タイがTPPへ加盟したときの影響 | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

今年の2月の時点では4月にもタイがTPPへの加盟申請をしてくるのではないかと報道されていましたが、先行きが混沌としてきました。
6月10日にタイの経済3団体(タイ商業会議所、タイ工業連盟、タイ銀行協会)の合同委員会がTPPへの加盟交渉に乗り出すべきという見解を示す一方で、タイの連立政権で国軍が後ろ盾の保守派が台頭し、7月にも実施する内閣改造でTPP支持派が一掃されるとの観測が浮上し、TPP参加が後退する可能性が出てきたと報じられています。

◯タイという国
人口:6891万人(TPP内では日本、メキシコに次ぐ)
GDP:5049億ドル(TPP内では日本、カナダ、オーストラリア、メキシコに次ぐ
主要産業:人口の約4割が第一次産業に従事するも、GDP比では12%。人口の15%を占める製造業がGDPの34%、輸出の9割弱を占める。
主要輸出品:自動車
最大の貿易相手:中国(輸出入ともにトップ)
最大の投資国:日本
その他:定期的なクーデター。国王を父とする家庭内兄弟喧嘩とも揶揄される。

◯日本との経済協定
日タイEPA:2007年発効
日ASEAN FTA:2009年発効

◯TPP参加の影響
・貿易面の影響
既に日本とは2国間のEPAとASEANとのFTAが締結されており、鉄鋼や自動車部品の多くは関税が撤廃されています。ただしタイは最大の輸出品が自動車となっているとおり自動車産業が非常に盛んであり、自動車そのものには60%以上の高関税がかけられています。日タイEPAでは3000cc以下の乗用車について発効から6年後(2013年)に再協議を行う旨が規定されていますが、個別の再協議が行われた形跡はなく協定全体に関する一般的見直し協議が行われているのみとなっています。
仮にTPPの協議が始まっても、既存のEPA・FTAと同様、日本が米の関税を守るようにタイは自動車の関税を守ることを最優先に交渉を進めるでしょうから、2国間の貿易においてTPPの影響は非常に小さなものになると思われます。

・中国との綱引き
日本は今でもタイへの最大の投資国であり、日系企業が多く進出しています。2011年にタイを大洪水が襲った影響で、日本への部品が供給が止まってしまったことを覚えている方も多いでしょう。
日本は洪水や政情不安定さというカントリーリスクからタイへの投資額を減らしており、一方でタイは輸出入ともに中国が最大の貿易相手になるなど経済的な関わりを深めています。
<日本からタイへの直接投資件数・額>
2014年 417件 1,819億3,200万バーツ
2015年 451件 1,489億6,400万バーツ
2016年 296件   808億1,100万バーツ
2017年 270件   918億100万バーツ
2018年 315件   936億7,500万バーツ

タイは中国の一帯一路構想によるインフラ整備や中国企業の進出を加速させており、日本から中国に軸足を移しつつあると言えるでしょう。
なお日本は日本でインフラ海外展開として、タイにおける高速鉄道・都市鉄道整備をはじめとする各種案件について官民を挙げて売り込みを実施しており、中国との綱引きが行われている状態です。

・TPP参加国のパワーバランス
TPP参加国のうちマレーシア・シンガポール・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドの5ヶ国はいわゆる『イギリス連邦』の国家であり、ここにイギリスが加われば6/12がイギリス連邦国家となります。今は名実ともに日本がTPPの盟主ですが、イギリスの加入によりパワーバランスに変化が起こることは避けられないでしょう。
TPP参加国と比較するとタイは人口・経済力ともに上位に位置し、日本にとっては非イギリス連邦の国家として貴重なポジションとなります。

◯タイの事情
前述の通り日本とタイは3000cc以下の自動車の関税について本来2013年から協議を始めることになっており、TPP参加交渉を始めるとなればこの関税の交渉は避けられません。
その一方でTPPに参加しなければ、日本がTPPによってマレーシアやベトナムなどタイの周辺国との結び付きを強めることで相対的にタイの重要性が下がり、最大の投資国である日本からの投資が更に減少してしまう恐れがあります。

イギリスのTPP加入が現実味を帯び始め、またコロナショックによって各国が中国依存を減らそうと動き始めた中、日本にとってタイは重要度を増しています。
カントリーリスクは否定できませんが、親日国でもあるタイのTPP加入は日本にとって大きな意味を持ちますので、是非参加を前向きに検討してほしいものです。