「ここは、おらだけが知っている通路じゃて」下を向いて降りながら親方は話す。「給金ももらわず作ってやった特別誂えの奉仕品じゃ」
壁や床の石組みと同じ材料で作ってある上に目の錯覚を利用した隠し絵のようになっていて、さっきの天窓から覘いて見ても判別できないのはもちろん、部屋にいる者さえ発見するのは困難だ、と親方は言った。段を降りるにつれ、ところどころボロボロに綻びた布切れがこびりついていた。
階段は四角柱の石を壁から突き出させるように嵌め込んであった。地下一階の床から一メートルほど離れたところから始まっていて下に行くほど足を置くスペースが狭くなっていた。一段めは前にあったが、二段めは反転して後ろにつけられていた。そこから三段め四段めといくつかくだりが続き、いきなり段があがる。もう一段あがってからまた下がり始める。一番下は床から五十センチほどの所にあり、やっと爪先が乗るくらいの幅にまでなっていた。
これでは、真っ暗な部屋をまさぐって回っても容易にこれが上へ続く抜け道だとは気がつかない。そしてよしんば運よく壁のでっぱりの不自然さに気が付き昇り始めたとしても、段を切り替えてあるところで断絶。ーー多くはここで絶望するのではないか。絶望は即ち死。呵責と諦念が残像のように訪れた時には息絶えている。一縷の望みを断ち切られた者たちの残骸。それが段中の襤褸布なのにちがいない。
