“生きた死体”は、全体が痩せこけ硬直し、まるで干涸びて死んだ蜘蛛だ。顔は、日が経って縦じわのよったトマトのようである。裾から突き出ている手足は浜辺に打ち捨てられ日干しになった烏賊を思い出させた。五十センチほどに伸びた縮れた髪の毛は、ほとんどが抜け頭の先に落ちていた。おおきな耳殻が和紙のように薄く枯れているのが目に留まる。そして右手にはしっかりと袋ーー恐らくは金銀財宝の詰まった麻袋が、握られていた。
目玉が動き、口を開いた死体は、たすけてくれ、と確かに言った。
尖端に向かって湾曲した鉄柱が一本、脇で挟んだように床から突き出していた。どうやらフがよく、一撃は免れたようだ。ではなぜこの場で寝ているのか。床に散らばっている他の死体は体のどこかに貫通孔をかかえ、血を滴らせながら出口を探したのにちがいない。表面を覆う斑の赤錆が奥まで浸入し、この無慈悲な鉄串を役立たずにするまでに一体どれだけの落下が不可欠なのか。
親方に向き直った。腰を落とし顎の肉をつまむようにしてじっと見入っている。わたしは再び死体に目を移動した。
腰の辺りには、おそらくは腐敗した肉汁が流れていて、三センチほどの黒い虫が数十たかっていた。やがて虫たちは血の上流を求めて皮膚を食い破り、臓物にまで到達するのにちがいない。そして終いには、生きたまま鼠の餌になるのだろう。この惨状は、まさに地獄だ。リンボーの下には確かに地獄があった。
だが、こんな悲惨な状態にかかわらず、かれの表情は恍惚としていた。ニマニマしたような口元が、刻みこまれ、乾燥して固定された皺で強調されている。
たす、けて、くれ・・・ 死体がもう一度言った。
しかしそれは、音声というより、念に近いものであった。階上で聴いたと思った声も、幾多の不安と恐怖を越えて、俟ちわびた、飽和した怨念のような想いであって、それが一直線に飛んで来ていたのかもしれない。
わたしは彼の左手を取った。そして引きあげた。干葡萄か鞣し革のようだと感じた瞬間、ずるっと剥けて手袋が抜けた。再び床に落ちた腕は手首のところから外れ、弾け、散(ばら)けた。
手袋だと思えた物が男の手の皮だったと覚った須臾、おののき、ふるえ、腰がひけ後ろに仰け反って尻をついた。
