家の陰になっている湿ってかたくなった黒土に、淡い紫色の花弁をつけたちいさな三輪のすみれをみつけたトキは、庭掃除の手をとめ着物の裾を膝に巻くようにしてその場にしゃがみこみ、目尻のしわをふかく刻ませた。あついものがこみあげてきた。
トキはこどもの時分を思い出した。家の土間でランプの手入れをすることが、トキたち兄弟姉妹の日課だった。小学校からもどってくるとすぐに、石油ランプのガラスを襤褸布でみがく。うまくやっていないと、お父にどやされるから、トキたちきょうだいは輝き具合を競いあった。ガラスの中に竹の棒で布を挿し入れ、ていねいにきゅっきゅっとやった。
それをおえるとトキは、畑からキャベツをひとつもいでくる。いちばん外の葉をはいで、鉄の包丁で細かく刻むのだ。とうもろこしのつぶしたのと混ぜて庭のにわとりにまいた。残ったキャベツは洗って木の桶にいれておく。
まだランプ磨きのおわっていない一番下のおとうとの健次郎が、自分もにわとりに餌をやりたくて、トキと兄のいる畑にやってきたが、ススでよごれてそのままになった手で鼻をこすったものだから、頬から鼻にかけて黒くよごれたのを思い出して、トキは目を閉じた。
兄も弟も、戦争で逝った。
おかあさん、と呼ぶ声がした。息子の嫁が呼んでいるのだ。トキは半腰になって立ち上がった。