世界はなぜ「暴力の時代」に逆戻りしたのか? ターニングポイントは中・露の「無法行為」だった! 「話せば分かる」はもう通じない
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151120-00046454-gendaibiz-int&p=1
なぜ「暴力の時代」に逆戻りしたのか
パリが同時多発テロに襲われた。
私は1月のシャルリーエブド襲撃事件の後、2月20日公開コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/42185)で「世界は『テロと戦争の時代』にモードチェンジしたのではないか」と疑問形で書いたが、残念ながら、それは正しかったようだ。オランド仏大統領は「フランスは戦争状態にある」と言明した。
事件の詳細はテレビや新聞が連日報じているから、ここでは長期的な視点から事件を考えてみる。世界はどのようにして、テロと戦争の時代に逆戻りしてしまったのか。
1945年の第2次大戦終結後、世界を揺るがすような大規模テロはしばらく起きなかった。その代わり、米国と旧ソ連が東西両陣営に分かれて冷戦を戦った。
冷戦はどんな戦いだったか。若い読者にはなじみがないだろうから、簡単にふりかえろう。
冷戦は米ソ両国がそれぞれ自前の核兵器を手にしたうえで、集団的自衛権に基づいて仲間の国と同盟関係を作って相手に対峙した戦いである。米欧の西側が結成したのは北大西洋条約機構(NATO)、ソ連の東側はワルシャワ条約機構(WTO)だ。
集団的自衛権というと、日本では「戦争につながる」などとトンチンカンな議論が横行したが、そもそもは他国に攻撃されないよう仲間を作る権利だ。「仲間に手を出せば全員で報復するぞ」と牽制したのである。
日本はNATOに加わらなかったが、米国と安全保障条約を結んだ。だから西側の一員だ。そんな世界の安保枠組みができた結果、どうなったか。
朝鮮やベトナム、アフガニスタン、アンゴラ、ソマリアなど各地で局地的な戦争や内戦は起きたが、米ソの大国同士が直接、激突して火花を散らす大戦争は起きなかった。熱い戦い(ホット・ウォー)の代わりに、冷たいにらみ合いが続いたから冷戦(コールド・ウォー)と呼ぶ。
46年から始まった冷戦が終結したのは、半世紀近く経った89年である。だから、冷戦期は逆説的に「長い平和」の時代ともいわれている。
冷戦期を支配した戦略思考の基本は、双方が「相手は敵」とみなす敵対関係である。ただし、互いににらみ合ったまま「共存」するのは認める。けっして核兵器を使ったりはしない。なぜかといえば、相手も核兵器を持っているから攻撃すれば必ず報復され、自分が滅びかねなかったからだ。
この「殺れば殺られる」関係を「相互確証破壊(Mutual Assured Destruction=MAD)」と呼んでいた。まさにMAD(狂気)のような関係である。
核廃絶は理想的だが、だからといって一方的に核兵器を手放せば、MADのバランスが崩れて熱戦を招く危険がある。MADに基づく冷戦は熱戦を避ける両陣営のリアリズムでもあった。
冷戦の終わりが恐怖の時代の始まりだった
共存は認めても「共栄」は目指していない。相手の経済がどうなろうと知ったことではない。互いに「そっちはそっちで勝手にやってくれ」と突き放し、経済交流は長い間、最低レベルにとどまっていた。そのうち相手が自滅してくれれば、ありがたいという話である。
すると、東側は共産主義体制の非効率性が次第に覆い隠せなくなり、本当に自滅してしまった。91年にはソ連が崩壊する。冷戦が終わったのは、その直前である。ソ連は自分の国が崩壊しかかって、もはや冷戦を戦うどころの話ではなくなってしまったのだ。
