ムカムカしてきたハインツは歩きながら道の小石をけりました。ところがその石は地中深くに埋もれた角がちょっと顔を出していただけだったので、ハインツはひっくりかえってしまいました。
「いてててて・・・」
ひざ小僧をすりむきました。ハインツはもう、こうして倒れたまま死んでしまいたいと思っていました。
選評家は好き嫌いで選んでいるのにちがいない。きっとそうだ。ボクがどんなに一生懸命描いてきたか知らないんだ。ボブの野郎は、家からたくさんの金を送ってもらい、何不自由なく、なにも悩まず絵に取り組むことができる。展覧会にだって毎週のように行く。それにひきかえボクはなんだ、こうして夕方から夜中まで仕事をして生活費を稼がなければならない。仕事が終わるとへとへとに疲れている。仮眠もとらず眠気まなこをこすりながらやってきたんだ。ボブの野郎は、四六時中なにか食べている。眠たいときには、ソファーでぐーすか寝ている。そんな野郎の絵のどこがいいんだ。完全に好き嫌いだ。審査員には観る眼がない。
ハインツははじめ、心からボブの受賞を祝福していました。しかし彼の心に「自分には才能がないのではないか」という疑いが流れ込んできました。それとともに、自分がみじめでみっともなく、それまでしたり顔でボブの絵に注文をつけていた自分が愚か者のロバのように思えてくるのでした。
「こんな絵はつまらない!」
それからというもの、ハインツはボブの絵に憎しみをこめて難癖をつけるようになったのです。
「ボクはこんな絵は嫌いだ」
陽気で上機嫌だったボブはこのごろいつも悲しそうです。
へっ、いい気味だ。
この間は、ボクのお陰で賞を取ったんだから、今度はボクのちからで絵の才能をそぎとってやる。
ハインツは立ち上がり、またこうばへ向けて歩き出しました。町にはいりました。町は夕方のこの時間はにぎやかで、ひとがたくさんいました。肉や野菜を売るワゴンが並んでいます。そんな中、見るからにギャング風の青年が三四人たむろしていました。ちょうどハインツと同じくらいの歳でしょうか。
なんだ、あれは。みんなが働いているのに遊び回り、他人の物を盗んだり、ひとに嫌がらせをしたり、だまし取ったり。村のお荷物、穀潰しが。ハインツは憤り、あざ笑いました。彼らとすれちがうとき、ハインツは
「このクズ・・・」
とつぶやきました。
聞こえたのか聞こえなかったのかはわかりませんが、ハインツはその男たちに呼び止められました。
「おい・・・」
ハインツは裏路地に連れ込まれ、殴る蹴るの乱暴を受け、なけなしの金まで取られてしまったのでした。
「こいつ、ペンキが服についてるぜ」
「おまえ、ペンキ屋か?」
「ボクは・・・」画家だ。と自信をもって言えないのです。「かんばんや・いや・・絵描きです」
「絵描きだと?」
青年たちは卑猥な頬を見せ合い、薄笑いを浮かべました。
ひとりの青年が、ガンっと蹴りを入れてきました。
「いてててて・・・」
ひざ小僧をすりむきました。ハインツはもう、こうして倒れたまま死んでしまいたいと思っていました。
選評家は好き嫌いで選んでいるのにちがいない。きっとそうだ。ボクがどんなに一生懸命描いてきたか知らないんだ。ボブの野郎は、家からたくさんの金を送ってもらい、何不自由なく、なにも悩まず絵に取り組むことができる。展覧会にだって毎週のように行く。それにひきかえボクはなんだ、こうして夕方から夜中まで仕事をして生活費を稼がなければならない。仕事が終わるとへとへとに疲れている。仮眠もとらず眠気まなこをこすりながらやってきたんだ。ボブの野郎は、四六時中なにか食べている。眠たいときには、ソファーでぐーすか寝ている。そんな野郎の絵のどこがいいんだ。完全に好き嫌いだ。審査員には観る眼がない。
ハインツははじめ、心からボブの受賞を祝福していました。しかし彼の心に「自分には才能がないのではないか」という疑いが流れ込んできました。それとともに、自分がみじめでみっともなく、それまでしたり顔でボブの絵に注文をつけていた自分が愚か者のロバのように思えてくるのでした。
「こんな絵はつまらない!」
それからというもの、ハインツはボブの絵に憎しみをこめて難癖をつけるようになったのです。
「ボクはこんな絵は嫌いだ」
陽気で上機嫌だったボブはこのごろいつも悲しそうです。
へっ、いい気味だ。
この間は、ボクのお陰で賞を取ったんだから、今度はボクのちからで絵の才能をそぎとってやる。
ハインツは立ち上がり、またこうばへ向けて歩き出しました。町にはいりました。町は夕方のこの時間はにぎやかで、ひとがたくさんいました。肉や野菜を売るワゴンが並んでいます。そんな中、見るからにギャング風の青年が三四人たむろしていました。ちょうどハインツと同じくらいの歳でしょうか。
なんだ、あれは。みんなが働いているのに遊び回り、他人の物を盗んだり、ひとに嫌がらせをしたり、だまし取ったり。村のお荷物、穀潰しが。ハインツは憤り、あざ笑いました。彼らとすれちがうとき、ハインツは
「このクズ・・・」
とつぶやきました。
聞こえたのか聞こえなかったのかはわかりませんが、ハインツはその男たちに呼び止められました。
「おい・・・」
ハインツは裏路地に連れ込まれ、殴る蹴るの乱暴を受け、なけなしの金まで取られてしまったのでした。
「こいつ、ペンキが服についてるぜ」
「おまえ、ペンキ屋か?」
「ボクは・・・」画家だ。と自信をもって言えないのです。「かんばんや・いや・・絵描きです」
「絵描きだと?」
青年たちは卑猥な頬を見せ合い、薄笑いを浮かべました。
ひとりの青年が、ガンっと蹴りを入れてきました。
