日米貿易協定を拒否した未来 | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

日米貿易協定の第一段が署名され、交渉においては決着を迎えましたが、早速「日本に不利な協定だ」と批判が噴出しています。

そんなことは交渉前から分かっていたことです。

トランプ政権は比類なき忠実な同盟国である日本を「安全保障上の脅威」扱いして通商拡大法第232条を適用した、前例のない無茶をしてくる相手です。更にはすでに発効済みであるNAFTAや米韓FTAも再交渉を強要するなど、前代未聞の傍若無人ぶりです。
独占禁止法に定める優越的地位の濫用もいいところですが、国際法にこれを取り締まるものが無いため各国泣き寝入りしているのが実情です。

そんな国を相手に貿易協定を拒否したらどうなるでしょうか?
まず通商拡大法により自動車およびその部品に25%の関税がかけられることは避けられないでしょう。2018年はその2つだけで日本はアメリカに約5.5兆円も輸出をしています。関税が10倍になることで対米自動車輸出は年間8000億円程度減少し、関連する他の産業への影響も加味すると、日本国内の生産全体が2.18兆円分減少し、GDPは0.4%下押しされる。との試算もあります。
日本の対米輸出の3割を占める車の関税は残されており、これでは日本のメリットは限られてしまう。」などと野党や一部の評論家はしたり顔で批判していますが、そういう相手ではないのです。仮に彼らの言う通りに日米貿易協定を拒否し、自動車やその部品に高関税をかけられて日本経済が大打撃を被ったらどう責任を取るつもりなのでしょうか?

「WTOに提訴すればいい」という意見もあるでしょうが、WTOでは安全保障に関する措置は対象外と規定されています。実際にその言い分が通じることはまずあり得ませんが、アメリカは間違いなく安全保障上の措置であると主張します。(そもそも通商拡大法第232条自体がそういうものです。)つまりWTOという国際的な公の場で「日本はアメリカの安全保障上の脅威だ」と宣言させることになるのです。
言うまでもなく日本の安全保障の軸は日米安保であり、安全保障と経済を天秤にかけることはできません。それでも強硬に経済を優先させろと言うのなら、まずは自主防衛できる態勢を整備しなければなりません。

もちろんこの協定により関税の引き上げを100%避けられるわけではありませんが、協定を拒否すれば100%に近い確率で関税は引き上げられるでしょう。実際に鉄鋼の関税が既に引き上げられたという実績もあります。

日米貿易協定を批判する人は、アメリカによる関税の引き上げを避ける方法を同時に示さなければ何の説得力もありません。