この屋敷の広大な敷地の奥の奥のおそらく中央に本丸の館(やかた)があり、そこまで行くのに馬車で移動しなければならないほどの距離があった。

玄関のゲートに着くまでに、何重にもなった塀がわりの樹々を抜けた。なんとなく足のつま先を見ながら歩いた。いきなり現れる短冊のような小径の両側には樹木が並んでいた。

大きな屋敷には住み込みの庭師などが寝泊まりしていることがあったが、ここではそれらしき小屋は敷地の枠外に設けられているようだ。人の気配は感じられない。

「おらが家の形や造りを見て、持ち主の性格を言い当てていると思っちゃいけねえぞ」ちょっと荒い息で親方が言った。

「これは種明かしじゃ。まず、ピンと来る。それが形に現れているのを確かめているだけなんじゃ」

わたしは目線をちょっと前に移動しながら、親方の山勘の確かなことを振り返った。ほとんど予言めいた察知力によって先に先に行動し、難を逃れたことが幾らあったことか。

 

ざっ、ざっと二人が芝や砂利を踏みしめる音がしている。黄昏時でまだ黙視できる明るさなので見つかりやしないかと気が気ではなかった。

「心配するな。わしらが浸入しているのは、すでに発見ずみじゃて」

親方は当たり前のように言った。「ほら、二階のあのカーテンの隙間から見ておる」

城館はかなり遠くにあったが、そっちを見もしないで言った。思わず振り向こうとすると、シッ、ほれ、見るでない、と制した。

「あそこじゃ」

親方は、門の彫刻の方を指差した。「本当にでえじな物は、家の中には置いておらん」

その大事な物に近づこうとする者を知っていながらどうして放置しているのか。そんな疑問がうっすらと沸き上がる。芝生を踏みしめる音が幾十か続いたあと、親方は立ち止まった。そして、大きな石の台座の脇に腰をかがめ、再び口を開いた。

「誰もが素通りする、この玄関口にあるもんなんじゃ」言いながら、台座の後ろにあった蓋の把っ手をいじり始めた。

手許が見えなくなりかけていた。風が吹き、樹々の葉が幾枚か舞った。台座の上には、山羊のブロンズ像が置いてあるのがシルエットから察せられた。親方の素振り口ぶりにも未だわたしの疑念は解けない。

「番犬などいたら、わざわざそこに宝物があると教えているようなもんじゃ」

蓋が外れた。地下に向かって階段が伸びているようだった。蓋は錆のきた針金で簡単に留めてあるだけだった。

親方はカンテラを灯して段に足をかけた。そして臆することなく躊躇うことなく、スタスタ降りていった。まるで知悉済みのわが家であるかのように。

「もちろん、ここに来るのはワシも初めてじゃ」わたしの想いを推し量ったように言った。「正確には、できた後に来るのは、初めてじゃ」

石の階段に靴裏の刷れる音が大きく聴こえる。両側の壁は殊更狭く圧迫してくるようだった。わたしは親方の背中についた。