ベーオウルフ 8 イラスト描くための忘備録
前半は終了今回は後半です・・・
8火竜の宝
歳月が過ぎて行き、二つの王国にも大いなる変化を齎した。
デンマークではフロースガール王が亡くなって谷間に埋葬され、息子のフレースリーチが跡を襲った。ヒイェラークはフリジア遠征に倒れ、相変らずセインの長であったベーオウルフが其の仇を討ち、自らも深手を負いながら、海岸へ逃げ戻り、其処に待ち受ける戦船に飛び乗ってこの地を逃れ、王妃ヒュイドに悲報を伝えた。
王子へアルドレードは未だ子供で、戦の指揮を執るにも、国を平かに治めるにも幼すぎたので、王妃は顧問や国の主だった族長達を集め、彼らの同意を得て王の首飾りをベーオウルフに伝えようとした。だが、王に忠実であったベーオウルフは是に肯んじなかったので、幼い乍らもへアルドレードが王座に挙げられ、頼もしい従兄が常に側にいて助言者また保護者として後見する事になった。
やんぬるかな、それも空しくなった。やっと少年期を脱した頃、へアルドレードは父と同じく戦いに倒れた。再び王位を勧められた時、今度はベーオウルフも不承不承それを受けた。血筋から言って、彼こそ正統な次代の国王であったからだ。
彼の治世は長く真に輝かしく、彼は大剣を握るその掌の中に確りと民を守り、保った。五十度、野生の雁が秋に南へ渡り、五十度、ブナの芽が春に芽吹き、若者達は船を小屋から出した。其の間長く、イェーアトの国は嘗て無い繁栄を続けた。たが五十年が過ぎる頃、国に災厄が降り懸った。
〇この辺のバランスが
彼の治世は長く真に輝かしく、彼は大剣を握るその掌の中に確りと民を守り、保った。五十度、野生の雁が秋に南へ渡り、五十度、ブナの芽が春に芽吹き、五十度、若者達は船を小屋から出した。其の間長く、イェーアトの国は嘗て無い繁栄を続けた。たが五十年が過ぎる頃、国に災厄が降り懸った。
それは次の様な次第である。
何百年も昔の事、ある強大な戦士の家系が、代々受け継いだ品物に、さらに新たな戦利品を増し加える事に由って、黄金の杯、前立ての付いた兜、戦士の腕輪、王妃の首飾り、ドワーフらが大昔、魔力で鍛えた古代の剣や甲冑などの、莫大な財宝を集め、貯えた。
この辺も弄った方が通りが良いともう
何百年も昔の事、ある強大な戦士の家系が、代々受け継いだ品物があった。黄金の杯、前立ての付いた兜、戦士の腕輪、王妃の首飾り、ドワーフらが大昔、魔力で鍛えた古代の剣や甲冑などである。それらに加え、其の一族は更に新たな戦利品を勝ち得る事に由って莫大な財宝を集め、貯えるに至った。
だが、多くの戦いを含む大戦がこの一族を根こそぎにし、生き残ったのは唯独りとなり、其の男もまた、自らが愈々<暗き道>に赴かんとする時には、一族が営々として集めた財宝の運命はいかならんと思い、密かに人が<鯨ヶ岬>と呼ぶ岬の下の洞窟を見繕っておいた。そこへ少しずつ財宝を運び込み、潮騒の中へ隠し、武士の死に対してすると同じ様に悼みの歌を手向け、この黄金の杯から最早、飲む事も無く、大剣を奮う事も無いセインらを嘆いた。炉は既に冷たくなり、竪琴は口を噤み、館は野狐と鳥の跳梁する所となっていたからである。
ここも書き直したほうが・・・・
だが、多くの戦いを含む大戦がこの一族を根こそぎにし、生き残ったのは唯独りとなった。其の男もまた、自らが愈々<暗き道>に赴かんとする時には既に一族の館の炉は冷たくなり、竪琴は口を噤み、館は野狐と鳥の跳梁する所となっていたからである。
男は一族が営々として集めた財宝の運命はいかならんと思い、密かに人が<鯨ヶ岬>と呼ぶ岬の下の洞窟を見繕っておいた。そこへ少しずつ財宝を運び込み、潮騒の中へ隠し、一族の凋落の際に対し嘗の落日の想い馳せた。男は宝を看てこの黄金の杯から飲む事も無く、大剣を奮う事も無いセインらを嘆いた。武士の死に対してすると同じ様に悼みの歌を手向けたのであった。
