至福の5分間① | 三食カレーの 振り向けば桃源郷

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気持ちが落ち込んだ時、この5分間に浸れば一転気分爽快、という特効薬がある。「ぼくの」という制約はあるのだが、広い世の中、この薬が効く人がほかにもいるかも知れないので、まあ紹介するのも無駄ではないかも。少し長くなりそうなので、2回に分けて。

◇キャロル・ヘイニーの「スティーム・ヒート」

ドリス・デイ主演の映画「パジャマ・ゲーム」は、パジャマ工場の労働争議が舞台。ユニークといえないこともないストーリーだが、そこはミュージカル、軽妙に話が進みます。ぼくが推すのはただ一景。組合の決起集会での三人組のダンスナンバー「スティーム・ヒート」です。

中年男二人にはさまれた紅一点のキャロル・ヘイニー。振り付けは、かのボブ・フォシー。映画「キスミー・ケイト」では、この二人が組んで息の合ったデュエットを披露していました。ここでも「張り切れ!組合員」みたいな歌詞に乗せて、神経症的な、いってみればフォシー節の激しいダンスシーンを満喫させてくれます。

オリジナルのブロードウェイの舞台でも、帽子を放り上げて片手で受け取るアクロバティックな動きをやっていたのか。ロングランの最中には、帽子を取り落とすこともあったのでは、といらぬ心配をしてしまった。男二人の片方はフォシー本人だという解説を読んだ記憶があるが、ぼくにはどちらも別人にみえるのだが。

天才振付師ボブ・フォシーにしてなお、一世一代の冴えを見せた5分間。ぼくは何度見ても満面の笑みを浮かべてしまいます。


◇ジュディー・ガーランドの「スワニー」

映画「スター誕生」は、MGMのドル箱スターだったジュディー・ガーランドが、薬物依存などで大作「アニーよ銃をとれ」を撮影途中で降ろされた後、失意からの再起を図った作品。ストーリーは重苦しく、ぼくの好みではないのだが、主人公の女性が自分の半生を歌い、踊りながら綴るかなり長いミュージカル・シーンだけを繰り返し見ている。

タイトルは「ボーン イン ア トランク」。トランクの中で生まれたというのは、生まれながらの旅芸人という慣用句のようだ。ガーランド本人の生い立ちを連想させている。「私は、アイダホ州ポカテロのプリンセス劇場のトランクの中で生まれた」という歌いだしから、田舎の舞台で修業を積んでチャンスをうかがい、ついに中央で歌手として認められるまでを、「ピーナツ・ベンダー」「マイ・メランコリー・ベイビー」などの歌でつないでゆく。この構成も、さすが本場アメリカのショービジネスと、うならせてくれる。

そして最後に、あの輝かしい全盛時代を思い出させてくれる「スワニー」。男装のシルクハットとスティック姿で歌い踊る。このシーンはわずか1分程度だが、何物にも代えることのできない瞬間だ。


◇NHK名曲アルバム「ロマの踊り」

NHK名曲アルバムを見ていて、いっぺんに魅かれてしまった。だから正確に5分間。ビゼーの「カルメン組曲」から「ロマの踊り」。以前なら「ジプシーの踊り」ということで、画面にはスペイン・セビリアの女性フラメンコ・ダンサーが登場する。路地裏のタブラオが仕事場だという。

すでに若くはなく、生活の疲れもただようが、踊るのが大好き、と紹介される。稽古場の練習風景からステージに場所を移すと、その表情が一変する。まるで猛獣を思わせる鋭い視線で観客に挑戦するような激しいフラメンコに引き込まれた。ぼくは一度バルセロナのやはり小さなタブラオでフラメンコのショウを見たことがあるが、ステージの踊り手も、歌手も、ギター奏者も、ぼくとは全く違う人生を生きている人たちだという思いを禁じ得なかった。