エンジェル商会 第二幕

二場 公園 

まるで遊園地を思わせるような楽しげな背景。遊具がいくつもある。

舞台やや上手側。A、B、Cの3人の男の子が立っている。
3人に囲まれてDがうずくまっている。

そこに、アクオを背負ったソラ、下手から登場。4人とは、すこし間がある。

アクオ「おい、ソラ。とるって命は、あいつら3人だろう?」
ソラ 「う、うん・・・」
アクオ「(舌なめずりの音)そんなに憎いのか? うれしいねえ」
ソラ 「あいつら、・・・。ボクに、・・・。うっく。ひどいことを・・・」

少年A「(ソラを見つけて)あ、あいつ」
少年B「こっちに来いよ」

ソラ、よろよろと近づく。

少年C「おまえ、隣町の小学校に転校していったソラくんじゃないか?」
ソラ 「(力なく)そ、そうだ」
少年A「よわむし、こむしのソーラくん。せっかく逃げたのに、どうしてまたノコノコもどってきたんだ? 」
ソラ 「ボクは、ボクは変わったんだ・・・。(カンカンに怒って)おまえたち、なにやってるんだ!」
少年B「なにって、なにが?」
ソラ 「とぼけるな!」
少年B「とぼけるって、なにを?」
少年C「おまえがとぼけているんじゃないか?」

三人の少年が笑う。

ソラ 「そ、そいつに何をした!」
少年A「なんにも」
ソラ 「ウソをつけ。ふるえているじゃないか」
少年B「こいつ、いるだけでウザいんだ。だから、オレタチは、こいつの被害者なんだ」
少年C「ああ。そうさ」
少年A「ヤラれたんだよ、こいつに!」ガツンとケリをいれる。
ソラ 「あ! ほら、暴力をふるった」
少年B「こいつのオドオドした態度へのお返しだよ」
ソラ 「あ、う、うう」何も言えなくなる。アクオがずいっと出て言う。
アクオ「お前たちのやっているのは、精神的な暴力だ。ほら、言え」
ソラ 「おお、お前たちのやっているのは、せ精神的な暴力だ」
少年C「そりゃあおかしいね。暴力にいろいろあるなんて、なあ」
少年A「あははは。おかしい」
少年B「じゃあ、お前もオレタチに暴力をふるった。お前の言葉に傷ついた。どうしてくれる?」

ソラ 「・・・」困った様子。

アクオ「言葉をどう受け取ろうが、おまえの勝手だ。だが、殴ったり蹴ったりは明らかな暴力だ。ほら、言え」
ソラ 「言葉をどう受け取ろうが、おまえの勝手だ。ででででも、殴ったり蹴ったりは明らかな暴力なんだぞ」
少年C「なな、なんだよ」困った様子。

少年Aが携帯を取り出し、電話をかける。
するとそこにルチがすーっと上手からやってきて少年Aに取り憑く。

アクオ「これはこれは、ルチ次長じゃないですか。奇遇ですね」
ルチ 「さっき依頼がはいってな。大至急ってなもんで、あいにく俺しか事務所にいなかったからよ」
アクオ「おもしろくなってきやがった。それじゃあ、お先にどうぞ」

ルチ 「そんなことはない。悪意をもった言葉は人を傷つける。ほうら、言え」
少年A「そんなことないね。悪意をもった言葉は人を傷つけるじゃないか」
ソラ 「う、うう」
アクオ「認めたな。それが言葉の暴力だ。ほら、言いな」
ソラ 「ふふふ、とうとう認めたな。それが、言葉の暴力ってやつだ」
ルチ 「オレタチはなにも言ってない。こいつが何か聞いても、なにも言ってない。ほら、言ってやれ」
少年B「オレタチはなにも言ってないもんねー。こいつが何か聞いても、なにも言ってないんだよねー」
少年C「あはははは。そうさ、なんにも言ってない。なんにも言ってないのに、こいつが勝手に泣いたり、へこんだりしてるだけなんだもんな」
少年A「それはなんという暴力なのかな、ソラくん? 無言の暴力かな?」怒った口調になる。「なんでも暴力に仕立て上げて、オレタチを悪人にしなければ気が済まないんだな」
少年B「なんてヒドイやつなんだ」
少年C「どうしてくれるんだよ、ソラ」迫る。