この男が死ぬと、財宝は忘れられた侭山の中に埋もれ、何百年もの時が経っていたが、やがて岩場に巣穴を求めていたある火竜が、洞窟の秘密の入り口を見つけて、宝を見出した。火竜は自分が見つけたもの故、宝を我が物と思い、重い腕輪や宝石作りの短剣、黄金造りの杯などを愛し、其の周りにぬらぬらのとぐろを巻いて三百年の間其れを守り続けた。
だが、そのうち、族長の機嫌を損じ、其の怒りを恐れて逃げたある男が、岩の中に秘密の入り口を見つけ、黄金の宝と眠る竜を発見した。
三百年という歳月に、竜は少しずつ大きくなり、とうとう鼻面から尻尾の先までの長さが、人の身丈の十倍に達した。だがそれでも宝の山を一巡するほどではなく、眠っている竜の鼻面の尾の間には人一人通れるだけの隙間があった。
逃亡者は、宝の黄金の煌きを目の辺りにし、くらくらとしながらも、此処に苦境から逃れる道が有るかも知れないと思った。眠る竜と鼻面と尾の間に潜り込んで、族長の怒りを鎮めてくれるかも知れぬ黄金の杯、太陽の様に輝く杯を一つ取り、胸に抱きしめて、元来た道を逃げ帰った。
やがて火竜は目を覚まし、即座に財宝が奪われたのを知った。悲嘆と憤怒に心も暗くなって、火竜は愛する財宝を嗅ぎ回り、匂いから、人間が忍び込んだ事を悟った。竜は外に這い出し、洞窟の入り口や岩の間を探って、男の足跡を見つけた。そして夕闇が下りてきた頃、巨大な翼を広げ、盗人を捜しに出かけた。
それから毎晩、竜は憎しみに駆られて飛び出したが、盗人を捜すのみならず、其の腹いせ怒りをありとあらゆる人間にぶつけた。何といっても宝を盗んだのは人間だったからだ。竜は広く又遠くまで飛び、イェーアトの海岸から海岸までを、炎の息で蔽い、火の霧に包んだ。
此処も変
竜は広く又遠くまで飛び、イェーアトの海岸という海岸を炎の息で蔽いつくさんとし、それらは火の霧に包まれた。
人家、人、木々、家畜、そして王の館までもが、竜の恐ろしい息吹きに遭って萎び、日の出と共に竜が巣穴に戻った後は、黒く燻った惨禍の傷跡がくっきりと大地に残されていた。
人家、人、木々、家畜、そして王の館までもが、竜の恐ろしい息吹きに遭って萎び、陽の出と共に竜が巣穴に戻った後には、黒く燻った惨禍の傷跡がくっきりと大地に刻まれていた。
ベーオウルフは老い、嘗ては黄金色であった髪も灰色になっていたが、今でも戦士であった。又王でもあった。彼にとって最後の心の慰めとは、民の為に死ぬ義務と特権であった。そこで今までに幾度もそうして来た様に、戦いの準備を整えた。若かりし日、<夜の徘徊者>グレンデルを獲り拉いだように、竜を獲り拉ぐ事は最早出来ぬと解ってはいた。今度の相手は力のみならず、火を持っていたからで、通常の物の具もそれには役に立たぬからである。シナの木の楯がどの位長く火に耐えられよう。
改
炎に対しシナの木の楯がどれ程凌ぐ事が出来ようか(いや、できはしない)
所謂(いわゆる)反語を使っての強調
そこで彼は刀鍛冶を己が寝室に呼び寄せ―――広間は既に黒焦げの残骸と化していたので―――こう言った。「炎にも耐えられる鉄の楯を作ってくれ。大至急だ。これ以上、恐ろしい夜が続いては、民の破滅だ」それから、護衛に十二人のセインを選んだが、其の中には五十度の放浪の季節の前、共にデネに船出したウェーイムンドの孫に当るウィーイラーフも混じっていた。そして彼らにも出陣の仕度を命じた。
そこに十三番目の男も加わった。かの杯の盗難の元となった族長が、事件の引き起こした災厄を見て、盗人をベーオウルフに引き渡したのだが、其の男に向かってベーオウルフは、静かな恐ろしい口調で告げた。「生ける者の中で、お前一人が、<夜陰の飛行者>の巣穴の在り処を知っている。其の場所へ我等を案内すれは、お前も尚且つ命を繋ぐ事が出切るかも知れぬ。其の場合、助かる確率は、私と共に来る戦士等と同じだ。だがもし案内をしくじれば、お前は火竜からは逃げ遂(おお)せても、私から逃げ果(おお)せぬと知れ」
こうして翌朝、王は灰色の鎖帷子をまとい、フロースガールより賜ってこのかた、数多の歳月、彼の友であった古代の大剣を佩いた。それから未だ鉄床の熱の冷め遣らぬ重い鉄の楯を取り、他の族長らに後から来るように命じると、選び出した十二人のセインを連れ、最後の冒険に出立した。
