第四章沖縄の海（５）

【妻と飛んだ特攻兵】②

読売新聞　1977年8月12日　夕刊

左上は谷藤少尉夫妻

大虎山飛行場に駐屯していた大虎山分屯隊の10人は8月19日午後2時、錦州の本隊に向かうと見せかけて大虎山飛行場を飛び立ちます。

しかし十機は錦州とは違う方向、ソ連軍のいる方向へと向かうわけです。

この10人のうちの一人が、2月に結婚したばかりの谷藤徹夫少尉。

谷藤少尉は朝子夫人と共に飛行場脇の官舎に住んでいましたが、記事によると朝子夫人は

「もし夫が死ぬようなことがあったら子供もいないし生きていく張り合いがない」

と話していたそうです。10人のうちもう一人、大倉巌少尉。

彼は軍が借り上げた大虎山ホテルを宿舎にしていました。

十機が飛び立った後、皆は谷藤少尉の奥さん、朝子夫人がいないことに気づきます。

そしてもう一人いた女性も…。

すぐ探したけれども二人の女性はいない。

谷藤少尉は朝子夫人を乗せて行った…　大倉少尉の飛行機にも女性が乗っていた…。

大倉機に乗っていたのは宿舎である大虎山ホテルの女性従業員。

「ソ連軍に捕まるよりは、女でもお国のために…」

と大倉少尉に訴えていたそうです。

新聞記事は、あの女性は一体誰だったのか、二十歳くらいで色白、名前も遺族もわかっていない、と書いています。

8月19日　もう日本軍にとって戦争は終わっているのに…。

この新聞記事を読んでいて、僕は前作で少し触れた、吉田紗知「八月十五日の特攻隊員」（新潮社二〇〇七年）を思い出しました。

終戦を告げる玉音放送から数時間後、十一機23名の隊員が大分から沖縄に向けて出撃、八機17名が未帰還となった、いわゆる「宇垣特攻」です。

23人中の一人が血縁者であると知った著者はその隊員の痕跡を求めて尋ね歩くわけですが、

著者の疑問は

「戦争が終わったのになぜ出撃して行ったのか？」

という点でした。

次世代への伝言 ＃１１０ 第四章 沖縄の海（５） 妻と飛んだ特攻兵②

次世代への伝言　＃１１０　第四章沖縄の海（５）妻と飛んだ特攻兵②