集英社文庫

『終末のフール』


伊坂幸太郎




「苗場君ってさ、明日死ぬって言われたらどうする?」俳優は脈絡もなく、そんな質問をしていた。

「変わりませんよ」苗場山の答えはそっけなかった。

「変わらないって、どうすんの?」

「ぼくにできるのは、ローキックと左フックしかないですから」

「それって練習の話でしょ? とうかさ、明日死ぬのに、そんなことするわけ」可笑しいなぁ、と俳優は笑ったようだ。

「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?」文字だから想像するほかないけれど、苗場さんの口調は丁寧だったに違いない。

「あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」