第一幕 四場 再びエンジェル商会事務所

「ふいー、やっとひといきつけた」
受付社員ため息をついている。
「なんだって、さっこんはこんなに忙しいんだ? ったく昼飯くうヒマもねえや」
時計は2時40分をさしている。

そこに下手の扉が開き、ふたりの大きな漢(おとこ)がのっしのっしと入ってくる。目がつりあがり、黒いカラスのような羽が生えている。ひとりは金色、もうひとりはまっ黒。

「あ、デモン部長とルチ次長じゃありませんか。おかえりなさいましぃ~」

「おう」
ルチが答える。
「ちょうど、さっきそこで会ってな」
デモン、どすのきいた声。

「ルチ次長、いかがでしたか? 中東方面は」

「ああ。これほど人を助けられたのは、第二次世界大戦以来だな」

「あの時は、わが社、総動員でしたからねえ」

「まず、大量虐殺援助」

「暴動の鎮圧です~」受付社員。
このあたりの会話は、コミカルに、深刻さをはぐらかして行う。

「国民をみな殺しにしてでも、国のメンツを保たねばならんと信じ込ませるのに一苦労」

「まあ!」受付社員うれしそうに驚く。「そんなことしたら、国はどこに行っちゃう?」

「それから、自殺幇助」

「つまり自爆テロでして」

「これは、世の中を良くするための聖戦だ。どうせ、人間死ぬのだから、せめて世の中に良いことをしてから死なねばならんとささやいて、本懐を遂げさせる」

「なんとも、こころあたたまる話しで~」

デモン、ずいっと身を乗り出し、得意げに言う。
「おれの方は、国の純潔を守るために移民どもを排除してきた。あいつらさえいなくなれば、景気も回復するとみんなに言いふらしたら、紛争に発展した」

「悪いやつを追い出せば、平和。平和になることまちがいなし! ケケケ」
受付社員が奇っ怪な笑い声を立てる。だんだん典型的なオカマちっくなしゃべり口調に。

「しかし」ルチが首をかしげながら言う。「エンジェル商会に転職して100年、このところ、やけに仕事が忙しくねえか?」

「ええ、もう、まったくで」

「まあ、おれもこの会社でずっと1000年くらい働いているが、これほど仕事が多いことは初めてだ」デモン。

「なにかあるのかな、悪いことが」ルチ。

「ああ。戦争もないような世の中になっちまったら、退屈で仕方がねえ」デモン。

ふたり、大声で笑う。

「ま、なんにしても、こんなに人間を助けられるんですから、なによりですよ」受付。

「お、きょうは珍しくアクオがいねえな」デモン。

「なにか、仕事が入ったのか?」ルチ。

「それが、やつにうってつけの仕事がはいりやしてね、ケケケ」

「あいつほど、正義にうるさいやつはいねえからな」デモン。

「まったくだ。あいつほど、正しいやつはいねえ」ルチ。

「悪いやつは徹底的にこらしめて、根だやしにしてやらねば、平和は訪れませんものね」

「ああ、その通りだ」デモン。

「平和のためには、戦争もいとわない?」

「悪いやつがいるから悪いのであって、そいつを叩きのめしてなにが悪い?」デモン。

「やられたら、やり返すのが、正義ってもんだ。そうやって恨みをまわしてまわして、いつまでも人助けができるというわけだ」ルチ。

「だいいち、あたしたち、人間からの依頼で働いているんだから、なにも悪くないですよね~」

重厚な音楽と共に、幕