プロローグ:土(Earth)の星と、12万9600年の目覚め
時とは、流れるものではなく刻まれる理(ことわり)である。
刻:十二支が巡る2時間は、12集まりて一日(24時間)となる。
月・年:一日は30日集まりて一月となり、一月は12集まりて一年(360日)となる。- 世:一年が30年積み重なり、ひとつの時代**「一世」**となる。
- 運:一世が12巡り、360年の**「一運」**となる。
- 会:一運が30集まり、10,800年の**「一会」**となる。
- 大元:そして12の会が満ちる時——**「一大元(129,600年)」**という巨大な宇宙の1サイクルが完成する。
この12万9600年の大周期が満ちる時、星々に散った魂(原霊)たちは試練を受け、ひとつの源へと回収されるという。
だが、そんな壮大な宇宙の理など、今の私には遠い絵空事のように思えた。
……そう、目が覚めるまでは。
「……兄貴、大丈夫? 麻酔から覚めたばかりなんだから、無理して喋らなくていいよ」
白い天井、薬品の匂い、そして点滴の規則的な滴下音。
病室の硬いベッドの上で、**中・マイケル・ヒロ(一路)**は重い瞼を開けた。傍らでは、心配そうな顔をした弟がパイプ椅子に座っている。
「……弟よ。俺たちは、大変な誤解の中で生きているのかもしれない」
「は? また手術の麻酔の余韻で変なこと言い出したの?」
ヒロは掠れた声で、ゆっくりと病室の窓の外——青く広がる空を見上げた。
「なぜ人類は、この星のことを『Earth』と呼ぶと思う?」
「え、英語で地球って意味でしょ? 学校で習うじゃん」
「違うんだよ。旧約聖書でアダムは『土(アダマ)』から作られたとされる。そしてEarthのもうひとつの意味は『土・泥』だ。人類は自分たちを土の存在だと思い込まされ、この星にまで『Earth(土の星)』という仮のコードネームを貼り付けてしまった……。俺たちは、この星の『真の名前』を忘れてしまっているんだ」
「兄貴……頭の麻酔、まだ完全に切れてないね」
呆れ果てる弟の視線をよそに、ヒロは自分の手に視線を落とした。
手術中の意識が遠のく暗闇の中で、ヒロは確かに体感していたのだ。自分の意識が肉体を離れ、遥かなる時空の波を飛び越えていく感触——『時の旅人』としての目覚めを。
(あの感覚は何だったんだ……? 過去の時代……いや、この星ではないどこか別の『大元』の記憶……?)
ヒロの頭の中に、まだ断片的な映像が眩しく点滅する。
雲を突き抜ける巨大な光の船の影、穏やかな微笑みをたたえた「誰か」の面影、そして太古の地球で空を飛んでいた人々の姿……。
まだ全ての記憶が繋がったわけではない。
だが、確かな手応えが手のひらに残っていた。
ヒロがすっと右手を差し出すと、テーブルの上に置かれていた未開封の缶ジュースが、カタカタと小さく震え始める。
「うおっ!? え、今、缶動いた……!?」
目を丸くする弟をよそに、ヒロの魂の奥底から、理屈を超えた熱い波動が爆発的に湧き上がってきた。
「……キた。見つけてやるぞ、この星の『真の名前』を……! ファオッ(POW)!!」
病室のベッドの上でキレキレのポーズを決めるヒロ。
12万9600年の時を超え、奪われた真実を取り戻すための「時の旅」が、いま静かに始まりを告げたのだった。