自分の中で特撮熱が上がりすぎて持て余してたので
勢いで恐竜SS書いてしまった。
緑黒です。
緑黒です。
誰が何と言おうと緑黒です。
金や士郎さんが出てきますが緑黒のつもりで書いてます。黒緑じゃないです。
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黄金の地、スピリットベース。
キョウリュウブラック―イアン・ヨークランドは、遺跡のようなこの空間にはおよそ似つかわしくない白いビーチベッドに寝そべっていた。恐竜達のスピリットが集うとされるスピリットベースは、不思議とイアンの心を落ち着かせた。本来は考古学者であったイアンには、石の冷たさや土のにおい、肌に触れるこの空気が妙に心地よいのだった。
今ここにはイアンともうひとり、キョウリュウゴールドこと空蝉丸がいる。
時刻は午後3時を少し回ったところだった。
ナンパに失敗したイアンは退屈をもてあそびここへ足を運んだのだった。平日の昼間なので、学生であるソウジとアミィはいない。ダイゴはノブハルの仕事を手伝うと言って少し前に出ていった。安っぽいビーチベッドの上でうつらうつらしていたところに、空蝉丸はやって来た。
イアンは大仰に足を組み替えながら空蝉丸を流し見た。石造りの円卓に腰かけ、せっせと二人分の茶を淹れている。甲斐甲斐しいその姿はあまりに女性的で可笑しかった。
イアンはふと、そんな空蝉丸の背中に過去の自分を見た気がした。
研究で徹夜明けの男のためにコーヒーを入れる自分。
反射のように息を吸ったあと、思わず嘲笑を浮かべる。今は亡き追憶の面影と、不意にそれを思い起こした女々しい自身に。思えば、男女の真似事をするあの頃の自分たちは実に滑稽だった。滑稽で、そしてあまりに幸福に満ち満ちていたように思えた。
「ウッチーはさぁ」
口をついた言葉にもっとも驚いたのはイアン自身だった。目の前に置かれた黒い湯呑からは湯気が曖昧に立ち昇っている。空蝉丸はきょとんとして続く言葉を待っていた。何を言おうかと逡巡したのも束の間で、かねてから心に留まっていた事柄が、すぐにイアンの口をついた。
「その、お館様?と、恋仲だったりしたの」
「な、なにをおっしゃるか、イアン殿!」
言い終えるよりも早く、空蝉丸が遮るように声を上げた。手にしている湯呑を取り落すのではないかと、見ているイアンがひやりとするほどの狼狽ぶりだった。
「そんなに慌てるなって。素朴な疑問だよ、ギ、モ、ン」
なおも落ち着かない様子の空蝉丸に、イアンは思わず小さく噴き出した。まさか、勘付かれていないと思っていたのか。イアンは空蝉丸の純粋さを好ましく感じた。
「拙者とお館様は主と家来、それ以外の何物でもなかったのでござる」
それは誤魔化しではなく、空蝉丸が自分自身に言い聞かせているかのようだった。
「それでもウッチーはお館様のこと、好きだったんだろ。主だからとかじゃなくて、もっとちがう意味でさ」
俺には分かるぜ。イアンはひとりごとのようにつぶやく。
好きだった。研究仲間だから、親友だからなどではなく、もっと別の。
またも空蝉丸に過去を重ねていることにはっとして、イアンはひっそりと眉根を寄せた。
「イアン殿には、敵わないでござるな」
空蝉丸がはにかみながら笑う。これ以上ないくらいに柔らかいその笑顔に、イアンは心をくすぐられてむずがゆかった。
「拙者の、ひとりよがりな恋慕でござった」
息をつくように、そう空蝉丸はこぼした。口数に反して、その表情は饒舌だった。ふたりとも意味もなく手指をいじり、まばたきが増える。昔を懐かしむその口調は、間違いなく、少しの後悔を含んでいた。
「お館様もきっと、某のよこしまな恋情に気づいていらした。気づいたうえで、お傍に置いてくださっていたのでござる」
「ウッチーは、分かりやすいもんな」
「アミィ殿にもそう言われたでござる」
お互いの顔を見て笑う。肩から力が抜けていくのが分かった。一息ついて空蝉丸は言葉を続けた。
「拙者はそれで、それだけでたまらなく幸せだった。触れようなど、想像したこともなかったでござる。…初めてお館様の肩を抱えたのは、お亡くなりになる直前。あれが、最初で最後でござるよ」
ふぅん、とか、へぇ、とか、イアンはとにかくその類の相槌をうった。他に何を言う余裕もなかったし、言いたくもなかった。イアンはどうしようもなく士郎を思い出していた。振り切ったはずの記憶に手が震える。祈るように指を組んで収まるのを待ったが、本当は今すぐ、誰かに手を握っていてほしかった。士郎が死んだのは自分のせいではない、そう言い聞かせてほしかった。
「少し口が過ぎてしまいましたな。なんだか、みっともないところをお見せしてしまったでござるな、イアン殿」
イアンは空蝉丸の目元が僅かばかり湿っているのを見逃さなかった。強く握った手の甲には、赤い爪の跡が残っていた。しかし、イアンにとってはそんな空蝉丸は自分より何倍もしたたかに見えた。空蝉丸は過去を過去として受け止めようとしている。自分はどうだ。いつまでも記憶に縋って、前を見ること、進むことに臆病になってはいまいか。
ないまぜになった感情を振り切りたくて、イアンは勢いに任せて空蝉丸と肩を組んだ。
