本日参議院の本会議で日米貿易協定が承認され、来年1月1日の発効がほぼ確実になりました。
なおアメリカ側の手続きは、通常の通商協定の批准には国会の承認が必要なのですが、今回は『適用されている関税が5%以下の輸入品や、関税の引き下げ率が比較的小さい場合、議会の承認を必要としない』という特例を使って議会の承認を省略して発効させる方針のようです。
この特例規定を使う時点でアメリカは日本の自動車関税を引き下げる気がないと白状したようなものですが、日本の自動車業界は今回の協定を歓迎しています。
自動車産業にとってはプラスになることはあってもマイナスになることがない協定と言えばそれまでですが、アメリカの受益者である農業団体は今回の協定内容を不十分だと評しています。
何故日本にとっての筆頭受益者と期待されていた自動車産業にとって『進展なし』でも評価されるのでしょうか?
それは『進展なし』=『後退を食い止めた』と評価されているからです。
アメリカの商務省が自動車の輸入が「国家の安全保障を脅かしている」と232条調査の結論を示したように、日本の自動車の対米輸出はアメリカの通商拡大法232条に基づいて、いつ関税を引き上げられてもおかしくはない状態にありました。
もちろん関税の引き上げはWTO違反の可能性が極めて高く、提訴すればほぼ100%日本は勝ちを得られたでしょうが、提訴した時点でアメリカ側から『日本の自動車はアメリカの安全保障上の脅威である』との公式発言を引き出してしまうことになります。日米安保が安全保障の根幹である日本にとって、いくらなんでもこれは許容できません。
となれば関税の引き上げを未然に防ぐことが日本の至上命題となるわけですが、トランプ政権は「日米貿易協定を締結していなければ初めからその危険はなかった」などという甘い相手ではありません。だからこそ日本の自動車業界もほぼ進展なしの協定でも歓迎しているわけです。
仮に関税を引き上げられてしまうと、対米自動車輸出は年間8000億円程度減少し、関連する他の産業への影響も加味すると、日本国内の生産全体が2.18兆円分減少し、GDPは0.4%下押しされるとの試算もあります。
協定を結んだことによるメリット/デメリットを検証することも大切ですが、協定を結ばなかった場合のメリット/デメリットの検証もしっかり行わなければ公正な評価とは言えません。