西側はどうだったかといえば、市場経済と自由貿易を軸に生産性を向上させ、経済成長を謳歌した。市場経済・自由貿易路線の正しさは冷戦終結後、ロシアが西側のG7(主要国首脳会議)に加わり、東欧諸国も雪崩を打って欧州連合(EU)に加盟したことで証明されている。
冷戦期の西側と冷戦終結後の世界を一言で表せば、「平和と繁栄の時代」と呼ぶことができる。
平和と繁栄の時代を形成した基本原理はなんだったか。それは「相互依存関係」だ。相手の繁栄なくして自分の繁栄もない。逆に、自分が豊かになれば相手も豊かになる。そういう関係である。
企業経営者であれば、これは実感として理解できるはずだ。国と国の関係も同じである。自国の繁栄のためには貿易相手国の繁栄が不可欠だから、相手との平和が大事になる。西側はグループ内の仲間同士で共存に加えて共栄も目指していた。
ここが冷戦期を支配した「敵対関係」と決定的に違う点である。共存共栄の相互依存関係の下では、本質的に相手と敵対しない。相手を叩き潰せば、自分も共倒れになってしまうからだ。企業でも国同士でも、原材料や部品を供給してくれる取引相手を破滅させれば、自分が製品を作れなくなる。
西側は冷戦期、仲間同士でそういう共存共栄関係を築きあげて繁栄した。冷戦に勝利した後はロシアや東欧も暖かく仲間に迎え入れた。
ところが、世界はそれでハッピーとはならなかった。成長の果実を得られなかった地域で過激勢力が台頭してきたからだ。
節目になったのは、2001年9月11日に米国で起きた同時多発テロだった。
中国とは「ウィンウィン」になれない?
意外に思われるかもしれないが、ロシアと西側の一体化には、実はこのときの大規模テロが一役買っている。米同時多発テロがロシアの世界貿易機関(WTO)加盟を後押ししたのである。
ロシアは旧ソ連時代から世界貿易機関の前身である関税貿易一般協定(GATT)への加盟を希望していた。ところが、米国はソ連の自由貿易への姿勢を疑って加盟に反対していた。米国の姿勢を変えるきっかけになったのが、9.11テロなのだ。
どういうことかといえば、ロシアは9.11テロの後、テロリストと対決する姿勢を鮮明にした。米国はそれを評価し、ロシアの市場経済化を後戻りさせないためにも、ロシアのWTO加盟賛成に転じたのである。ロシアは12年にWTO加盟を果たす。
とりあえず、以上から何が言えるか。
ソ連崩壊後、しばらくの間、ロシアが相互依存関係を重視して平和と繁栄を目指したのは間違いない。日米欧もそう認識したからこそ、G7の新たな仲間として迎え入れた。
ところが、事態はガラリと変わってしまう。ロシアは13年3月、クリミアに侵攻した。日米欧は露骨な主権と領土の侵害を看過できず、ロシアをG8から追放する。以後のロシアは相互依存の強化ではなく、かつての敵対関係に逆戻りしてしまったかのようだ。
ロシアだけではない。中国もそうだ。
中国はロシアより一足早く01年にWTOに加盟し、市場経済化と自由貿易に基づく平和と繁栄を追求するかに見えた。ところが、江沢民政権時代から次第に対外強硬路線に傾斜していく。いまの習近平国家主席が実権を握った12年以降は覇権主義的思考が一層、鮮明になった。
中国は相互依存関係を強めようとしているのか、それとも敵対関係に逆戻りしようとしているのか。日本にとっては、ここがもっとも重要な点である。私ははっきり言って「中国は敵対関係に戻りつつある」とみる。
中国はときに「ウインウイン関係」という言葉も使う。だから、あたかも相互依存を目指しているように思われるかもしれない。それは目くらましだ。彼らのいう「ウインウイン関係」とは、私たちが理解しているような相互依存に基づく共存共栄関係ではない。単なる「互いの縄張り尊重」である。
それがはっきりしたのは、13年6月の米中首脳会談だった。
中露の無法が世界を狂わせた?
