水道法改正ー目的/内容と経緯 | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
他にも政治・経済について巷で見かける意見について、データとロジックに基づいて分析する・・・ことを中心に色々書き連ねています。

今年の10月1日に改正水道法が施行されました。
当然の改正としか言えない内容ではありますが、これも外資アレルギーの方々からの猛反発を受けていました。
そもそも改正内容はどのようなものだったのでしょうか?

【改正の主旨】
水道事業の広域化と効率化を図るものです。後述しますが民営化云々は目的ではなく手段の一つとして選択することが可能になったというだけのことです。

【背景】
①事業者の多さ
公営の水道事業者は全国に約2000存在し、そのうちの4割弱が給水人口5000人以下の簡易水道・飲料水供給設備事業者です。消防署の数が全国で約1700ですから、水道事業者はそれより多いわけですね。

②人口減少と世帯数の増加
すでに日本は人口減少を始めていますが逆に世帯数は増加傾向にあり、人口がピークだった2008年と比べて人口が170万人(約1.3%)減少した一方、世帯数は約2000世帯(約4%)増加しています。人口が減少しても世帯数は必ずしも減少しません。世帯数が減少しなければ必要な水道設備と必要な職員は減りませんが、人口が減少すれば水の需要と実際に水道関連の仕事に就く職員数も減ります。

③更新工事の遅れ
水道管の更新工事は低下の傾向であり、2010年以降は0.8%をしたまわっています。このペースの更新が続くと全ての水道管の更新が終わるのは120年以上かかってしまいます。

これらの要因から小規模事業者という非効率的な組織体制を維持していくのではなく、広域化と効率化を図るのは急務と言えます。

【過去の法改正】
これまで上記の状況について全く手付かずだったわけではなく、下記のとおり対応策が図られています。
①2002年の水道法改正(第三者委託)
この法改正により、浄水場施設の運転管理や水質管理などの水道施設の管理に関する技術上の事務を民間企業を含む第三者に委託することが可能になりました。

②2011年のPFI法改正
この法改正により、地方公共団体が水道事業を廃止するのであれば民間事業者が水道事業を実施することができるようになりました。
なお、この時点ではいわゆる「上下分離方式」=上(運営・維持管理)の経営と下(施設整備)の経営の分離を水道法は認めておらず、同一地区には一つの事業者しか認可できないため、民間事業者が水道事業を実施するには既存の事業者=地方公共団体は水道事業を廃止する必要がありました。

【2018年の法改正】
①義務
今回の法改正は広域化を一番に挙げており、その監督責任を都道府県に負わせています。2022年度末までに各都道府県は水道広域化のプランを策定・公表し、その後毎年プランの進捗状況とプランに改訂があった場合はその内容を公表しなければなりません。

②制度
水道事業について、施設の所有権を地方公共団体が所有したまま、施設の運営権を民間事業者に設定することが可能になりました。過去の法改正②で説明しました『上下分離方式』です。

③狙い
広域化を図るとは事実上事業者の統合を進めるということですが、特に対象になる小さな町村にシステム等の統合ノウハウなどあるわけがありません。そのため民間事業者に水道設備を貸し出し、経営を任せようということです。
人口1万人程度の町でも10集まれば10万人になりますので、設備やシステムを共有することによるトータルのリソースの節約が期待されています。

【反対派の懸念】
①外資を排除せずに民営化(施設を貸し出して経営を任せる)を行うと、意図的に有害物質が混入されるかもしれない。
⇒これは第三者委託の時点で可能なことであり、16年遅れた議論です。また、ボリビアやパリなど海外の失敗事例はよく挙げられますが、反政府勢力による有害物質の混入など一例も挙げられたことがありません。
業者は行政が審査しますし、他国においても一件も発生していないように反政府勢力による受注などまず起こり得ない事態です。

②民間企業が経営すると水道料金が高騰する
水道料金は条例の範囲内かつ厚生労働省の認可を得ないと変更できません。業者にそこまでのフリーハンドは与えられていないのです。
とはいえ今回の法改正で計画的な設備の更新が義務付けられた以上、事業者が公営であろうと民間であろうと水道料金の引き上げは不可避でしょうね。
パリの水道料金が2.7倍に引き上げられた事例はよく失敗例として挙げられますが、同時期に公営の下水道料金は4.5倍に引き上げられています。民営化が水道料金引き上げの原因になったというのは早計でしょう。

③水質低下の懸念
⇒これも第三者委託が可能になった2002年時点の懸念ですね。というか、公営なら水質を維持できて民営では水質を維持できないという理屈が分かりません。役所もコストカットは行っていますし、水質管理を第三者に委託した自治体で水質が悪化したという話も聞いたことがありません。

④不採算地域の切り捨て
水道敷設地域の縮小には厚生労働省の許可が必要です。これは公営だろうが民営だろうが変わりません。上記③にも書きましたが、コストカットは役所にも求められています。

【日本の民営化の事例?】
岩手県の雫石町で住民と民間の水道事業者が水道料金について対立しているという報道がありました。これを以て水道法改正で「水を人質に料金を引き上げられる」と主張する人がいますが、元々給水人口が100人未満の給水設備は水道法の対象外であると定められており、水道料金の制限など水道法の規制を受けない事業者なのです。

水道法の改正は全く以て当然の政策であり、反対しているのは内容をよく理解していない人とそれを扇動する一部の活動家という、いつもの構図です。
何かを判断する際には自分で調べて考えるようにしたいものですね。