貴方との出会いは春だった。

 桜咲く季節に入学してきた貴方は、まだ幼くて、でも少しずつ現れてきた『自覚』と『責任感』という二つの言葉。

 …だなんて書くと入学式で始めてみたみたいな書き方だけど、でもホントは違うんだよね。小学校の頃から存在は知ってたんだよ。

 何で知ってたかなんて聞かれても、私にも『分からない』としか言えないけれど。でも、まあ小さい学校だったから知ってても不思議じゃないんだよね。

 で、さ。中学校に上がって、みんな自分の入ろうと思っている部活を期待を含めたまなざしで見学しているけれど、そんな中貴方は違かったんだよね。見学にすら来ないの。でも部活入部していい期間になったらすぐにこの部活に来たよね。

 ――美術部。

 マイナーなわけでは無いけれど、この中学ではあまり目立たない部活の一つ。だから見学に来ても入る子なんて少なくて。今年は見学者も少ないね、だなんて同輩としゃべっていたら貴方が入部届けを届けに来て、その後は部活終了時間まで先輩と恐れることなく話し続ける貴方。

 なんて言えばいいのかな……。嬉しかったんだよ。しかもその後入部届けを届けに来た子は女の子4人だけ。男の子は貴方一人だったのに、それでも退部しなかった貴方。言ったら悪いけれど絵が特別上手なわけじゃないのに。目的があったわけではなさそうだけれど、それでも貴方が退部しないで三ヶ月が経った。

 三ヶ月…つまりは7月になった。この学校の美術部は毎年7月に美術館巡り、をするんだよね。みんなつまらないけれど、わいわいと騒ぐの(もちろん館内では静かにするけれどね?)を楽しみにして集まって。

 ――この絵、俺でも描けるのに。

 …一瞬殴り倒したくなったのは秘密。だってだって、すごい尊敬していた絵師さんの絵をそんな風に言われれば、誰でもなる…よね……?

 ……。話がずれた。私が言いたいのは、その後の出来事。美術館からの帰り道、私が一人迷子になったときのこと。なんで迷ったか、は秘密。って言うか私ですら分からないから、秘密とは違うか。

 流石に泣かなかったけれど、でも心細かった。もう諦めて、適当に電車に乗って彷徨うか、だなんてことを考えていたら。

 ――先輩、その電車に乗ってどこに行きたいんですか?

 貴方の声がした。え? って思って思わず振り向いたら、先輩でも同輩でもなく後輩の貴方がいた。まあ、先輩、って言ってる時点で後輩しかいないんだけどね。

 兎にも角にもよく私がいないの分かったね、って半ば自嘲気味に言ったら貴方はこう言ったんだよね。

 ――先輩のことですから。

 意味深、そう思った。だって別に恋愛感情が入っているわけではなさそうな言い方。でも嫌いだから、ってわけでもなさそうで。とりあえずありがとう、と言ったら『いえ』。それだけ。でも私は媚びる人間が苦手だからちょうど良かった。

 で、その『迷子事件』と称した出来事からもう三ヶ月。10月になって…。

 10月28日の部活の終わり時間に、貴方は言った。

 ――俺、明日引っ越すんで。今までありがとうございました。

 え・・・? っていう先輩同輩、みんなをおいておいて貴方はさっさと家に帰っていった。

 なんで、なんで秘密にしていたの? みんなのそういう気持ちを全部全部無視して、一人で帰っていった貴方。正直腹が立った。みんなを驚かせたかったのかなって。みんなのことなんてどうも思っていないのかな、って――・・・

 でも違うんだよね。今更なって気づいた。貴方は単純に『別れ』を認めるのが嫌だったんだよね。『思い出』にされて終わるのが嫌だったんだよね。何も言わずに去ったら、せめてその出来事を覚えていてくれる…。

 そう思ったんだよね。今になって分かったよ。ごめん、ごめんね、気づくのが遅くて。

 みんなが好きだったんだよね。この部活を好きだったんだよね。最後に貴方が残した手紙に、一生懸命敬語を使っている手紙に、それが証明されていて。

 私は、本当に本当に、本当に愚かな人間だね。ゴメンね、気づけなくて。

 ごめんね、貴方が本当は引越しなんてしないと気づくのが遅くて。

 気づいたときにはもう手遅れで、貴方は一人でいなくなったんでしょ? 私がいないのに気づいたのも『居なくなる』っていうことに敏感になってたからだよね……。



    




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今までありがとうございました。僕は実はこれでも体が弱くて、部活に入るつもりなんてまったく無かったのですが美術部の皆さんの楽しそうな姿を見て、文化部でも体力を使わないこの部活なら入れるだろうと思い入部させていただきました。

本来ならば1年が終わるまでは平気だったはずなのですが、都合上そうもいかなくなり先に去らせて頂きます。

先輩の送別会に出たかったのですが。残念です。一足早いですが『今までありがとうございました』。

この言葉を言わせていただきたいです。

それから現在2年生の先輩方。これからの美術部を期待しています。

上から目線かもしれませんがこれが僕なので許してください。こんな僕を後輩として扱ってくれてありがとうございました。

こんな終わり方で失礼と存じておりますが、書くことが思いつかないのでこれにて筆を置かせて頂きます。

それでは、先輩、同輩方はどうか元気でいていただきたく思います。


PS・迷子には気をつけてくださいね。

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ねえ、今貴方は元気でいられていますか。

元気に、笑えていますか――?