朝刊にはオアシスのチラシが入っていた。
地元のサピエというショッピングモールの中にあるオアシスだ。
イヤ、ショッピングモールというのは良く言いすぎたかもしれない。
とにかく徒歩圏内で買い物ができるのはここぐらいのものだ。
何気なくチラシに目を通すが特に気になるものはない。普段から食料品の買い物に行くことなどないから当然か。
しかし今朝は時間に余裕があった。そこでふと、なにか買ってきてあげようか?などと口走ってしまう。
優しい気持ちなど微塵もない、ただの言葉だ。
その言葉を聞き逃さなかったのがこの家の奥さんのすごいところだ。
すかさず、買ってきて欲しいものを紙に書き出した。
普段なら買い物は必ずこの奥さんが行っているのになぜ?
紙に書き出されたものはどれもチラシに乗っている、いわゆるお買い得商品ばかりだ。
今すぐ必要なものではないがお買い得だ、わざわざ買いに行くほどでもないが行ってくれてるのであれば買っておきたい。
ということだろう。
僕は何気ない自分の一言を悔んだ。
徒歩圏内のお店とはいえ、歩いて行くことはほとんどない。
イヤ、一度もないと言った方が正直だろう。
田舎は坂道が多いのが難点だ。
車で五分もかからずに到着したが駐車場がいつもよりも混雑していた。イヤな予感がする。
店内に入ってすぐにイヤな予感が的中。
ポイント5倍デー。
人だらけだ。
僕は奥さんにわたされたメモ書きをたよりに、なれない店内を探し回った。
メモに書かれた商品は意外とすぐにみつかった。お買い得!や、チラシにのってます!のように赤い字で書かれた商品ばかりだからだ。
こういう商品ばかり買われるとお店サイドとしては良くない客なのではないか?などと余計なことを考えてしまう。
レジには行列ができていた。
というよりも店の半分が行列だった。
これに並ぶのか?
あきらめて帰るか?そんな選択肢が頭のに浮かんで消えた。
消したのは奥さんの存在であったことは言うまでもない。
一箇所、あきらかに行列が少ないレジを見つけたので小走りで並んだ。
少しでも早く終わらせたかった。
並んでるときはヒマだ。
とくにすることもなく、あたりを見回す。
そこである事に気がついた。
僕の後ろにはあまり人が並んでいない!?
まさか?
確認する必要がある。
僕は隣のレジで僕のはるか後方に並んでいるおばあちゃんを1人覚えて「基準のばあちゃん」と名付けることにした。
KB(基準のばあちゃん)が僕より早くレジを済ますようなことがあればこのレジはあきらかなるハズレレジということになる。
今日は予感が良く当たる日だ。
KBはあっさりと僕を置き去りにした。
僕の後ろには何も考えていないようなおじさんやおじいさんがポツリポツリと並んでいるだけだ。
愕然とした。
ここにいる全員がレジの遅い人の顔を覚えているということか!?
僕はフィールドで誰にも止められない自信がある。自慢の足でディフェンダーを置き去りにしてきた。
しかしここでは僕が置き去りにされるのか!
イヤ!
僕にもプライドがある。
やっと僕がレジに到達したころ、さっきのKBは持参したエコバッグに袋詰めをしていた。
荷物は多そうだ。
僕の荷物は少ない。
まだやれる!!あきらめるな!
次の瞬間、僕の決意は一蹴される。
KBの袋詰め
一連の動作は流麗かつ緩やかに行われ無駄のない動きは美しくすら感じた。まるで
千手観音様!!
速やかに立ち去る後ろ姿には後光がさしているようにすら見えた。
完敗だ、、、。
完全に負けた。
自分の無力さに打ち拉がれていた僕にレジのおばちゃんが優しく話しかけてきた。
「レジ袋お持ちですか?」
「えっ、いや、もってないです。」
袋くれるんじゃないの?と思った。
「レジ袋5円になります。」
完敗だ。
外は天気が良かったが、風が少しさむかった。
上着を暖かいほうにしておいて良かった。