ソラ、うつむいて何も言えなくなる。ルチが少年Aに耳打ちする。

少年A「(Dをこづきながら)だいたいこいつはな、勉強なんかしてんだ。毎日夜遅くまで塾で勉強してんだ。不健康なんだ。ぜんぜん子供らしくない。勉強ができるだけで、同じ人間に命令して、威張ろうとしているんだ。自分だけが良くなろう、金持ちになろうと努力してるんだ。こういうやつが、世の中を悪くしていくんだ。悪い芽は今の内に潰しておかないと、ますます世の中がひどくなる」
少年B「こんなやつは、いなくなった方がいいんだよ」
少年C「shine(エス・エイチ・アイ・エヌ・イー)」
ソラ 「そそ、そんなの、神様が許さないぞ!」
少年A「へー、はじめて聞いた。神様だとよ。あはははは。だったら、その神様はヘナチョコだ。だって、オレタチにそんなことができないように、できなかったんだもんな」
少年B「あー、そうだ。そいつは不良品の神様だ」

そこに謎の男が現れる。サングラス。ヒゲ。シルクハット。

謎の男「おー、よしよし」
うずくまっている少年を抱え起こす。
「まあまあ、キミタチ。この子もあの3人も、ソラくん君も、全員同じ仲間なんだから、その中で誰が正しいという問題じゃないだろう。互いに敵を作って滅ぼし合おうとするより、どうやってうまくいくかを考えることにエネルギーを使ってはどうかね?」

ソラ 「なんだって? なに言ってんの君(きみ)。キミみたいなやつがいるから、悪いことがなくならないんだ。ボクたちはひとつなんだよ。ひとつにつながっているんだ。だから、あいつらがいると、社会全体に悪影響をおよぼす。あいつらさえいなくなれば・・・」

謎の男「そうかな? 話しを聞いているとソラくん、キミはなんでも自分の言う通りでなくてはならないと言っているだけじゃないのかね? だいたいキミは、正義を振り回したいだけじゃないのかい? でなければ、なぜこの子をほっておく?」

アクオがソラの耳に何かささやく。

ソラ 「はいはい。被害者救済は、あんたにまかせます」
少年C「ぎぜんしゃ!」ソラに向かって吐き捨てる。
謎の男「こらこら」

アクオ「へたに助けると甘えぐせがつくからです。自分の力で立ち上がるようにあえて手を貸さなかったんです。ほら、ゴー」
ソラ 「・・・・」
アクオ「なんだ、どうした、早く言わねえかい」

謎の男「ソラくん、キミはちとギセイシャいしきが強いな」
ソラ 「ギセイシャいしき?」
謎の男「そうだ。自分を傷つけるのが好きということじゃ。ルールを守れと命令したり、ルールで人を裁いたり、とがめたりするのは全て、自分をギセイにするおこないだよ。すべて、キミがドロをかぶる。キミ自身をちいさくちいさく萎縮させる」
ソラ 「・・・」
アクオ「悪を放置させていいわけないじゃないですか。ほら、ゴー!」

謎の男「そしてさらにじゃ、キミがドロをかぶった上に、キミの押し付けたルールは今よりも何倍も破られることになる」
ソラ 「じゃあ、なにをしてもいいのかよ」
謎の男「すべて、許されている」
ソラ 「そんな、そんなこと。そんなことが許されるはずがないじゃないか」
謎の男「わしが言うんじゃから、許されている」
ソラ 「そんなの、そんなのおかしいよ。そんなことになったら、秩序が乱れる」

謎の男「いいかね、もうすでにそんなことになっているんだよ。調和を乱すのは、秩序を保とうとして、ルールを押し付け合うことなんじゃ。罰を作り出すことなんじゃ」
ソラ 「(首をふりながら)そんなこと、そんなこと」
謎の男「あるのは、どんな自分でいたいかどうかだけじゃ。もし、いまのままでいるのを選ぶなら、ほれ、この子やあの3人と共謀して同じことをぐるぐるやり続けることになるじゃろうの」
ソラ 「・・・」考え込む。
謎の男「誰かを許せない心、それがいさかいを作り虐待を作り出していることを認めなさい」
ソラ 「うう・・・」

謎の男「では、そこの3人、それから、ソラ。いや、なに言ってんの君(くん)。サラバじゃ」

そう言い残して、男、Dをおんぶしたまま忽然と消える。

「さあ、かえろ、かえろ」と言いながら少年3人、舞台上手にひっこむ。ソラ、舞台の中央。考え込んだ様子。

                            (暗転)