捻じ込む。その言葉に、私は怖気づいた。「スクリュウ」という単語が、用いられたからである。それには「性交」の意味もあるのだ。とはいえ、自分は女ではない。下半身に捻じ込まれるような所は……あるのだった。

〝ウソでしょっ? まさかっ〟

〝きっとそのまさかさ.あんたのケツの穴にあたしの人差指を捻じ込んで,いま外から揉んでやってるとこの内側を,いじくってやろうってんだよ〟

 うしろからの声がそう答えた。プロステイトという言葉の意味が、そこで私にも理解できた。「前立腺」のことなのだ。それがわかったことにより、ある記憶が、私の頭に浮かび上がってきた。

 

 大学の同窓生に、アメリカン・フットボールの選手がいた。とある試合で脊椎を損傷してしまった彼は、長い入院生活を強いられることとなった。

 私と仲がよかっただけに、その男も大の女好きであった。ただ、相手のほうは脳味噌が筋肉になるほどに運動に明け暮れていたわけで、彼我の体力には雲泥の差があって当然だった。実際、彼本人も、一晩に四人の女を「昇天」させたことがあるなどと、うそぶいたりしていた。

 肉体からの訴えが強いがゆえに、多くの女を求めるわけである。足腰が立たなくなっていようとも、溜るものは溜っていくにちがいない。一方で彼は、自分の手を用いての行いは身体を害するものだと、頑なに信じている男であった。思春期の少年のように、夢で下着を汚しているものと、私は想っていた。

 何度目かの見舞の折、そのことが話題にのぼった。看護婦に、溜り汁を抜いてもらっているという。ポルノ映画のようなことが現実にも行われているのかと、私は問うた。彼は大笑いした。前立腺なるものが、男にはあること。男の袋のうしろ、身体の内部にあることから、教えられた。尻の穴から指を入れてもらい、そこを直接に圧してもらっていると、難なく出せるのだ。そう説明された。女に入るのとは別種の味わいがある。そうも言っていた。

 

 男に犯されるわけではない。経験しておいて損はないのではないか。そんな考えが、私の頭に生まれた。だが、いくら手袋を着けているとはいえ、汚物の出口に指を入れさせるわけである。自分からそれを求めるのは、さすがに憚られた。私は黙っていることにした。

〝なあモニカ,どうするよ?〟

〝ヤだ.やっぱヤだよフェイ.あれやると,あとが臭いったらないじゃないか.とくにヨッパライは,下痢もらす奴もいるし.中国人やインド人は,いつも妙なもん食ってるから,コンクリートにでも沁みそうな,真っ黄色の屁をたれたりしやがるしさ.‥‥なあサック.あんただってそんなのヤだろ? どうしたら興奮できんのか,おしえとくれよ.あたしらも協力するからさ〟

 経緯から察するところ、フェイは助手のような存在であり、すべての決定権はモニカにあるようだ。そちらが拒んでいるとあっては、絶望的といえる。嫌がらせを言ってやることで、私は憂さを晴らそうと思った。

〝男は女とちがうんです.目を閉じて昔の相手の身体のことなんか思い出したって,興奮なんてできませんよ.ポルノ雑誌でもあれば,なんとかなるでしょうけどね〟

〝そうかっ.ってこたあ目から刺激を受けりゃあおっ立つってわけかっ?〟

〝んまあ.ストリップだって,男のためにあるようなもんでしょ?〟

〝なるへそっ.ねえサック.あたし四十四だけど,子供うんでないんだよ.だからパイオツも垂れてない.かなり自信あんだよ〟

〝ちょっとモニカ,あんたこんなときに何いいだすんだい?〟

〝あんたは黙ってとくれよ.あたしにも女の意地ってもんがあるんだ.あたしのマッサージでイカなかった野郎なんて,一人もいなかったんだ.いるはずがないんだよ.しかも,こんなに汗だくになってまで,さすってやってるっていうのに.何が何でもこの両手だけで,このアホタレをイカせてやるんだ.‥‥ちょっとフェイ.こっちい来て,しばらく交替しとくれ.したくするからさ.よおサック.あたしがいいって言うまで,目を開けんじゃないよ.いいね?〟

 うしろからの刺激が消滅し、前からの刺激が一新された。たしかに、それまでの動きと比べると、ぎこちないものであった。若干ではあったが、私は血が凹むのを感じた。束の間の辛抱だろう。そう思いながら、為されるがままになっていた。

 かなり自信がある。モニカのその言葉が、ふと耳に蘇ってきた。ご自慢のものを披露されたところで、所詮は四十四の、それもひどく肥満した女の胸乳なのである。彼女の整った顔だちと交互に眺めたとしても、果して自分は興奮できるだろうか。もしも不可能であった場合には、侮辱されたと、思われてしまうのではないか。そのせいで、よほどひどい仕打ちを受ける破目に陥りはしないだろうか。かくて、私の不安は尽きることがないのだった。それほど遠くない場所で、乱暴というよりは狂暴な音が、生まれ続けていた。

 是が非でも興奮するんだ。私は自分にそう厳命した。モニカの言にたがわず、フェイから茶々を入れられるまでは、その気になれていたわけである。視覚を通じての手がかりも、この回には得られるのだ。三日分が、溜っている。精神を集中させること。それさえ叶えば、黒い中年女が満足する結果を、出せる道理である。

