中国人「違法行為やりたい放題」社長と闘った日本人社員の葛藤
https://diamond.jp/articles/-/180154
日本では中国企業が増えており、その中国企業で働く日本人も増えている。前回のコラム『「ウチの社長は中国人」日本人社員が語る働き心地』では、こうした日本人にフォーカスしたが、実は中国企業で働く日本人はもっと深い葛藤を抱えている。“中国流”に則れば、日本のルールに抵触しかねないという“危うさ”である。
日本にある中国企業の中には、目の前の商機に事業を急拡大させる会社もある。だが、この急拡大を可能にするのが、「不正行為」ということもままあるのだ。それを実際に体験したのが田中善朗さん(仮名、46歳)だ。田中さんは目の前で起こる不正行為に苦しみ、ある事件をきっかけに、自分を雇用した中国人社長と司法の場で闘うことになった。
白ナンバーで送迎してもらっていいですか?
田中さんもまた中国に人生の希望を託したひとりだ。学生時代の恩師から「中国語こそ次世代に生き残るための大事な言語だ」と言われたことが頭を離れず、社会人生活を経て、2009年に単身で中国に渡った。北京の大学で中国語を習得し、帰国した後は千葉県にあるインバウンド事業者のもとに籍を置いた。
その会社の本業は旅行業で、中国の旅行会社の発注を受けて、国内の旅程をアレンジする零細企業だった。タクシー乗務員として10年の実績がある田中さんを必要としたのは、ハイヤー事業を立ち上げ、ビジネスを一気に拡大しようとしていたためだ。2017年前半、中国人の訪日は個人客が増え、団体バスの需要が減る過渡期にあり、移動手段も小回りの利くワンボックスカーや乗用車にシフトしつつあった。
「研修を兼ねて、白ナンバーで送迎してもらっていいですか?」
それが田中さんにとっての初仕事だった。送迎する対象は中国からの観光客。それを営業行為には使ってはいけない「白ナンバー」の車でやれというのだ。
乗務員の勤怠や業務、健康状態などを管理する「運行管理者」として入社した田中さんだったが、社内で乗務員とは一度も会ったことがなかった。ハイヤー会社の設立には5台(地域によっては10台)の登録が必要だが、いずれにしても乗務員がいないことには業務が始まらない。どうやら運転手は“兼業”であり、それぞれが通信アプリで仕事を取っている節があった。
ルール的にあり得ない仕事を取ってくる
「まさか白タクやってないだろうな?」と田中さんは怪しんだが、間もなくこの会社には車検場から「緑ナンバー」が下りた。「緑ナンバー」を急いだのは、世間でも白タク問題が顕在化して、風当たりが強まったためだ。だが、この会社が始めたのは「緑ナンバー」を使っての“派手な営業”だった。
ハイヤーは事業者と顧客の相対での契約となるが、そこには“営業エリアの遵守”という厳然たるルールがある。千葉県で登録したハイヤー業者には「出発地」か「目的地」のどちらかに千葉県内の登録地エリアが入っていないことには仕事が取れない。しかし、この会社は堂々と「羽田空港に迎えに行き箱根の温泉に連れていく」という、業界では“あり得ない”注文を取ってくるのだった。
「旅行業をやっているため、中国の客先から『安い移動手段はあるか』と尋ねられる、それに対して『うちにハイヤーがあるから、安い値段で出してやる』と応じてしまうんです。東京から新幹線に乗って大阪に移動した客を、ハイヤーで大阪まで追いかけて、大阪での観光の足に使わせたというケースもあります。しかもその料金はメチャクチャです」
仮に東京から大阪までハイヤーで走れば、「ひたすらノンストップで走っても20万円はかかる」(中堅のタクシー経営者)というが、田中さんの会社の経営者は「もっと安く行ける」といって客を乗せた。
「こんな派手な違反はやめてくれ、闇ビジネスの片棒を担ぎたくない。違反だから勘弁して」と田中さんはことあるごとに中国人社長に訴えた。また、社内では中国人が運転手をするという不法就労の実態もあった。日本では、外国人が「運転手」という職業に就くために在留資格を申請しても許可が下りることはなく、入国管理局によれば「『日本人の配偶者』や『定住者』など身分関係に基づく在留資格者以外はこの仕事に就労することはできない」という。
一方で、田中さんには残業代の未払いも発生していた。これを労働基準監督署に訴えたことが中国人経営者の耳に入ったのか、田中さんは「強制自宅待機」をさせられてしまう。その後の中国人経営者との交渉で、田中さんには請求した残業代が支払われたが、その代償に田中さんは解雇処分になってしまった。
司法の場で争うしかない!
