2020年の勤労者家計/特別給付金の影響 | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

昨日総務省の家計調査が発表されました。 


昨年12月は冬のボーナス減少が大きく響き、勤労者世帯の家計において2020年唯一の実収入マイナスの月となりました。


また実質消費は新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、3ヶ月ぶりにマイナスとなっていました。


12月の家計収入・消費の減少はほぼ予想されたとおりであり、むしろ消費の減少幅は前年比▲0.6%に留まっており、懸念されていたほどには悪化しなかったと言ってもいいでしょう。


さて、昨日の家計調査では12月単月の結果だけでなく2020年通算の結果も発表されました。
冒頭に勤労者世帯の実収入がマイナスになったのは12月だけだと書いたように、2020年の勤労者世帯の実収入は前年比+4.0%と近年に全く見られない大幅増加となりました。2011~2019年で最も増加幅が大きかったのはデフレの真っ只中かつ東日本大震災からのリバウンドがあった2012年の+1.6%で、2020年はその2.5倍もの増加ですので、いかに増加が大きかったかが分かります。


コロナショックにも関わらずこれほど増加した要因は言うまでもなく、一律10万円支給された特別給付金です。

2020年の勤労者世帯の月平均実収入は前年比+4.0%の609,535円ですので、2019年の平均実収入(実質ベースに調整)比で+23,444円です。そのうち特別給付金を含む特別収入は前年比+234.8%の30,408円ですので、2019年比で+21,316円となります。
2020年の実収入増加の91%は特別給付金(および他の支援策)によるものということですが、逆に言えば特別給付金が無くとも9%程度は増加していたことになり、その場合の実収入増加率は+0.36%で他の年と比べても一般的な数字です。つまり特別給付金は大半の勤労世帯にとって「特に懐は傷んでないけど支給された特別ボーナス」という扱いであり、しかも外出が規制されていたことから使い途も限定され、結果として消費が前年比▲5.3%(▲14,730円/月)と大幅減となり、収入から支出に回さなかった貯蓄額は175,525円/月と比較可能な00年以降で最大になりました。麻生財務大臣の言っていたとおり給付金の大半が貯蓄に回っていたことが改めて明らかになった形です。
当初の予定どおり困窮世帯に限定して給付していれば制度設計を修正する手間もなく、支給する対象も大きく減るため、困窮世帯への支給も一律支給と比較してそれほど遅れることはなかったのではないかと思います。また予算が圧縮できれば他の政策へ予算を活用できていた可能性も高く、例えば新型コロナウイルス患者の受入病院への手当て増などももっと迅速にできたのではないでしょうか。
目的が困窮者の支援なのか経済支援なのかハッキリしないまま世論に押されて一律で給付金が支給されたことで政策の幅が狭まり、救える命が減ってしまったとなったのであれば残念で仕方ありません。


今後新型コロナウイルスが収束して経済活動を活性化させる段階になった際には、一律給付金も効果的だと思います。GoToキャンペーンと併用すれば実質手出し無しでそれなりに豪華な旅行を楽しむこともできますし、そうした『方向性を持った』政策との組み合わせはむしろ大賛成です。
しかし結果的に一律給付金は貯蓄に回るだけと明確な結論が出てしまった以上、再支給は困難になったと言わざるを得ません。外出規制時と経済活性化支援時ではフェーズが異なるので同じ政策を実施しても効果は異なるでしょうが、再実施には『実績』の壁が立ちはだかります。

あやふやな目的による政策が後々の手段を制限してしまうという典型的な事例だと思います。


<2月7日 一部修正>