山本太郎氏の政治的戦略 | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

過去記事[東京都知事選に山本太郎氏が立候補を表明]のとおり、山本氏が東京都知事選に立候補し、公約が発表されました。

<山本氏の公約一覧>
(1)東京五輪・パラリンピックの中止
(2)全都民に10万円給付
(3)授業料1年間免除
(4)中小零細企業・個人事業主に今年度事業収支のマイナス分を補填
(5)病院に前年度診療報酬を補償
(6)新型コロナウイルス第二波第三波とくるたびに都民1人に10万円
(7)(6)と同様に、事業者には100万円
(8)医療従事者、駅員、スーパー店員などエッセンシャルワーカーに危険手当として日給2万4000円
(9)ロストジェネレーションやコロナ失業者を対象に都職員3000人採用
(10) 全世帯の光熱水費1年間免除
(11)都立病院の独立行政法人化中止
(12)都に災害対応の「防災庁」設置

一つ一つの公約にコメントはしませんが、額15兆円の財源は何かと問われ、地方債(都債)であると答えたようです。
平成30年度の東京都財政を確認すると、一般会計が約7.5兆円(一般歳出、税収は5.5兆円)、都債の残高が約4.8兆円となっています。
つまり一般会計の約2年分、一般歳出や税収の3年分、都債残高の3倍もの都債を発行すると言うことですが、いくら東京都が個別基準を設けられていると言っても、これだけの都債を発行すれば間違いなく地方自治法に定める財政再生基準を突破します。
そうなれば財政再生計画を策定することになるのですが、仮に10年で完済ではなく半分を返済する計画でも毎年7500億円もの返済が必要になります。(実際には償還期間までの積立)
また財政再生計画を策定すると、災害対策を除く全ての地方債の起債に総務大臣の許可が必要となり、実質的に東京都が国の管理下に置かれることになります。第二の夕張ですね。
当然このような事態を都議会が通すわけがないので絵に描いた餅に過ぎないのですが、山本氏もさすがにこの程度のことは理解していると思います。

昨年の参院選でれいわ新撰組はほぼ山本氏の得票のみで2名の当選者を国会に送り込みましたが、山本氏本人は比例区の全候補者の中でダントツの得票数ながら落選しました。あれ以上の得票は実質的に不可能だったでしょうから、本人は国会議員になるつもりはなかったと推測されます。
今回の都知事選も同様で本人に都知事になるつもりはないのでしょう。現職の小池都知事の支持率を考慮すれば一騎討ちでも当選は厳しいのに、すでに左派は宇都宮氏の擁立を決めていたので左派の支持を食い合うことになります。
山本氏は議員や知事など責任ある表舞台には立たずに無責任な煽動者の立場から主張を行い、手駒を議会に送り込むという戦略を基本線にしているものと思われます。

山本氏の都知事選公約を見ると『それは地方政治では法的に不可能だ』と言わざるを得ない内容になっていますが、逆に言えば『地方政治では不可能だが国政なら法的な制限がない』ということでもあります(債権引き受けに関する日銀法は別として)。山口次郎氏などはこの公約を真に受けて「もっと地方自治のルールを勉強しろ」などと苦言を呈したようですが、本人はその程度のことは理解した上で地方自治ではなく国政への主張を行っているのです。
(N国党も全く同じ戦略ですし、それ自体を非難するつもりはありません)

都知事選への立候補や公約を見るに、このように東京都知事選を国政に対する主張の場として利用することが山本氏の政治的戦略であることはほぼ確実だと思われます。只でさえ現職の支持が最高潮に高まっているこの時期に選挙があるので、本当に都知事に左派勢力を据えたいのであれば宇都宮氏に立候補を譲るか譲らせるかして候補の一本化を図るのが絶対条件でしょう。現に立憲民主党所属の国会議員である須藤元気氏が離党してまで山本氏の支援を表明するなど、早くも左派分裂が始まっています。
きっと山本氏の目指す姿は小沢一郎氏なのでしょうが、クラッシャーぶりを受け継いでいることはアピールできた形です。