第五章市ヶ谷（４）

【法廷】⑤

国立国会図書館　松井石根宣誓供述書の一部

南京事件について触れている

次に南京大虐殺について考えてみましょう。

南京大虐殺については2006年に河村たかし衆議院議員（当時）がその事件の有無も含めて政府見解を求めました。

当時の小泉純一郎首相はこう答えています。

「1937年の旧日本軍による南京入城後、非戦闘員の殺害又は略奪行為等があったことは否定できないと考えている。」

認めているわけです。

ただその行為の内容や犠牲者の数については諸説あるのでなんとも言えません。

では東京裁判ではどのように判定されたのかをみてみましょう。南京大虐殺を防止できなかったとして死刑判決を受けた松井石根大将の判決を裁判速記録から引用します。

南京が落ちる前に、中國軍は撤退し、占領されたのは無抵抗の都市であった。

それに続いて起つたのは、無力の市民に対して、日本の陸軍が犯した最も恐ろしい残虐行為の長期にわたる連続であった。

日本軍人によつて、大量の虐殺、個人に対する殺害、強姦、掠奪及び放火が行われた。

　　（中略）

この六、七週間の期間において、何千という夫人が強姦され、十万以上の人々が殺害され、無数の財産が盗まれたり、焼かれたりした。

この判定によって、松井大将は軍を統制し、南京市民を保護する義務を怠った責任を問われ、死刑判決を受けたわけです。

たしかに疑わしい証言があったことも事実のようですが、日本政府は東京裁判を受け入れているわけですから、この判定を認めていることになります。

松井大将も宣誓供述書の中でこう述べています。

「予の南京占領に對する周到なる配慮に係らず、占領當時の倥惚たる状勢に於ける興奮せる一部若手将兵の間に忌むべき暴行を行ひたる者ありたるならむ。これ予甚だ遺憾とするところなり。」

また巣鴨プリズンで花山師に対し、このように話しています。

南京事件ではお恥しい限りです。

　　（中略）

師團長はじめあんなことをしたのだ。

　　（中略）

慰霊祭の直後、私は皆を集めて軍総司令官として泣いて怒った。

　　（中略）

折角皇威を輝かしたのに、あの兵の暴行によって一擧にそれを落としてしまった、　と。

ところが、このことのあとで、皆が笑つた。甚だしいのは、或る師團長の如きは「當り前ですよ」とさえいつた。

（前掲「平和の発見」229頁）

規模や内容はともかく、事件そのものがあったことは認めているわけです。

次世代への伝言 ＃１３６ 第五章 市ヶ谷（４） 法廷⑤

次世代への伝言　＃１３６　第五章市ヶ谷（４）法廷⑤