一年に一度のアイドルの祭典、TOKYO IDOL FESTIVALに今年も参戦してきた。

TIFの妙味というのは、まず何といってもタイムテーブルとにらめっこしながら自分で予定を組み立てるところにあり、今年も本番の一週間くらい前から、現場でどういう回りかたをするのかを、一人で吟味していた。

で最終的にはアップアップガールズ(仮)としず風 & 絆の二つを軸にして、時間をみて東京女子流、BELLRING少女ハート、Negicco、ハイパーあたりが観れればいいかなという結論に至る。

TIFが何よりも画期的だった点は、大小のステージが何ヵ所にも設置され、同時多発的にライブを進行するという「フジロック形式」を、初めてアイドル現場に導入させたことではないだろうか。

それはTIF以前にも、ごく僅かに存在した対バン形式の「ジョイントコンサート」とは明らかに一線を画したものだった。

おのずと来場者は自分が観たいアイドルを決めてステージをハシゴすることになり、つまり一万人の来場者がいれば一万通りのメニューがそこには存在するわけで、これは観客の側が自らの意思によって観たいものを選択するという、今までのアイドルイベントにはなかった新たな形態をうんだといえる。

自らが選択するという行為は同時にヲタの感性を鍛えることにも繋がって行き、乱暴な言い方をすると、TIFというイベントを楽しめるか否かは、すべて自分の感性と判断力にかかってくるといえるのではないだろうか。


7月27日 TIF 初日。湾岸スタジオ前でチケットをリストバンドと引き換えた後、まずはリンダⅢ世を観るためメイン会場のZepp Tokyoへと向かう。

最新号の「ミュージックマガジン」のアイドル特集を立ち読みして知ったのだが、群馬県のブラジリアンタウンからやってきた、ブラジル人五人組という、何だかよくわからないプロフィールを持つアイドルグループである。

Zepp Tokyoの客の入りは満員とは言いがたかったが、それでもフロア内は結構な人で埋まっていた。自分を含めて、ここにいる観客の大半は、この日初めてリンダⅢ世を観るはずだ。なぜなら彼女達は今回のTIF2013が初めての東京遠征になるからである。

メンバーが登場した瞬間、奇妙な違和感を感じたのは、彼女達の存在がTIF現場において、どこか場違いな空気を醸し出しているからだろうか。

メンバーのルックスも南米基準で考えたらきっと美人には違いないのだろうけど、それをアイドルヲタの嗜好性に照らし合わせてみると、ちょっとみんな顔立ちが濃すぎるような気がする。

サンバの格好をしてバックダンサーを務めていたお姉さん2人組も日本人には見えなかったが、やはりブラジリアンタウンの住民か何かなのだろうか。

同様に柔道着を着たオッサンがステージに上がっていたが、あの格好はブラジリアン柔術か何かと関係しているのだろうか。さらに宇宙服を身にまとった人間もステージにいたが、あれはいったい何の意味があるのだろうか?

とにかく不思議なことがステージ上では繰り広げられ、それを見ている観客も戸惑いを隠せないといった様子である。しかし、そんなことはまるで意に介さず勝手に盛り上がるリンダⅢ世とそのバックダンサー達。

…とまあ、これだけ舞台の上と下とで温度差のあるライブというのも珍しいと思ったが、個人的にはセルジオメンデスの「愛のサンバ」が聴けたので、とりあえずは満足した。

でも、もう一度みたいかと聞かれたら、しばらくはいいかなという気もする。

リンダⅢ世終了後は、無銭エリアの野外ステージ、SMILE GARDENへアイドリング、女子流、さくら学院らによるコラボを観に行く。

昨年のTIFで、自分の中で観ていていちばん高まったのが、このコラボであり、今年も同様の演目が行われる以上、これは絶対に外すわけにはいかない。

去年のこのステージが神がかり的に良かったので、今年も相当に期待をしていたのだけど、残念ながら今回の内容は今ひとつと言わざるを得なかった。というよりも去年の内容が、あまりにも良すぎたために、それと比較してしまうとどうしても見劣りしてしまう。

救いだったのは、去年のような殺人的な暑さではなかったことだろう。このくらいの日照りと暑さが夏フェスにはちょうどいい。

その後は、すかさず湾岸スタジオ内のDOLL FACTORYへ移動する。

会場内に入るとBELLRING少女ハートがちょうど始まったところだった。

近年はBABY METALを筆頭に、表現方法にロックのテイストを用いたり、あるいは自らそれを標榜するアイドルグループがやたらと増えた印象があるが、ざっくりと分類するとベルハーも、その中のひとつだといえるだろう。

ところが、このBELLRING少女ハート、ロックはロックでも、その方向性がユニークで安易にヘビーメタルだパンクだといったわかりやすいロックのスタイルを模倣するのではなく、サイケとかプログレといった、小難しいロックの様式を取り込んでいる。ベルハーをプロデュースしている運営の名前がクリムゾン印刷というくらいだから、きっとそういうコンセプトのグループなのだろう。

曲によっては、ドアーズやヴェルベット・アンダーグラウンドを彷彿とさせるような重いナンバーもあり、それは現在のアイドルグループの中でも、かなり異色なサウンドである。

