数人がたむろしていた。石やら木材に腰掛けている。時折猥雑な笑い声を立てた。人がいるのでアントンが近づいて行った。つんぼだからと、聞こえよがしに悪口を言っている。空気を察知したのか羞恥心か、数歩離れたところで立ち止まり、どす黒い殺意で目を細めている。ちゃんとアントンには聴こえていた。
「チッ、あんときはよくもやってくれたな」
慣れてきた新入りが下から覗き込むように恨みごとを言った。アントンは怒った顔をして返した。
「おれ、そんなことした?」
あまりに不可解な返答に相手は目をみすえたままゆっくりと頭をかしげる。逆に相手の非をあげつらうでもなく開き直るでもなく、アントンは本当に知らない素振りなのだ。
「トボケるのか?」
「知らない。やってない」
赤い顔をしてアントンは訴える。
「やったじゃないか」
「やってない」
ムキになって言い返す。そうしてどこか引きずるような甘い哀愁を帯びたふくれっつらをした。相手は舌打ちし、落ち着いた口調で投げつけるように言う。
「やったよ」
「やってない」あごを突き出し、唇をとんがらせながら食って掛かる。「やってないったら」
「やったって、なあ」
周囲の顔を見る。みな黙って首を縦に振る。アントンは歯がゆそうな顔をする。そうしてこう言い放つ。
「お前は、ひとの言うことを聞かない!」
それを聞いた相手は緊張していた肩を鎮め、ふっと息を吐いたかと思うと、ツンボだからしかたないか、という表情で薄笑いを浮かべた。そして五本の指を開くと同時に息を短く吸い、口の中に引き込んだ上下の唇をnpaと弾けるような音を立てながら開けた。
アントンはその様子をじっとみていた。そうして別の機会にそっくりそのまま相手がなにを言ったか解らなかったときやってみせた。すると相手によっては嘲笑をともなった憐れみの顔をした。
「やってないと言ったら、やってない」
声を震わせながらアントンが叫んだ。そこにいた全員がゲタゲタ笑い声をあげた。アントンは、ぷんぷん怒りながら立ち去る。