「こんなことってあるのか。司法の場で争うしかない」――田中さんは覚悟を決めた。入社半年目のことだった。相談に応じた弁護士のすすめで、訴訟手前の「仮処分」で法的に圧力をかける手はずとなったが、仮処分だと相手が応じず解決しないケースもあるため、「当時は本訴訟も覚悟していました」と田中さんは話す。
田中さんがこの中国系企業に求めたのは、「謝罪と解雇の無効、そして処分が出るまでの間の給与の支払い」だった。これ以外にも文言には「区域外営業の事実を認め、入国管理違反の従業員を解雇せよ」という内容を盛り込んだ。
これに対し、相手は即座に金銭和解を提案してきた。面倒を避けたがっていることは明らかだった。
一方、弁護士までつけて闘う田中さんの真意は、和解金を目的としたものではなかった。田中さんは動機についてこう話している。
「そもそも私が『司法の場』で決着をつけようとしたのは、中国人経営者に『日本が法治国家である』ことを知ってもらいたかったからです。そのため、不法就労や営業上のコンプライアンス違反についても、『行政機関に通報する』ことを和解条件の一つに加えようとしました」
もとより、相手がどう出ようが田中さんが「通報する権利」は妨げようがないこともあり、結局、この文言そのものは削除となった。が、和解交渉の間に和解金(解決金)が増え、相手に反省の色が見えてきたことから、田中さんは和解に応じた。
中国流の「儲かればいい」という考え方
中国流のビジネスの根底にあるのは「儲かればいい」という考え方だ。「目の前にあるチャンスに対し、法令を守って見逃すなんて考えられない」というコメントは、日本在住歴の長い中国人からも聞かれた。上海の大手法律事務所に在籍する中国人弁護士も「大企業であればコンプライアンスを重視するだろうが、中小・零細企業ともなると “法の抜け道探し”が常態化する」と指摘する。
その背景にはあるのは中国と日本の、社会と風土の違いだ。日本は、ルールに従い真面目にやった分、それが評価につながる社会だが、中国でものごとを裁くのは法律ではなく“人脈”である。
日中間にはこうしたギャップが存在することは認めざるを得ないが、だからといって日本に“中国流”を持ち込むのは正しくない。在日歴が長い中国人も「日本ならばその習慣に従うべき」と眉をひそめている。
中国ビジネスが世界で展開する大きな流れの中で、日本もまた例外ではいられない。すでに、経営難の中小企業を中国資本が買収するケースや、リストラされた日本人を中国企業が吸収するケースなどもある。今後、このような雇用の機会は増加の一途だろう。だがそこには、知らず知らずのうちに“不正の片棒”を担いでしまう危うさも存在する。
中国企業と日本人の距離が縮まる今、田中さんは次のような思いを伝えている。
「中国企業でやっていこうと思うなら、日本的な価値、あるいは日本人的な価値を捨て、『何でもあり』と受け入れる、そんな覚悟が必要なのかもしれません。反対に、日本的な価値を貫こうとすれば苦しむことになります」
言うまでもなく、田中さんが選択したのは後者だった。田中さんは不正に目をつむらず、最後まで闘った。道路運送法違反に関しては国土交通省に公益通報を行い、不法就労については入国管理局に情報提供を行った。これをしなければ自らも法令義務違反を問われ、連座したことになりかねないからだ。
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制度だけでは取り締まりきれないのであれば、強制的に監視するシステムが必要なんじゃないですかね。
何かよい方法は無いですかね。