「いや、俺こそ口を割らせるみたいな真似して悪かったよ。この話は、俺とウッチーのヒミツだ」
「ふふふ、心得たでござる」
唐突に、基地の中が光に包まれる。瞬きをひとつすると、そこにはもうひとつの影が表れていた。
「ソウジ殿!」
緑色のブレザーに身を包んで立っていたのは、立風館ソウジだった。華奢な背中には竹刀袋を抱えている。
「ウッチー、イアン。他のみんなはまだなの?」
「キング殿とノッさん殿はお仕事に向かわれたでござる…って、あーっ!?」
いきなり声を荒げた空蝉丸にふたりは目を丸くした。なんでも、夕方から取り付けていたアミィとの約束をすっかり忘れていたらしい。腕時計を確認して、慌ただしくスピリットベースから消えた。その腕時計も、アミィが選んだものだった。先ほどまでのしおらしい空蝉丸とは別人のような様子に、イアンは思わず苦笑した。
「よう、ボーイ。部活は終わったのかい?」
「終わったからここに来たんでしょ」
ソウジはため息交じりで答えた。いつもより乱雑に床の上に置かれたかばんと竹刀。そして自らを射貫くソウジのまっすぐな視線に、イアンは気づかないふりをする。
「ボーイ、お茶でもどうだい」
「いらない。あと、女の子に声かけるみたいにして言わないで」
いつもよりソウジの当たりがきつい。イアンはそう思ったが、口にすることもからかうこともやめた。ソウジのそれが、青臭い嫉妬だと知っていたからだ。自分に注がれるそれが、愛おしかったからだ。
「ウッチーと、なに話してたの」
「“おとな”の話だよ。ボーイにはまだ早いさ」
「ちょっと!はぐらかさないでよ」
飄々としたその態度にソウジはむっとする。ボーイというのも気に食わないし、何よりわざと壁をつくるようなイアンのその言い方が癪に障った。唇を重ねても、身体を重ねても、リードするのはいつもイアンのほうなのだ。埋まらない7歳の差。それがソウジにとっての何よりのコンプレックスだった。
「距離だってやけに近かったし。それ、俺には話せないようなことなの」
「まぁまぁ、怒るなよ。誰もそんなこと言ってないだろ。ちょっと昔話をしてただけさ、いつかボーイにも話すよ」
なだめようとするイアンの言葉は、またもやソウジの胸を刺した。
イアンの昔話、それは間違いなくかつての恋人のことを指している。ソウジは痛いほどわかっていた。それとなく尋ねても、いつもうまくかわされてきた話題だった。それを空蝉丸には話すことができて、仮にも今の恋人である自分には話せないというのか。
「俺はそんな“いつか”みたいな話がしたいんじゃない。話せないのは、俺がまだ子どもだから?」
言葉が口からこぼれて止まらなかった。そのうちに、ソウジの中では怒りよりも切なさが強くなっていた。
「俺が、頼りないから?」
「おい、落ち着けって。違うだろ」
「…思い出に勝てるわけ、ないだろ」
ソウジのか細い声に、イアンははっとした。ソウジが取り乱したのは、嫉妬心が原因なんかではない。不安なのは、ソウジも同じなのだ。そうさせたのは、紛れもないイアン自身だった。
自分が過去を振り切れないことで傷付くのは、何も自分だけではない。それを今ようやく確かめることができた。
「…ボーイ、可愛いこと言ってくれるね」
「ふざけないで、俺は怒ってるんだよ」
イアンはソウジの左手首を捕まえる。軽く引き寄せて、自分より少し低い首元に顔を埋めた。ソウジは反射的に身体を強張らせる。柔らかい黒髪がソウジの頬をくすぐった。
「ちょっと…」
「勝とうなんて思うな。思わないでくれよ。そういうのって、勝ち負けじゃないだろ。…ああ、お前じゃ思い出に敵わないって意味じゃないから、履き違えないでくれよ」
耳元で響く、いつもよりワントーン低いイアンの声。ソウジの鼓動は早鐘を打っていた。こんなときにどうしたらいいかわからない自分の不器用さと勇気のなさがもどかしかった。自由な右手でイアンの手を握ることも、背中を抱き返すこともできるのに。
「とにかく、俺の中の士郎は、今じゃもう記憶なんだよ。どうすることもできない過去なんだよ。だけどお前は違うだろ。今、俺と一緒にいるのは誰だ。他の誰でもない、お前だろ」
「うん…ごめん。俺、子供みたいなこと言ったよね」
「お前が謝ることじゃない。俺だって悪かった」
イアンは顔を上げて言った。手首を掴んでいた手が滑って、指と指を絡ませた。頭をぽんぽんと撫でられたソウジは、子どものようなその扱いに少し顔をしかめた。気が付いたイアンはばつが悪そうに手をおろす。
「俺のこと、好きでいてくれてありがとう、ソウジ」
「…よくそんな歯の浮くようなせりふ、言えるよね」
「こうでも言わないと、機嫌治らないだろ」
照れくさそうなソウジの顔をイアンは穏やかに見つめる。 名前で呼ばれたことに、ソウジはわずかに浮き足立っていた。イアンはそっと目を閉じた。
「さぁ、こういうときどうするかくらい分かるよな」
「えっ」
「子ども扱いしてほしくないんだろ。俺をカッコよくリードしてくれるんじゃないのか、ん?」
挑発的に口角を上げたイアンはとても色っぽく、ソウジの心臓は大きく跳ねた。ソウジは数センチ高いイアンの口許に背伸びをする。まずは早くイアンの身長を抜かそう、そんなことを漠然と考えながら。
金と黒は百合