11月6日公開コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/46233)で書いたように、中国は米国との間で太平洋の縄張り分割を目論んでいた。
ハワイを分岐点に東側は米国の縄張り、西側は中国の縄張りとして米中が互いに尊重する。習国家主席はオバマ大統領にそういう提案をして一蹴された。
米中の縄張り談合が最終的に成立しなかったからこそ、3年半も拒否していた日中韓首脳会談にいまになって応じるハメになった。だからといって、縄張り思考を捨てたわけではない。
「南シナ海は古来から中国のものだ」という主張が証拠である。太平洋分割がうまくいかなかったから、より中国に近い南シナ海に舞台を移したにすぎない。そもそも「自分たちの縄張りとして尊重せよ」という思考自体が「他国と相互依存にある」という認識と相容れない。
「自分たちの繁栄のためには相手の繁栄が不可欠だ」という認識が欠如しているのである。
目的は自分たちの繁栄だけだ。「他国は他国の縄張りで勝手にやってくれ。オレの縄張りには触らせないよ」というヤクザの思考とまったく同じなのである。
縄張り思考は本質的に敵対思考である。自分の縄張りに入ってきたら、相手を蹴散らすと考えている。南シナ海で起きている事態は、まさに敵対思考そのものだ。米国のイージス駆逐艦が人工島周辺に進入してくると「必要なあらゆる措置をとる」と威嚇した。実際には、何もできなかったが…。
中東のテロリストたちがここ数年で一段と過激化した背景には、中国とロシアの無法がある。ロシアがクリミアに侵攻し、中国が勝手に「南シナ海も尖閣諸島もオレのもの」と言っているなら、「イラクとシリアの砂漠はオレの国」と言って何が悪いのか。テロリストはそう考えているに違いない。
中国とロシアの無法がテロリストに伝染し、無法と残虐行為を一層、加速させている。言ってみれば、いま中学校の学級崩壊が世界レベルで起きている。そんな事態である。
放置すれば、どうなるか。無法は一段と過激化し、世界の縄張り分割が進むに違いない。それで平和は実現しない。本質的な敵対関係が残るからだ。
敵対思考は過激派組織「イスラム国」(IS)に対する反撃でも、一段と鮮明になっている。典型がフランスとロシアによる共同作戦の合意だ。フランスはクリミアに侵攻したロシアに対して制裁を課している。にもかかわらず、対イスラム国でロシアと共闘するのは、双方が「敵の敵は味方」とみたからだ。
航空機を爆破されたロシアにとっても、テロ事件を起こされたフランスにとっても、敵はイスラム国で共通している。つまり両国を動かしたのは敵対思考であり、けっして双方が相互依存関係にあると認識したからではない。ということは、もしもイスラム国が滅びれば、両国は再び敵対する可能性もある。
こうした敵対思考は今後、ますます強くなっていくだろう。
敵対思考に傾斜した相手に対して、いま相互依存思考で語りかけるのは間違っているだけでなく、効果もなく危険である。思考の原理そのものがまったく異なるからだ。
敵対思考は基本的に相手を「敵か友人か」で判断する。これに対して、相互依存思考は基本的に相手を友人として扱う。
経済原理を重視するエコノミストは相互依存思考で世界を理解しようとする。相互依存を深めれば、自然に平和も達成できると考えて、相手を相互依存原理で説得しようとする。「話せば分かる」という議論である。
だが、いま私たちが向き合っているテロリストや中国は初めから「話して分かる」相手ではない。いつかは話して分かる可能性もあるかもしれないが、まずは話しても分からない相手という認識に立って、戦略を組み立てなければならない。相手は自分たちを敵とみているのだ。
