散歩道
午前の家事を終えると、母は散歩にでかけます。
お決まりのコースをゆっくり10分ほどの散歩です。
私は自転車で実家に来る途中、ちらりと見えた桜並木の紅葉を
思い出し、いっしょに散歩へ行くことにしました。
母のいつもの散歩道から桜並木はすぐ見えました。
母は「わあ、すごいきれいやね!ひとりで歩いてると気が付かなかった・・・」と
笑顔で言いました。
並木道を進むと赤やオレンジ色の桜並木から
黄金色のいちょう並木に変わりました。
さらに進むと山茶花(さざんか)の並木道になり紅色の花が
秋のやわらかな陽射しに輝いて咲いていました。
母はふと言いました。
「お父さんの山茶花も咲くかな。」
その山茶花は玄関先に植えられていて、高さ20センチほどのまだかわいい苗です。
昨年、冬の寒さの中、紅色の花をつけていました。
「9年前ここに引っ越してきた時にな、お父さんがこの山茶花の苗を植えはってん。」
と母から聞きました。
私はこの山茶花の話を聞いて、以前旅先で私が撮った父のスナップ写真のことを
思い出しました。
そこには
いつのまにか一輪の花を持って、誇らしそうに笑っている父が写っています。
宿で待っている母にあげるのだと・・・
「お父さんの山茶花に小さなつぼみがいくつもついてたから、
今年も、もう少しで咲くよ。」と私は母に答えました。
「ああ、そう・・・よかった」と母は弾んだ声で言いました。
母とのささやかな冬の楽しみです。
ぷちとま