<鯨(いさな)ヶ岬>の下の洞窟は、王の住まいから馬で二日程の行程に有ったが、一行は昼夜を問わず全速力で飛ばして、翌朝には疲れた馬を木立に残して、木の多い尾根を越え、嘗ては美しい長閑な谷であった所を見下ろした。谷の一方は低い海際の崖に接し、もう一方の端は、蜂がヒースの花の中を飛び回る高地に続いていた。谷は黒ずみ、荒れ果てて見る影も無く、((谷は荒れ果て、黒ずんで見る影も無く)所々に焦げた木の幹が牙の如くに突き出ていた。谷の奥には短い芝の斜面が盛り上がって<岬>に続き、<岬>は海に向かって大いなる頭を突き出していた。<鯨ヶ岬>に接しる土地は起伏に富んで、所々に小さな崖を生し、又岩頭が露出して、其処から微かに煙がかかっていた。
盗人は木立の外れで足を止め、震えながら指差した。「あそこの煙が岩に纏わっている所です。あそこが火竜の住処で、財宝を守っています。ご命令通り案内役を務めましたし、この先、私如き者に用はありますまい。誇り高きベーオウルフ王よ、お力と同じ大いなる慈悲を持って、私を解放して下さい」
ベーオウルフは男に軽蔑の眼をくれた。「言うまでも無く、最早、お前に用は無い。何処へなと行け。お前の役目は済んだ」男は木立の奥に逃げ込むと、彼は倒れた幹に腰を下ろし、膝に肘を着いて、休息して力を貯え、谷を見下ろし、また<鯨ヶ岬>の緑の斜面の下の岩場にまで目を走らせた。
改
ベーオウルフは男に軽蔑の眼をくれた。「言うまでも無く、最早、お前に用は無い。何処へなりと行け。お前の役目は済んだ」男は木立の奥に逃げ消え去った。
彼は倒れた幹に腰を下ろし、膝に肘を着いて、休息して力を貯え、谷を見下ろし、また<鯨ヶ岬>の緑の斜面の下の岩場にまで目を走らせた。
座っていると、宛ら太陽を過(よ)ぎる雲の様に、運命の女神ウィルドの手が己に触れるのが解った。グレンデルと戦った時、彼は若く血気に逸り、自らの力を誇っていたが、年老いた今は、此れが最後の戦いになるであろう。不意に頭を擡げると彼は野生の白鳥が歌うとされる、あの死の歌を自ら歌い始めた。
「思えば長い生涯であった。たが遠い昔、私は七つの夏しか知らなかった」そして、ベーアンスターンの子ブレカとの腕比べの事、主君ヒイェラーク王の事、戦船仲間と共にデネへ赴いた事、グレンデル及び其の母と戦ったことを謡った、それから、ヒイェラークの死、へアルドレードの死を謡い、自ら王位に就いた事を謡った。
「我王ヒイェラークを殺したかのフランクの戦士を、私は素手で、恰も彼(か)の<夜の徘徊者>グレンデルを倒したと同じ様に仕留めたのだ」こう言って彼は突然、歌の終わりが近づいたかの様に、長い溜息をついた。
「然し(しか)この度の戦いは違う。私は老いた。だが、我膂力は今だ失せず、私は未だに王である。」彼は森外れに集う廻りの戦士等を見渡し、ゆっくりと立ち上がって、大きな鉄の楯に手を伸ばした。
ウィーイラーフが楯を取って渡し、夢中になって口篭りながら言った。「陛下―――どうぞご一緒させて下さい。」
ベーオウルフは首を振ったが、若い戦士を見遣る眼は温かであった。
「成らぬ、成らぬ。私は未だ王だと言ったばかりではないか。これは軍勢の為の戦いではなく、一人の為の戦いだ。グレンデルとの戦いが、そうで在った様に。だが、皆の者、武器を構えて此処で待て、彼方での戦いの行方を見守ってくれ」
改
ウィーイラーフは王の仕草を見て取って傍らにある王の鉄(くろがね)の楯を渡した。そして、夢中になって口篭りながら言った。「陛下―――どうぞご一緒させて下さい。」
「成らぬ、成らぬ」
ベーオウルフは首を振ったが、若い戦士を見遣る眼は温かであった。
「私は未だ王だと言ったばかりではないか。これは軍勢の為の戦いではなく、一人の為の戦いだ。グレンデルとの戦いが、そうで在った様に。だが、皆の者、武器を構えて此処で待て、彼方での戦いの行方を見守ってくれ」
そうして彼は重い楯を取り上げると、彼等の屯する黒焦げの木立の中から歩み出て、抜き身を手に、荒れ果てた谷へ下りていった。