「平和と繁栄の時代」は終わった
中国に比べれば、日本にとってはロシアのほうがまだましかもしれない。
ロシアはソ連崩壊を経験し、G8のメンバー国になった経験もある。しかも、いま経済は中国以上に停滞し、とりわけ日本の経済協力は是が非でも手に入れたい。だから、ロシアとは相互依存関係に基づいた取引が成立する可能性が残っている。
だが、中国はいまだ南シナ海支配の妄想にとりつかれ、経済もようやく崩壊劇が始まったばかりである。米国と覇権を競って負けたロシアに比べれば一周遅れ、いや二周も三周も遅れているのだ。
いま、中東のテロリストたちは相互依存関係の構築など、まったく頭の片隅にもないだろう。彼らはどんな暴力に訴えても、自分たちの縄張り構築が最優先と思っている。
私たちが相互依存原理を捨て去る必要はまったくないし、いつか日本が中東の繁栄に一肌脱ぐ日もくるだろう。だが、いまテロリストたちに「話せば分かる」式で対応しても仕方がない。
「武力の応酬で問題は解決しない」という主張は一見、美しく響くだけで、どうすべきか、何も政策を語っていない。日本は日本自身の存立が脅かされない限り武力行使をしないが、テロリストとの戦いでフランスと連帯すべきである。
フランスは国境の監視強化どころか、非常事態宣言を発して令状なしの家宅捜索、逮捕に踏み切った。この後、テロ防止対策に法改正や憲法改正にも乗り出す方針という。人権宣言をしたフランスでさえも、テロと戦争の時代には人権の制限もやむを得ない、という現実的判断に立っている。
日本が対応しなければならないのは、そんなテロリストと中国、それから北朝鮮なのだ。テロリストも中国も北朝鮮も相互依存思考ではなく、敵対思考にとらわれている点で共通している。そういう原理の文脈においてこそ、テロはけっして他人事ではない。
残念ながら、世界は「平和と繁栄の時代」から「テロと戦争の時代」に完全にモードチェンジした。いまは、その意味をかみしめる必要がある。
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政治家やマスコミのの中には「世界の情勢や歴史」を知らずして安全保障を語っている人がいますが、そんなことをやるから混乱や危機が起こるんですよね。
どことは言いませんが。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151120-00046454-gendaibiz-int&p=1
なぜ「暴力の時代」に逆戻りしたのか
パリが同時多発テロに襲われた。
私は1月のシャルリーエブド襲撃事件の後、2月20日公開コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/42185)で「世界は『テロと戦争の時代』にモードチェンジしたのではないか」と疑問形で書いたが、残念ながら、それは正しかったようだ。オランド仏大統領は「フランスは戦争状態にある」と言明した。
事件の詳細はテレビや新聞が連日報じているから、ここでは長期的な視点から事件を考えてみる。世界はどのようにして、テロと戦争の時代に逆戻りしてしまったのか。
1945年の第2次大戦終結後、世界を揺るがすような大規模テロはしばらく起きなかった。その代わり、米国と旧ソ連が東西両陣営に分かれて冷戦を戦った。
冷戦はどんな戦いだったか。若い読者にはなじみがないだろうから、簡単にふりかえろう。
冷戦は米ソ両国がそれぞれ自前の核兵器を手にしたうえで、集団的自衛権に基づいて仲間の国と同盟関係を作って相手に対峙した戦いである。米欧の西側が結成したのは北大西洋条約機構(NATO)、ソ連の東側はワルシャワ条約機構(WTO)だ。
