われたコンサートの模様が、このDVDには含まれているのだが、最大の見せ場は、コンサートのアンコールで登場した特別ゲスト、ポール・マッカートニーとスプリングスティーンとの夢の共演シーンだ。
「このときを、半世紀、待ち望んでいた」というのは、ブルースの弁だが、自分の憧れていたミュージシャンと共演するときの彼は、ロイ・オービソンしかり、ジェリー・リー・ルイスしかり、ボブ・ディランしかり、そして今回のポール・マッカートニーしかり、本当にいつも嬉しそうである。
ブルース・スプリングスティーンとポール・マッカートニーという組み合わせは、自分の記憶が正しければ、そこにビリー・ジョエルを交えた三人で、以前に、ロックンロール・オブ・フェイムの式典で「ホワッド・アイ・セイ」を歌ったことがあったように思う。
ただし、コンサートに、飛び入り参加という形での共演は、間違いなくこのときが初めてである。
曲は「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」と「ツイスト・アンド・シャウト」の二曲。
ちなみにポールが「ツイスト・アンド・シャウト」を歌うのは、ビートルズのライブ以来(!!)ということらしいので、それこそ半世紀近くぶりになる。
ということは、この曲で、一本のマイクに、互いに顔を近づけて、「Well shake it baby now」とハモったパートナーは、ポールにとって、スプリングスティーンはジョン・レノン以来ということになるのだろうか。その事実に、ちょっとした感動すら覚える。
ついでに言うと、ジョンが亡くなった翌日のライブで、スプリングスティーンは、コンサートのラストを、ジョンへのトリビュートという意味合いを込めて、「ツイスト・アンド・シャウト」で締め括っている。
そして、この日のコンサートは、あまりにも長時間に及んだため、主催者側が町の条令だか、法律だかで、勝手に音響のスイッチを落としてライブを無理矢理、終了させたということが、当時のニュースになったのだが、そのときの様子も、ここでは克明に記録されていた。
ポールが舞台袖に消えたあと、しばらくすると関係者らしき人間が、険しい表情で、ステージ上のスプリングスティーンとリトル・スティーヴンに何やら耳打ちをしている。
スプリングスティーンが観客に「みんな気をつけろ。電源が落とされるみたいだ。」と告げ、場内から一斉にブーイングが起きる。
明らかにバンド側は、まだ演奏を続ける雰囲気だったのに、主催者側に水を差される格好で、あっけなくライブは終了した。
当時、海外のネットニュースのライブレポの見出しに「Hyde Park Freeze-Out」と書いてあって、思わず笑ってしまったが、(もちろん、ボスの代表曲である「Tenth Avenue Freeze-Out(凍てついた十番街)をネタにしたタイトル)良くも悪くも、この日のライブは伝説として、今後も語り継がれていくだろう。
そういえば、ブルース・スプリングスティーンのニューアルバムが、早くも来年の1月にリリースされることが決定したらしい。
現時点で内容はよくわからないが、いずれにしても、この衰えを知らぬ、彼の制作意欲には、本当に脱帽するしかない。
まだまだ、「SPRINGSTEEN & I(スプリングスティーンと私)」の旅は続くことになりそうだ。