ベーオウルフ 其の説明と補助
Beowulf
ベーオウルフは日本ではまったく知名度が在りませんが、イギリスではアーサー王と並ぶほどの国民的英雄で、活躍した時代も紀元6世紀とほぼ同じ位と言われてます。
ベーオウルフはイェーアト(南スウェーデン)の王族としてこの世に生を受けた。活躍する場所もせいぜいデンマークやオランダ止まり、其れが何故イギリスの英雄なのかというと、其処しか伝説が残されていないからなんです。
イギリスに侵略、入植、色々ありますが北欧のヴァイキング達が伝説を持ち込んだのは良いのですが本国スウェーデンとかはでは彼の伝説はすっかり忘れ去られていました。
英語を母国語とした人と(アメリカ人、イギリス人)意見交換なんてした日には間違いなく乗ってきますので、機会在りましたらどうぞ(笑
概略
ベーオウルフの母親は、イェーアト(南スウェーデン)王国の王女だった。父親は、王の片腕たる大将だったが、ベーオウルフが生まれて直ぐ、老衰で死んでしまった。兄弟は居ない。祖父にあたる王は、自分の娘と孫を不憫に思い、ベーオウルフを養子として育てた。即ち自分息子同様に、王子として扱ったのだ。
少年時代は(英雄にあるまじく)いじめられっこだったらしい。性格が元来優しかったことと、王子でもないのに宮廷で育てられて居た事が、他者の嫉妬を買ったのであろう。言われもなく軽んじられていたと、ものの記録には書かれている。
彼自身それが悩みの種で、自分の武勇を示せる機会を探しては態と何度も危険に身を晒していたのだ。戦には常に先陣を切って戦ったし、冬の海に飛び込んで無謀とも思える遠泳をやってのけたりした。(その際、海魔を何頭か屠ふった)
(死と名誉を賭して盟友ブレカと七日七晩水の中を漂った)
しかしどんな事をしても、回りの人間達は彼の力を認めない。彼は王に可愛がられているので、どうせ七光りを使っているのだと思われたのだ。
そんな或る日、隣国のデーン(デンマーク)の王宮鹿角殿ヘオロットHeorotをグレンデルGrendelと言う名の魔物が荒らしまわっているというと言う噂が流れてくる。どうやら、人食いトロールの類らしい。
ベーオウルフはとうとう自分の力を世に知らしめるチャンスが来たと喜び腹心14人の部下と共に、海を渉った。
海を渡ると言う事は象徴的な意味あって魔界に足を踏み入れたということになります。
このての話としてはアーサー王のアヴァロンに渡ることやら、冥界に行く時三途の河スティックスの川守カロンにお金を支払い死者の国へわたるとか・・・
北欧神話では冥府ヘルに行くにはギヨッル(叫び)という河を越えた向こうにあります。
桃太郎も水を渡って鬼が島にいったりとか・・・
禊払い、水垢離とか、洗礼と言う儀式もキリスト教以前にも存在し北欧には新生児に水をかけるという習慣があります。
水にはものを清める、之までの世界の柵とか汚れとか落し別の世界に生まれ変わるの儀式だったりするわけです。
デーン王は、勿論彼を快く迎えます。ベーオウルフの父親は、かつてデーン王と親しい間柄に在ったからです。
鹿角殿には夜毎グレンデルが現れ、兵士達を引き千切っては、口に運ぶという。如何なる刃物も、如何なる勇士もこの怪物には文字通り刃が立たない。
しかもこの巨大な獣は魔法の掛かった龍革製の篭手を身につけており、其の御蔭で恐るべき膂力を誇っていた。
しかし対するベーオウルフも三十人力を誇る兵(つわもの)であった。
(この余りにも強すぎる剛力は後に彼は身を滅ぼす元となる)
居並ぶデーン廷臣を前にかれは誇らしく言い放った。