集団的自衛権というと、日本では「戦争につながる」などとトンチンカンな議論が横行したが、そもそもは他国に攻撃されないよう仲間を作る権利だ。「仲間に手を出せば全員で報復するぞ」と牽制したのである。
日本はNATOに加わらなかったが、米国と安全保障条約を結んだ。だから西側の一員だ。そんな世界の安保枠組みができた結果、どうなったか。
朝鮮やベトナム、アフガニスタン、アンゴラ、ソマリアなど各地で局地的な戦争や内戦は起きたが、米ソの大国同士が直接、激突して火花を散らす大戦争は起きなかった。熱い戦い(ホット・ウォー)の代わりに、冷たいにらみ合いが続いたから冷戦(コールド・ウォー)と呼ぶ。
46年から始まった冷戦が終結したのは、半世紀近く経った89年である。だから、冷戦期は逆説的に「長い平和」の時代ともいわれている。
冷戦期を支配した戦略思考の基本は、双方が「相手は敵」とみなす敵対関係である。ただし、互いににらみ合ったまま「共存」するのは認める。けっして核兵器を使ったりはしない。なぜかといえば、相手も核兵器を持っているから攻撃すれば必ず報復され、自分が滅びかねなかったからだ。
この「殺れば殺られる」関係を「相互確証破壊(Mutual Assured Destruction=MAD)」と呼んでいた。まさにMAD(狂気)のような関係である。
核廃絶は理想的だが、だからといって一方的に核兵器を手放せば、MADのバランスが崩れて熱戦を招く危険がある。MADに基づく冷戦は熱戦を避ける両陣営のリアリズムでもあった。
冷戦の終わりが恐怖の時代の始まりだった
共存は認めても「共栄」は目指していない。相手の経済がどうなろうと知ったことではない。互いに「そっちはそっちで勝手にやってくれ」と突き放し、経済交流は長い間、最低レベルにとどまっていた。そのうち相手が自滅してくれれば、ありがたいという話である。
すると、東側は共産主義体制の非効率性が次第に覆い隠せなくなり、本当に自滅してしまった。91年にはソ連が崩壊する。冷戦が終わったのは、その直前である。ソ連は自分の国が崩壊しかかって、もはや冷戦を戦うどころの話ではなくなってしまったのだ。
西側はどうだったかといえば、市場経済と自由貿易を軸に生産性を向上させ、経済成長を謳歌した。市場経済・自由貿易路線の正しさは冷戦終結後、ロシアが西側のG7(主要国首脳会議)に加わり、東欧諸国も雪崩を打って欧州連合(EU)に加盟したことで証明されている。
冷戦期の西側と冷戦終結後の世界を一言で表せば、「平和と繁栄の時代」と呼ぶことができる。
平和と繁栄の時代を形成した基本原理はなんだったか。それは「相互依存関係」だ。相手の繁栄なくして自分の繁栄もない。逆に、自分が豊かになれば相手も豊かになる。そういう関係である。
企業経営者であれば、これは実感として理解できるはずだ。国と国の関係も同じである。自国の繁栄のためには貿易相手国の繁栄が不可欠だから、相手との平和が大事になる。西側はグループ内の仲間同士で共存に加えて共栄も目指していた。
ここが冷戦期を支配した「敵対関係」と決定的に違う点である。共存共栄の相互依存関係の下では、本質的に相手と敵対しない。相手を叩き潰せば、自分も共倒れになってしまうからだ。企業でも国同士でも、原材料や部品を供給してくれる取引相手を破滅させれば、自分が製品を作れなくなる。
西側は冷戦期、仲間同士でそういう共存共栄関係を築きあげて繁栄した。冷戦に勝利した後はロシアや東欧も暖かく仲間に迎え入れた。
ところが、世界はそれでハッピーとはならなかった。成長の果実を得られなかった地域で過激勢力が台頭してきたからだ。
節目になったのは、2001年9月11日に米国で起きた同時多発テロだった。
中国とは「ウィンウィン」になれない?