〝フェイ,またうしろから揉んであげて〟

 元あった刺激が、前後に復帰した。

〝さあサックちゃん.目を開けてごらんなさあい〟

 モニカが本気であることを、私は解した。

〝そのまえにお願いがあります〟

〝なあに? あたしのおっぱいのあいだにあなたのおちんちんを挟んで,シコシコしてほしいとでも言うわけえ? あいにくだけど,それはできないわよ.だってまだあ,あなたがお病気じゃないかどうか,わかんないんだもん〟

〝いやあ,そんな大それたことじゃないんです.より短い時間で終らせるために,ナニが出るまでは,おふたりとも一言も話さないでください.ゴルファーがパットを打ち終えるまでと同じように〟

〝はあい.あなたもいいわね? フェイ〟

〝了解です,ジャクソン警部補〟

〝でもねサックちゃん.あなたがお口を開けるのは,いいのよお.悶えたり唸ったりも,したくなるでしょ? それにほら.あなたの大事なお汁が出そうになったら,おしえてもらわないといけないしい〟

 最後の一言は、蛇足であるように、私には聞えた。要するに、モニカは、彼女の胸の瘤起への賞賛の言葉が、聞きたいだけなのであろう。そう想われた。

〝さあ,準備はバッチリよ.いいこと,サックちゃん.お目めを開けたら,うしろにいるフェイにもそのことがわかるように,何か言ってちょうだい.いいわね?〟

 それには、私は答えずにおいた。視力を失っていた時間が長い。ゆっくりと、目の覆いを引き上げていった。

 眩しい。見えるのは、白一色のみである。だが私は、用意してあった言葉を、矢継ぎばやに吐き散らした。

〝こりゃスゲエッ.なんてキレイなパイオツなんだっ.ああっ.たまんねえぜっ.‥‥ううっ.‥‥ううっ.‥‥興奮してきたぞ〟

 実のところ、私の視覚がまずとらえたのは、モニカの美顔なのだった。嬉しそうである。彼女の自尊心をくすぐることには、成功したものと想われた。露骨な角度、彼女にも確実にそうとわかる角度から、その胸のふくらみを観賞してやったほうが、より喜ばれる気がした。下あごを首にめり込ませたうえで、私は両目を落下させた。

 嘘から出た誠。そんなことになってしまった。それらは、本人が言っていた以上に、整った形状をしているのであった。固い唾に咽を鳴らされ、私は正気づいた。自分のその振舞に、恥じらいを覚えた。視野を広げ、醜い太鼓腹をも眺められるようにして、どうにか冷静さを取り戻すことができた。

 しかるに、それらが曝されている目的は、私を興奮させることにあるわけだ。悦ばしい刺激も、勘所には加えられ続けている。なぜに冷めている必要があろうか。そう思い直し、私は視野を狭めた。

 汗によるのであろう。モニカの二つは黒光りしている。膨らみ具合とは不釣合な突起、慎ましい二つが、両の瘤の先端で忙しなく跳ね回っている。そこで、それらが揺れているのだということを、私は認めた。横揺れよりも縦揺れのほうが多い。そのことは、肉が若いということを意味する。若い女の肉なのを思うと、男の本能がぐっと高まってきた。鼻息の荒くなっていることが、腹部に吹き下ろされる風の強さにより、自分でもわかった。

 モニカの顔が見たくなり、私は目を上げてみた。その首のあたりが、捉えられた。アゴを取り巻いている肉のたるみの存在が、惜しまれた。好ましい連想の利くもの、その唇へと、目を遣った。両端が釣り上げられていた。つまりは、上機嫌でいるらしい。そうであろうと想ったが早いか、私は口を開いていた。

〝もう我慢できませんっ.どうか触らせてくださいっ〟

 うしろからの刺激が途絶えたことで、私は我に返った。モニカの目を正視した。真うしろにあった気配が、ななめ後方にズレている。フェイもモニカを見ているようだった。

〝すみません.‥‥あまりにもお美しい胸なので,つい〟

 モニカは歯を見せた。口の形だけで「オーケー」と言った。続いて、アゴを突き出した。その黒目は、私を見ていなかった。背後の空気が動き、後ろからの刺激が再開された。

 二十四の私の対象は、最高齢でも、七つ上までに限られていた。そういった女が相手の場合には、連れ歩くのに無理がないかを考えるあまりで、その衣服に隠されない部分を、むしろ重視していた。結果、平らかな胸の持主が多かった。そして、そんな胸に限って、図々しく太い、男の唾液で焼け爛れたとしか想えない色合いの突起を、悪びれずに並べていた。触れてみようという気にさえ、私はなかなかなれなかった。

 私とは母親ほどの年齢差があるというのに、モニカの二つは、外見にふさわしい張りがあるのだった。それらの内容は贅肉と変わりないはずなのに、そんな触感はまるでない。触るが撫でるに。撫でるが揉むに。段々と、私は大胆になっていった。一方、二つの突起は、尖りだしてはいるものの、母親の前で虚勢を張っている幼女、といった感じである。舐めたり吸ったり転がしたり。そういった口舌での行いにも似た動きを、私は指に命じてもいた。もちろんのこと、彼女の気が変わるのを恐れ、賞賛の言葉を雨あられと浴びせることも、忘れなかった。