――ドームの天井から、黄金色と蒼白の光が激しく交錯しながら渦を巻く。
「だが……ヒロ、ナナエ。これで『すべてがめでたしく解決した』わけではないんだ」
中・ドラゴン・治生(オサム)の言葉に、安らぎかけていたラボの空気が一変し、ピリッとした緊張感が走った。
車椅子の大野ナナエと中・マイケル・一路(ヒロ)は、治生の真剣な眼差しを凝視する。
画面に映し出されたのは、現代の日本――無数の高層ビルが立ち並び、目まぐるしく人々が行き交う都市の風景。だが、その街並みの底流には、重く淀んだ目に見えぬ「歪み」が渦巻いていた。
「出雲の『調和の心』、宇佐の『原初の理』、そして伊勢(渡来の民)がもたらした『強く真っ直ぐな信仰と仕組み』……。互いに譲れぬ天命を抱いた者たちがぶつかり合い、重なり合った歴史。しかし、それは決して過去の終わった昔話ではない」
治生がそっと空間をなぞると、太古の神武東征の光景と、現代の日本の複雑な社会状況・精神的混迷の映像が重なり合った。
「いま私たちが生きる現代の日本の姿……精神の迷走や、目に見えぬ生きづらさ、国としての葛藤。そのすべての根底には、太古から千年以上をかけて織り上げられてきた『幾重もの因縁の糸』が絡み合っているのだ。今日話した出雲と伊勢、宇佐の物語も……その果てしない歴史の因縁の中の『ほんの一つの結び目』に過ぎない」
「ほんの……一つの結び目……!?」
ヒロが息をのむ。
「そうだ。ひとつの時代で怨念や葛藤が完全に解けるわけではない。幾重にも重なる歴史の出来事、人々の想念、渡来と在地の相剋……それらが複雑に絡み合い、結び目となって今の日本という地に宿っている」
ナナエが車椅子の上で、静かに胸の前で手を組みながら呟いた。
「私たちが今、目の前で感じている現代の生きづらさや課題も……昔の神様や人間たちの深い葛藤と、地続きで繋がっているのですね」
「その通りだ、ナナエ」
治生は静かに頷き、ホログラムの深く遠い光の先を見つめた。
「だからこそ、私たちは歴史を単なる『過去のフィクション』として切り離してはいけない。太古の昔から何が織り込まれ、どんな結び目がつくられてきたのか……その一つひとつを紐解き、知り、受け止めていく長い旅の途中に、私たちは今も立っているんだよ」
画面の中では、出雲の深い雲、宇佐の原初神の気配、そして伊勢の厳かな光が、決着のつかぬまま、現代の空へと静かに溶け込んでいった。
歴史の糸は解き明かされぬまま、明日へと、そして更なる深遠な「因縁の物語」へと続いていく――。
「オサムさん……僕たちの住む日本って、本当にすごい深さと歴史の重みを持っているんだね……」
ヒロは自分の手をぎゅっと握りしめた。その目には、単なる悲しみや歓喜を超えた、歴史の当事者として現代を生きる「静かな覚悟」の光が宿っていた。
ナナエも深く息を吸い込み、微笑んだ。
「過去から紡がれてきた糸の先に、私たちがいる……。次の結び目をどう結ぶのか、物語はこれからも続いていくんですね」
治生は二人を温かく見つめ、力強く答えた。
「ああ。私たちの探求の旅も、まだ始まったばかりだ――」