意外に思われるかもしれないが、ロシアと西側の一体化には、実はこのときの大規模テロが一役買っている。米同時多発テロがロシアの世界貿易機関(WTO)加盟を後押ししたのである。
ロシアは旧ソ連時代から世界貿易機関の前身である関税貿易一般協定(GATT)への加盟を希望していた。ところが、米国はソ連の自由貿易への姿勢を疑って加盟に反対していた。米国の姿勢を変えるきっかけになったのが、9.11テロなのだ。
どういうことかといえば、ロシアは9.11テロの後、テロリストと対決する姿勢を鮮明にした。米国はそれを評価し、ロシアの市場経済化を後戻りさせないためにも、ロシアのWTO加盟賛成に転じたのである。ロシアは12年にWTO加盟を果たす。
とりあえず、以上から何が言えるか。
ソ連崩壊後、しばらくの間、ロシアが相互依存関係を重視して平和と繁栄を目指したのは間違いない。日米欧もそう認識したからこそ、G7の新たな仲間として迎え入れた。
ところが、事態はガラリと変わってしまう。ロシアは13年3月、クリミアに侵攻した。日米欧は露骨な主権と領土の侵害を看過できず、ロシアをG8から追放する。以後のロシアは相互依存の強化ではなく、かつての敵対関係に逆戻りしてしまったかのようだ。
ロシアだけではない。中国もそうだ。
中国はロシアより一足早く01年にWTOに加盟し、市場経済化と自由貿易に基づく平和と繁栄を追求するかに見えた。ところが、江沢民政権時代から次第に対外強硬路線に傾斜していく。いまの習近平国家主席が実権を握った12年以降は覇権主義的思考が一層、鮮明になった。
中国は相互依存関係を強めようとしているのか、それとも敵対関係に逆戻りしようとしているのか。日本にとっては、ここがもっとも重要な点である。私ははっきり言って「中国は敵対関係に戻りつつある」とみる。
中国はときに「ウインウイン関係」という言葉も使う。だから、あたかも相互依存を目指しているように思われるかもしれない。それは目くらましだ。彼らのいう「ウインウイン関係」とは、私たちが理解しているような相互依存に基づく共存共栄関係ではない。単なる「互いの縄張り尊重」である。
それがはっきりしたのは、13年6月の米中首脳会談だった。
中露の無法が世界を狂わせた?
11月6日公開コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/46233)で書いたように、中国は米国との間で太平洋の縄張り分割を目論んでいた。
ハワイを分岐点に東側は米国の縄張り、西側は中国の縄張りとして米中が互いに尊重する。習国家主席はオバマ大統領にそういう提案をして一蹴された。
米中の縄張り談合が最終的に成立しなかったからこそ、3年半も拒否していた日中韓首脳会談にいまになって応じるハメになった。だからといって、縄張り思考を捨てたわけではない。
「南シナ海は古来から中国のものだ」という主張が証拠である。太平洋分割がうまくいかなかったから、より中国に近い南シナ海に舞台を移したにすぎない。そもそも「自分たちの縄張りとして尊重せよ」という思考自体が「他国と相互依存にある」という認識と相容れない。
「自分たちの繁栄のためには相手の繁栄が不可欠だ」という認識が欠如しているのである。
目的は自分たちの繁栄だけだ。「他国は他国の縄張りで勝手にやってくれ。オレの縄張りには触らせないよ」というヤクザの思考とまったく同じなのである。
縄張り思考は本質的に敵対思考である。自分の縄張りに入ってきたら、相手を蹴散らすと考えている。南シナ海で起きている事態は、まさに敵対思考そのものだ。米国のイージス駆逐艦が人工島周辺に進入してくると「必要なあらゆる措置をとる」と威嚇した。実際には、何もできなかったが…。
中東のテロリストたちがここ数年で一段と過激化した背景には、中国とロシアの無法がある。ロシアがクリミアに侵攻し、中国が勝手に「南シナ海も尖閣諸島もオレのもの」と言っているなら、「イラクとシリアの砂漠はオレの国」と言って何が悪いのか。テロリストはそう考えているに違いない。