今回のTIFでは残念ながら、この回のステージしか観れなかったが、他の演者との時間調整がきけば、違う回のステージも観てみたかった。

ベルハー終了後に、遅い昼飯をとり、その後は物販スペースを徘徊する。

まずは、先日のTシャツサミットでも、なかなか気合いの入ったパフォーマンスを展開してくれた、ハイパーヨーヨのメンバーがブースにいたので接触しに行く。

相変わらずインチキ臭いグッズばかり販売しているのには笑ったが、サンバイザーと新曲のCDを購入。サンバイザーは日除けにちょうどよかったので、そのまま着用する。

その後、知り合いから握手券を貰ったのでアプガと握手しに行く。

アプガメンバーには接触をしに行っても、基本的にいっさい認知とかは求めていないので普通に握手して終わり。

結局、アイドルとの距離なんてものは、これでいいのではないだろうか。

あまり近付きすぎて認知とかされると、それはそれで面倒だし、結局、どれだけのめり込んでも、最終的に病むのはヲタ側なわけであって、それなら初めから一定の距離を保っていたほうがきっといい。少なくともアプガメンに関しては、今後も自分自身、このスタンスは崩さないでいこうと思っている。

しず風 & 絆の物販時刻もちょうどこの時間に重なり、今回のTIFではしず風のステージは完全制覇したいと思っていたので、ここは自分を奮い立たせる意味も含めて、絆の美空とのチェキを撮りに行く。

ライブが始まる前からヲタとの接触とか、メンバーもご苦労なことだが、こちらもメンバーと会ったことによって、このあとのしず風のステージへ向けての気持ちが徐々に高まってきた。

そんなことをしているうちに夕刻近くになり、「大森靖子とアップアップガールズ(仮)」を観るために再びDOLL FACTORYへ向かったのだが、現場に到着した瞬間、思わぬ光景に唖然とした。

会場前には長蛇の列が出来ており、入場規制がかけられている。

詰んだ…。

ここは列の後ろに並んで、アプガを観れる可能性に賭けるよりも、他の会場に移動したほうが賢明だろうと判断する。

今ならZepp Tokyoで行われる東京女子流に間に合うし、すんなり会場に入れればSUPER☆GIRLSのステージも半分くらいは観れるだろう。

幸いにしてZepp Tokyoは入場規制がかけられておらず、意外にあっさりと入場出来た。ただしフロアの中は超満員で、スパガのライブで異常に盛り上がっている。

「プリプリSummerキッス」「常夏ハイタッチ」「MAX!乙女心」といった超アゲアゲソングの三連発は、これぞアイドルの王道であり、理屈抜きに素晴らしい。

アプガが観れなかったのは残念だったが、気持ちを切り替えてスパガを観にきたのは結果的に正解だったと思う。前述したようにTIFを楽しむには判断力が必要だというのは、こういうアクシデントに対する順応性という意味である。

去り際に八坂が「次はドロシーだよ」と言ったので、まさか出演順が変更になったのかと思って焦ったが、単に彼女がグループ名を間違えたのか、天然なのか、女子流とドロシーの区別がつかないのか、定かではないが、スパガの次は予定通り東京女子流が登場。

昨年のTIFでは、SKEヲタに占拠されHOT STAGEで女子流のライブを観ることが出来なかった自分にとっては一年越しのリベンジを成し遂げたことになる。

相変わらず安定した歌と踊りを披露する女子流だが、しかし例によって必要以上に盛り上がる展開を微妙に避けようとするヘソ曲がりっぷりも相変わらずで、この日も、地味な新曲を途中に挟んだりして会場のテンションに水を差していた。

それでも「おんなじキモチ」の一体感はハンパではなく、もはやこの曲はTIFにおいてアンセム的な役割を果たしているような気がする。

女子流終演後はNegiccoを観るためENJOY STADIUMへ。

異常なまでにソフィティスケートされたサウンドが心地よく、百花繚乱の21世紀のアイドルシーンの中でも彼女達の個性は際立っている。

今年で結成10周年ということはTIFに出場している全アイドルの中で、もっとも活動歴が長いアイドルグループが彼女達なのかもしれない。

そして、今回のステージでも披露されたが、先頃リリースされたばかりの新曲「アイドルばかり聴かないで」が実に素晴らしい。

「どんなにアイドルが好きでも構わない でもどんなに握手をしたってあのコとはデートとか出来ないのよ」というアイドル自身がアイドルの虚飾性を皮肉っている歌詞には笑ってしまうが、こういう内容の歌をアイドル自身が、おおらかに歌えるようになったのも、きっと時代なのだろう。

Negiccoが終わったあとは、すぐさま隣のDOLL FACTORYに移動してしず風 & 絆の出陣に備える。

しず風の待機中にパワースポットを観ていたのだが、スパガ、女子流、Negiccoといった現在のアイドルブームを担うグループを観たあとに、この手の地下アイドルを観ると、その落差に一瞬言葉を失い、何と表現したらいいのかわからなくなってくる。

これはパワースポットに限ったことではないが、やはり地下アイドルはどこまでいっても地下アイドルであり、メジャーなアイドルとは何かが決定的に違っている。

勿論、地下にはメジャーにはないようなアイドル文化や価値観で支えられていることも多々あるわけで、問題はそうした地下アイドルならではの魅力を自分達のことを知らないアイドルヲタにどのように訴えていくのかということだと思う。

TIFという舞台は、まさにそういう不特定多数のヲタの目に触れる千載一遇のチャンスであり、弱小アイドルであればあるほど、そこらへんの認識はしっかり持つべきだろう。

残念ながらパワースポットのパフォーマンスからは、そういった意志は自分には伝わってこなかった。

(つづく)