「王よ、グレンデルに刃物あが役に立たないというなら、私は素手で挑みかかりましょう。もとより武器の使い方を知らぬ魔物ゆえ、此方が剣を使っては、騎士の名折れというもの。勝って、彼奴めの首級を王の元へお届けします。よしんば負けたとしても、彼奴は私の身体を一片残さず喰らい尽くすでしょう。埋葬の心配はご無用です」
そして手勢と共に鹿角殿に潜み、怨敵グレンデルの来襲を待った。
ベーオウルフがこの魔物に恐れを成したどうかは伝わっていない。もしかしたら死を決意していたのかもしれない。
グレンデル退治に成功しなければ、国に錦を飾る事も出来ないうだつの上がらない一生から逃れえない。
それよりはまだ戦って死んだ方がまだ良いと・・・
夜は更け、あたりは動物の鳴き声も無く静まり返る。鹿角殿の扉が軋み、そして現れた怪物は、近くの衛兵に踊りかかった。若者の身体は引き千切られ、血と脳漿がベーオウルフに降り懸る。瞬く間に犠牲者はグレンデルの胃に収まる。
ベーオウルフは部下を失った怒りを胸に、間髪をいれず、グレンデルに掴み掛った。指と指、骨と骨とがガッチリ噛合い、二人は館中を転げ回って、組打ちをした。鹿角殿は震え上がりその様子はさながら地震の様であった。
勝敗は、肉の弾け飛ぶ不気味な音で決した。グレンデルの右腕は肩口からもぎ取られた。妖魔は黒い血を滴らせ乍ら、棲家の沼へ逃げ帰り、そこで自らの血に塗れて死を迎えた。
鹿角殿には、妖魔の腕が残され、ベーオウルフには誉が与えられた。王や騎士や淑女達は喜んだ。しかし悲劇はまだ終わりを告げていなかった・・・・
鹿角殿では久しぶりに宴が開かれた。ベーオウルフには王からも王妃からも莫大なる報償が賜れた。
皆、館の中央に鎮座したグレンデルの片腕を眺めつつ、酒を酌み交わし、之までの悪夢の日々を忘れ去ろうとしていた。
館の戦士達は眠りに落ちた。そして何人かは、永遠に目覚めなかった。
真夜中、断末魔の叫びと共に、鹿角殿は再び血に染まった。駆け寄った人々が見たものは、元人間の残骸だった。館の中央にあったはずのグレンデルの片腕は消えていた。
怪物は人質を盾に館を抜け出した。しかも其の姿は確かに女の形をしていたのだった。王は舌打ちした。
「しもうた。阿奴に母親がおったか」
情愛深いグレンデルの母親は、死んだ息子の腕を取りに来たのだ。勇者ベーオウルフは言った。
「御嘆きなさいますな、親愛なる我君。私めがグレンデル同様女怪めを討ち取っり鹿角を掲げる黄金の館に、平安を齎しましょう」
ベーオウルフ一行と武装したデーン人はグレンデルの沼に向かった。沼岸には、人質に取られた貴族の首が掲げられていた。
沼の水は熱き毒の血によって煮立ち、水蛇、海蛇の類がとぐろを巻いていた。
ベーオウルフは蛇達を射殺し、鎖帷子を着込むと、恐れを噛み殺しながら、沼に飛び込む。
濁った水の中で無数の水蛇が、彼を見ていた。あるものは恐れる様に、そしてあるものは嘲る様に
どの位もぐったのだろうか。突然恐るべき力が襟首に襲い掛かってきた。
グレンデルの母は其の侭ベーオウルフを引き摺って沼底の自分の館へ放り出した。
そこには空気に満たされた不思議な空間だった。ベーオウルフは、朦朧とした意識の中で床にグレンデルの死体が転がっているのを見出した。
鑑賞している暇も無く、女怪が、毒の爪で掴み掛って来た。
二者の間には何の会話も無かった。鹿角殿でのグレンデルの闘いと同じ様に只気合と雄叫びが木霊した。
ベーオウルフは跳ね起き、剣を叩き付ける然し、この女怪もグレンデル同様刃物は通用しなかった。
彼は剣を投げ捨て、掴み掛った。だが、子供を失った母親の膂力は想像を遥かに越え女怪は勇者を床に叩き付け馬乗りになりベーオウルフが捨てた剣をベーオウルフの首筋に突き立てる。
勇者は僅かに身体を交わす事によって辛うじて其の一撃を避ける事ができた。