中国とロシアの無法がテロリストに伝染し、無法と残虐行為を一層、加速させている。言ってみれば、いま中学校の学級崩壊が世界レベルで起きている。そんな事態である。
放置すれば、どうなるか。無法は一段と過激化し、世界の縄張り分割が進むに違いない。それで平和は実現しない。本質的な敵対関係が残るからだ。
敵対思考は過激派組織「イスラム国」(IS)に対する反撃でも、一段と鮮明になっている。典型がフランスとロシアによる共同作戦の合意だ。フランスはクリミアに侵攻したロシアに対して制裁を課している。にもかかわらず、対イスラム国でロシアと共闘するのは、双方が「敵の敵は味方」とみたからだ。
航空機を爆破されたロシアにとっても、テロ事件を起こされたフランスにとっても、敵はイスラム国で共通している。つまり両国を動かしたのは敵対思考であり、けっして双方が相互依存関係にあると認識したからではない。ということは、もしもイスラム国が滅びれば、両国は再び敵対する可能性もある。
こうした敵対思考は今後、ますます強くなっていくだろう。
敵対思考に傾斜した相手に対して、いま相互依存思考で語りかけるのは間違っているだけでなく、効果もなく危険である。思考の原理そのものがまったく異なるからだ。
敵対思考は基本的に相手を「敵か友人か」で判断する。これに対して、相互依存思考は基本的に相手を友人として扱う。
経済原理を重視するエコノミストは相互依存思考で世界を理解しようとする。相互依存を深めれば、自然に平和も達成できると考えて、相手を相互依存原理で説得しようとする。「話せば分かる」という議論である。
だが、いま私たちが向き合っているテロリストや中国は初めから「話して分かる」相手ではない。いつかは話して分かる可能性もあるかもしれないが、まずは話しても分からない相手という認識に立って、戦略を組み立てなければならない。相手は自分たちを敵とみているのだ。
「平和と繁栄の時代」は終わった
中国に比べれば、日本にとってはロシアのほうがまだましかもしれない。
ロシアはソ連崩壊を経験し、G8のメンバー国になった経験もある。しかも、いま経済は中国以上に停滞し、とりわけ日本の経済協力は是が非でも手に入れたい。だから、ロシアとは相互依存関係に基づいた取引が成立する可能性が残っている。
だが、中国はいまだ南シナ海支配の妄想にとりつかれ、経済もようやく崩壊劇が始まったばかりである。米国と覇権を競って負けたロシアに比べれば一周遅れ、いや二周も三周も遅れているのだ。
いま、中東のテロリストたちは相互依存関係の構築など、まったく頭の片隅にもないだろう。彼らはどんな暴力に訴えても、自分たちの縄張り構築が最優先と思っている。
私たちが相互依存原理を捨て去る必要はまったくないし、いつか日本が中東の繁栄に一肌脱ぐ日もくるだろう。だが、いまテロリストたちに「話せば分かる」式で対応しても仕方がない。
「武力の応酬で問題は解決しない」という主張は一見、美しく響くだけで、どうすべきか、何も政策を語っていない。日本は日本自身の存立が脅かされない限り武力行使をしないが、テロリストとの戦いでフランスと連帯すべきである。
フランスは国境の監視強化どころか、非常事態宣言を発して令状なしの家宅捜索、逮捕に踏み切った。この後、テロ防止対策に法改正や憲法改正にも乗り出す方針という。人権宣言をしたフランスでさえも、テロと戦争の時代には人権の制限もやむを得ない、という現実的判断に立っている。
日本が対応しなければならないのは、そんなテロリストと中国、それから北朝鮮なのだ。テロリストも中国も北朝鮮も相互依存思考ではなく、敵対思考にとらわれている点で共通している。そういう原理の文脈においてこそ、テロはけっして他人事ではない。
残念ながら、世界は「平和と繁栄の時代」から「テロと戦争の時代」に完全にモードチェンジした。いまは、その意味をかみしめる必要がある。
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政治家やマスコミのの中には「世界の情勢や歴史」を知らずして安全保障を語っている人がいますが、そんなことをやるから混乱や危機が起こるんですよね。
どことは言いませんが。