その際に体勢が崩れ女怪から離れる事に成功した。
彼の視界の端に壁に掛かった大剣が映った。其の剣は当に巨人でなければ扱えぬ程の大きさで
刃には蛇紋状の波模様があり、魔力を秘めたルーン文字が刻まれていた。見た瞬間に名匠たるドワーフの作と知れた。
彼は壁の大剣を掴んで一気に振り下ろした。鈍い衝撃と共に袈裟懸けに女怪を切り倒した。
ベーオウルフは勝利したのだ。
腕を取り戻しに来る魔物の話は日本にも「羅生門の鬼」という伝説で残っている
ベーオウルフはグレンデルの首を鹿角殿に持ち帰った。デーン王はベーオウルフに甚く感謝して、莫大な財宝を取らせた。
彼は凱旋し、真に栄誉を讃えられ、居並ぶ英雄達に列せられた。
これが若い時の冒険譚です。
しかし祖国は間もなく、引き続く戦に荒れ果て、王も王子も次々と命を失ってゆく。然し、グレンデルに比べれば述べる事も無しとバッサリオミットされてます。
その後暫くは王の補佐官をし、其の王が殺されてから、ベーオウルフは自らが王となった。
そして五十年の歳月が流れ
齢70を越えたベーオウルフの前に最後の試練が訪れる。
一人の盗人が飛龍の元から宝を盗み取ったのだ。怒った龍は炎を吐き、町を襲い、宝を探しまくった。然し誰一人龍を退治しようとする勇者は現れなかったのである。
ベーオウルフは老骨に鞭打って、11人の部下と共に、龍の洞穴に飛び込んだ。然し牽制する筈の部下達は皆龍の姿を見た瞬間逃げ出してしまった。
唯独り忠実なるウィーイラーフのみが老王を助け戦った。
龍が紅蓮の炎を吐いたとき、ウィーイラーフは辛うじて盾で防いだが一瞬にして盾は燃え尽きる。ベーオウルフは燃えざる鉄の盾に彼を隠し、渾身の一撃を龍に見舞った。しかしこの時ばかりは彼の三十人力が災いして剣は真っ二つに折れてしまった。
次の瞬間龍は老王の肩口に牙を立てた。ベーオウルフの全身に毒が廻り意識が混濁した。ウィーイラーフは我を忘れ、炎で自分の手が焼ける事など構わず龍の腹に折れた剣を突き刺した。龍の力が一瞬弱まり、最後の気力を振り絞ったベーオウルフは腰に下げた予備の短剣を取り龍を真っ二つに掻き斬った。
ベーオウルフはウィーイラーフに支えられながら何とか龍の穴の外まで歩みでたがそこで力尽きへたり込んだ。そして死期を悟り、最後の言葉を紡ぎだそうとした。
「思えば色々な事があった。王となってより五十年の歳月が流れたが、誓ってただの一度も、我が身を恥じるような事はせなんだ。我人生に悔いは無い。ウィーイラーフよ洞穴に戻り龍の守るたる財宝を取り、其れを国の為、民の為生かすのだ、我一門で唯独りの生き残り、ウィーイラーフよ私はお前を誇りに思う・・・」
そう言うと其の侭満足気な表情で地に斃れ臥した。
「王よ・・・私が行くなと止めたのに、貴方はお聞きにならなかった。こうして龍と刺し違えてしまった。貴方を失ったこの国はこれからどうなってしまうのです。
噫呼、それにしても口惜しい。あの十人が命惜しさに逃げなければ、貴方は未だご存命であった筈。我君ベーオウルフ王よ・・
」
ウィーイラーフは王を荼毘に付し、遺言通り宝を持ち出す。見れば龍は自分自身の毒に溺れて、腐り果てていた。ウィーイラーフは大蛇の死骸を、崖から海に擲った。そして其の岬に大いなる塚が築かれた。
かくてベーオウルフの一代記は終わりとなる。非業の死ではあるが、英雄的な死であった。
後にイェーアトの国は北方より攻め寄せたるスウェーア(スウェーデン)族に滅ぼされる。ベーオウルフという豪勇を失ってはイェーアトは余りにも脆かった。ウィーイラーフも死に、かくてベーオウルフの血を継ぐ者は絶えた。龍の宝も何処か消えた。そして残るはベーオウルフの不滅の名声だけであった。